ソファに座っている彼の隣に座って、彼の肩に頭を乗せる。彼は抵抗するどころか、受け入れるように肩を少し下げてくれた。
彼の視線はスマホにあるけれど、私の身体を受け止めてくれる。
だいすき。
言葉にしないで、ただ身体を寄せる。
彼の体温は私を安心させてくれた。
しばらく彼は何も反応もしない。それでも私は彼の身体にも手を伸ばして絡みつくように抱きつく。
「あったかい」
彼がそうぽつりと呟いたと思うと、彼はスマホをローテーブルに置いて私を抱きしめてくれた。
かと思うと、膝と背中に腕を伸ばして、お姫様抱っこで持ち上げられて、ソファに沈められる。
「ふえ?」
そのまま彼の唇が落ちてきて、甘い時間がスタートされた。さっきまで特に構ってくれていたわけじゃなかったけれど、そばにいると手を伸ばして私を求めてくれる。
指と指が絡み合って、唇が重ね合っていく。
彼の熱が身体中に伝わった。
おわり
三三六、静かな情熱
この都市の大きなイベントでたくさん人が集まってくる。俺は自分の職場のメンバーとイベントに足を運んだ。
「賑やかだな!」
あまり交流のない人たちも集まっている。本当に大きなイベントだ。それぞれがそれぞれでグループを作り集まっていた。
俺の仲間たちも、外で知り合いになった人達にも声をかけて少しずつ輪を広げている。
色々な人が集まって談笑している中でも、ハッキリ聞こえてしまう彼女の声。
思わず振り返って視線を送ると、彼女も職場の人たちと一緒に来ていた。楽しそうに笑っている。
その無邪気な笑顔が他の誰かに向いていることに、チクリと胸が痛んだ。
自覚……したくない。
目を閉じていたい、この気持ち。
蓋を無理矢理したまま、今日のイベントを楽しむ。それが百パーセントの楽しみ方では無かったとしても、今できる全力で楽しんでいたんだ。
遠くに聞こえる彼女の声を聞きながら。
――
「そんなこと、ありましたっけ?」
「あったよ、あのイベントのこと忘れちゃった?」
正面には恋人になった彼女がいて、俺の思い出話を聞いて疑問を投げてくる。
実際にあのイベントで話はしていない。けれど、俺は彼女を目で追っていた。
「えー、話してくれれば良かったのにー!」
「会社の人も多かったから話しかけづらかったの」
「そっかー……」
頬をふくらませながら、彼女は俺の肩に頭を乗せ寄りかかってくる。
俺も身体を彼女に傾けて、寄りかかりやすい体勢を取りながら彼女の肩を抱き寄せた。
「今なら話しかけてくれますか?」
彼女の声は俺に甘えているみたいで、そっと耳打ちしてくれる。その距離はあの時と違って耳元までに近い。
「そりゃ、今は大手を振って話しかけられる立場だからね」
もう遠くの声じゃなくて、遠いならそばに行ける距離の関係、だからね。
おわり
三三五、遠くの声
俺の前に落ちてきた花びらを、咄嗟に手に乗せた。
小さなひとひらの花びらに愛らしさと愛着を覚えて、ふと彼女の顔を思い出した。
「会いたいな」
でも、理由もなしに会うのもな。新しいクリームソーダを渡しに行こうか。
そもそも出勤しているのだろうか。
救急隊の仕事で会うにしても、彼女が怪我をしているから却下だし……。
「会いたい……な……」
つぶやく言葉は無意識で。ピンクとは縁のない彼女だけれど、愛らしさで彼女を思い出した。
あの笑顔が見たい。
彼女と話したい。
同じ時間を過ごしたい。
ひとひらの花びらと共に、落ちていく春の――。
おわり
三三四、春恋
かねてから同棲してお付き合いをしている彼女にプロポーズをしまして。心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど緊張したけれど、優しい笑顔で「YES」の答えをもらった。
あああ、良かったぁ!!
一緒に住んでいて、子供の話もしている。もう少し広い家に引っ越そうかとも話しもしていた。
この状態で断られたら目も当てられないけれど、本当に安心した。
彼女と一緒の未来がいいな……。
と、ぼんやり思っていた未来図だけれど、彼女と一緒の未来を手にするために、俺はどうしたらいいのだろうと具体的な考えを持つようになった。
結婚もそのひとつ。
彼女との未来を実現するために、一歩ずつ歩いていく。
彼女のそばにいるために。
おわり
三三三、未来図
昼休憩の時間、少し暖かくなったこともあって外で食べようと外出した。
普段行かないお店に行ってみようと、散歩がてら歩いてみる。空気が甘い香りがして、春らしさを覚えた。
「ん?」
ふわりと花びらがひとひら俺の前を通り、ゆっくりゆっくりと落ちていくから手を伸ばす。
音もなく手のひらに落ちる花びらが可愛らしくて、何故か愛着を持ってしまった。
「……彼女に見せたいかも」
ポケットからティッシュを出してはさみ込む。
このままだと不安だから、メモか、スマホにはさもうかなとポケットを漁った。
スマホとティッシュにはさむと、自然と笑みがこぼれた。
「一緒に帰ろ」
おわり
三三二、ひとひら