この都市の大きなイベントでたくさん人が集まってくる。俺は自分の職場のメンバーとイベントに足を運んだ。
「賑やかだな!」
あまり交流のない人たちも集まっている。本当に大きなイベントだ。それぞれがそれぞれでグループを作り集まっていた。
俺の仲間たちも、外で知り合いになった人達にも声をかけて少しずつ輪を広げている。
色々な人が集まって談笑している中でも、ハッキリ聞こえてしまう彼女の声。
思わず振り返って視線を送ると、彼女も職場の人たちと一緒に来ていた。楽しそうに笑っている。
その無邪気な笑顔が他の誰かに向いていることに、チクリと胸が痛んだ。
自覚……したくない。
目を閉じていたい、この気持ち。
蓋を無理矢理したまま、今日のイベントを楽しむ。それが百パーセントの楽しみ方では無かったとしても、今できる全力で楽しんでいたんだ。
遠くに聞こえる彼女の声を聞きながら。
――
「そんなこと、ありましたっけ?」
「あったよ、あのイベントのこと忘れちゃった?」
正面には恋人になった彼女がいて、俺の思い出話を聞いて疑問を投げてくる。
実際にあのイベントで話はしていない。けれど、俺は彼女を目で追っていた。
「えー、話してくれれば良かったのにー!」
「会社の人も多かったから話しかけづらかったの」
「そっかー……」
頬をふくらませながら、彼女は俺の肩に頭を乗せ寄りかかってくる。
俺も身体を彼女に傾けて、寄りかかりやすい体勢を取りながら彼女の肩を抱き寄せた。
「今なら話しかけてくれますか?」
彼女の声は俺に甘えているみたいで、そっと耳打ちしてくれる。その距離はあの時と違って耳元までに近い。
「そりゃ、今は大手を振って話しかけられる立場だからね」
もう遠くの声じゃなくて、遠いならそばに行ける距離の関係、だからね。
おわり
三三五、遠くの声
4/16/2025, 1:10:28 PM