運転の練習は今日も続く。
一度しっかりと彼から教えてもらった運転。
『ポイントとして三つあるけれど、まだ二つしか教えてないんだよね』
初めて教えてもらった時に、そう言ってくれた。
あの時はタイムリミットが来てしまったけれど、あの言葉を現実にできるように頑張るのは自分なのだ。
『なら、もっと上手になったら三つ目を教えてもらえますか?』
『もちろん、いいよ!』
『じゃあ……また?』
『うん、またね!』
そう、笑ってくれた。
私は、彼の笑顔がまた見たい。
人通りの少ないところで練習をする。細かい動きにも神経を澄ませ集中して動かしていく。
「もっと上手になって、また教えてもらうんだ!」
運転を教えてもらった時の時間は特別なものだった。
苦しいことも、悲しいことも、鼓動が早くなる大切な気持ちも誤魔化して。それでも彼の笑顔が傍にあった。
ドキドキしたけれど、そんな気持ちに自分が支配されたら、あの時間を無駄にしてしまう。だからあの時は自分の気持ちをしまって練習に集中した。
集中、集中するんだ!
もっともっと練習して、彼の笑顔を見るんだ。
『またね!』
大好きな彼の笑顔を見るために、私は教えてもらったことを思い出しながら練習を続けた。
次の練習の時には、上手くなったことを褒めてもらうんだ。
おわり
三一九、またね!
最近の寒暖差、やばくない?
こんなの続いたら健康体だって体調崩しちゃうよ。
服で調整しているけれど、これは地味に堪えるなあ……。
昨日までは真冬の寒さ。
でも本気の真冬の気候とは違うキンとした鋭い冷たさが肌に刺さる感じがなく、どこか穏やかでそれが春を感じさせる。
俺はスマホから天気予報を覗くと明日からはまた一気に気温が上がるようだ。
気がつけばもうすぐ四月。
そろそろ風が春を連れてきてくれる……よね?
おわり
三一八、春風とともに
後から知る事実は胸を締め付けるもの。
何度も、何度も、何度も、何度も!!!
別れはその人が決めたこと……だけれど、後から聞く方の身にもなって!!!
目頭が熱くなって堰を切ったように涙が溢れる。
私は手のひらを伸ばしたけれど、虚しく空を掴むだけだった。
届かない。
いつも、届かないの。
空を掴んでいた私の手が、誰かに取られる。
「――ちゃん!!」
悲痛な声が耳に入って、私は目を覚ました。
「大丈夫!?」
恋人が私の顔を真剣な顔で見つめている。私の手を彼がしっかりと握っていた。
ボロボロとこぼれる涙がとめどなく流れて止められない。そして彼の胸に飛び込んだ。
彼は何も聞かずに私を力強く抱き締め返してくれる。
「俺は……そばに、いるから……」
絞り出すような声、そして彼の温もりが私の精神を落ち着かせてくれた。
おわり
三一七、涙
「あーん」
何気なく俺の目の前に出されるスプーン。そこにはバニラアイスクリームがちょんと乗っている。
恋人が自分の前にあるクリームソーダのアイスクリームをすくって、俺の前に差し出していた。とんでもなく眩い笑顔で。
本当に唐突だからびっくりしていると、彼女が頬を膨らませる。
「食べられませんか?」
「いや、そういう訳じゃないよ」
ここが外じゃなくて良かったと思いながら口を広げると、彼女は差し出したスプーンを口に運んでくれた。
甘いバニラが口に広がるんだけれど、いつもより美味しく感じられる。
「おいしい……」
「おいしいです?」
「うん、おいしい!」
「魔法かけましたー!」
無垢な笑顔でそう言う彼女が愛おしいくて、幸せが広がった。
おわり
三一六、小さな幸せ
彼から運転を教えてもらった。
それをしっかり吸収する。
私は彼から教えてもらったものを、なにひとつも無駄にしたくない。
走る車両のスピードが上がると、森林を抜け視界が広がる。木々の影から光が差し込んだ。
「ふわっ……!」
道路の端に車を停めて、その光景に目を奪われた。
青の中に桃色の花びらが舞い踊って、溶け込んで一枚絵のようだった。
春を身体に感じられる。
練習していたからこそ、見られた景色に胸と目が熱いものが込み上げた。
深呼吸をすると優しい花の香りと、少し前の森の香りが混ざり合う。
「春だぁ……」
今度、こんな景色を見た。
そう彼に伝えよう。
私はもう一度深呼吸して練習に戻った。
おわり
三一五、春爛漫