こういううっかりは、いつかすると思っていたよ。
彼女から道に迷ったと連絡があって、嫌な予感がした。
「ねえ。そう言えば昨日の夜、スマホ充電した?」
『……してないかも……』
こういうタイミングに限ってー!!
なんかそんな気がしたんだよね。
「どれくらいで充電切れそう?」
『分からないですけど……』
「確認してみて」
ゴソッと音が聞こえる。
『……15%でした』
「ウソでしょ!?」
『仕事でも今日使ったんです』
「より充電しなきゃダメでしょ!?」
と、話している間にも充電は減っていく。
「ごめん。とりあえず充電が無くなると困るからメッセージでやり取りしよ」
『はい、ごめんなさい』
「今後、家に帰ったら充電チェックするからね!」
『はーい』
ごめんなさいと言っているけれど、さすがに今みたいな状況はヤバすぎる。可愛いけれど注意はしなきゃ。
とりあえず通話を切ってから、彼女が行ったであろう場所の近くまでバイクで向かう。
バイクを駐輪場に停めて、元々の待ち合わせの場所に向かうが当然彼女はいない。
「さて……」
どこから捜そう……。
とはいえ、救急隊で救助や捜索もするからな。
本気で捜すからね。
見つけたら、充電器を渡して彼女から離れないようにしないと。
「本当にどこへ行ったんだか……」
深呼吸をしてから、俺は彼女の性格や仕事で培った経験を元に探しに行った。
おわり
三〇七、どこ?
夕食後、彼女とソファに座って微睡んでいた。
いたんだけど……。
彼女が俺の身体に絡みつくようにひっつき、ふわふわと緩みきった顔をしていた。
身体をある程度鍛えている職業だから、少しくらいなら耐えられるんだけれど、まあまあいい時間このままだったりする。
彼女に視線を送ると、嬉しそうに、幸せそうに緩みきった表情で俺にしがみついていて、重い……とは言いにくい。
でも、足も痺れてきて、限界が近いと思った。
俺は彼女を持ち上げて、隣に座らせると頬がぷっくりと膨らんだ。めちゃくちゃ不満顔してる〜。
俺は少し考えたあと、彼女の頭を撫でた。
「ごめん、ベッドで横になろう。そうしたらもう好きにしていいよ」
その言葉を聞くと、ぱあっと花が咲いたような可憐な笑顔に戻る。
その後はベッドでゴロゴロしながら、彼女が幸せそうな顔をして俺に抱きついた。やっぱり絡みついているという言葉が正しい。
「安心します……」
本当にさ。
本当に俺のこと大好きだよね。
おわり
三〇六、大好き
むかむかむかむか。
お腹の中に嫌な感情が燻っていた。
――
自分が所属している救急隊の中でイベントを開催することになった。
そこで受付をすることになったんだけれど……参加者に仲のいい彼女が男友達と一緒に参加することを知った。
むかむかむかむか。
嫌な感情が身体を駆け巡る。
彼女が楽しそうにしていればしているほど、上手く笑顔が作れない。
「お願いします!」
そう屈託なく笑う彼女が胸を締め付ける。
準備のために少し談笑するけれど、なんか納得いかなくてモヤモヤしてしまう。
「はい、行ってらっしゃい」
「はーい、行ってきますねー!」
俺は今日スタッフで。
彼女は別の人と参加していて……。
「俺が一緒に行きたかったな……」
そんな、図々しい願い。
おわり
三〇五、叶わぬ夢
カラッカラに水分が飛んだ真冬がおわりを告げようと雨が降る日付が多くなってきた。
冬から春に向けて季節が変わってきているんだなと感じて、時間の経過に嬉しくなった。
そんなことを考えながら、窓から雨のにおいを嗅いだ後に窓を閉める。
すると玄関から音が鳴り、愛しい恋人の声が響いてきた。
「ただいま帰りましたー」
当たり前のように玄関の方に向かう。どちらかが帰ってくると出迎えてハグをするのが日課だったからだ。
「おかえり。雨、大丈夫だった?」
「今日は車で行ったから問題ないです!」
彼女を視界に入れた瞬間、ふわりと甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。彼女は白と水色の花束を持っていた。
「どうしたの、それ?」
「ああ、これ友達がくれたんです」
彼女の友達に花屋の店長がいるから、ホワイトデーに合わせてくれたのかな?
花束はそこまで大きいものでは無かったけれど、彼女の好みや雰囲気とあっていて……その……凄く可愛いんだ。
「かわいい」
「へ?」
「あ、ああ、いや、花瓶あったっけ?」
「ふふ、買ってきちゃいました!」
彼女は花と花瓶が入っているだろう袋をテーブルに置いてから、俺に振り返る。
そして両手を広げて俺の胸に飛び込んできた。
やっぱり、甘い香りがする。
花の香りと共に彼女の特有の香りが。
おわり
三〇四、花の香りと共に
沢山の人だかりの中で見つけた彼女。
彼女の職場は女性社員が多いし、ファミリー感がある。
そんな中で、どこからの関係か分からない異性と楽しそうに話して笑っている姿を視界に入れてしまった。
その笑顔が他の男に向けられていると理解した時から、どことなく落ち着かない。どうしてもソワソワしてしまう。
俺の知らない笑顔や笑い声を聞いて、強烈に胸が締め付けられた。
ふと、彼女が俺を見つけて手を振ってくれた。
俺の知っている笑顔……だけど、さっきの笑顔より嬉しそうな顔に見えてしまったのは贔屓目だからなのかな。
心のざわめきが無くなっていく。
俺も単純なんだよ。
君をひとりじめしたいんだ。
おわり
三〇三、心のざわめき