カラッカラに水分が飛んだ真冬がおわりを告げようと雨が降る日付が多くなってきた。
冬から春に向けて季節が変わってきているんだなと感じて、時間の経過に嬉しくなった。
そんなことを考えながら、窓から雨のにおいを嗅いだ後に窓を閉める。
すると玄関から音が鳴り、愛しい恋人の声が響いてきた。
「ただいま帰りましたー」
当たり前のように玄関の方に向かう。どちらかが帰ってくると出迎えてハグをするのが日課だったからだ。
「おかえり。雨、大丈夫だった?」
「今日は車で行ったから問題ないです!」
彼女を視界に入れた瞬間、ふわりと甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。彼女は白と水色の花束を持っていた。
「どうしたの、それ?」
「ああ、これ友達がくれたんです」
彼女の友達に花屋の店長がいるから、ホワイトデーに合わせてくれたのかな?
花束はそこまで大きいものでは無かったけれど、彼女の好みや雰囲気とあっていて……その……凄く可愛いんだ。
「かわいい」
「へ?」
「あ、ああ、いや、花瓶あったっけ?」
「ふふ、買ってきちゃいました!」
彼女は花と花瓶が入っているだろう袋をテーブルに置いてから、俺に振り返る。
そして両手を広げて俺の胸に飛び込んできた。
やっぱり、甘い香りがする。
花の香りと共に彼女の特有の香りが。
おわり
三〇四、花の香りと共に
沢山の人だかりの中で見つけた彼女。
彼女の職場は女性社員が多いし、ファミリー感がある。
そんな中で、どこからの関係か分からない異性と楽しそうに話して笑っている姿を視界に入れてしまった。
その笑顔が他の男に向けられていると理解した時から、どことなく落ち着かない。どうしてもソワソワしてしまう。
俺の知らない笑顔や笑い声を聞いて、強烈に胸が締め付けられた。
ふと、彼女が俺を見つけて手を振ってくれた。
俺の知っている笑顔……だけど、さっきの笑顔より嬉しそうな顔に見えてしまったのは贔屓目だからなのかな。
心のざわめきが無くなっていく。
俺も単純なんだよ。
君をひとりじめしたいんだ。
おわり
三〇三、心のざわめき
沢山人が集まっている。
イベントでこの都市の住民が集まっていた。
これだけ人数がいても、聞き取れてしまう声。
集まった友人達と話していたけれど、視界を変えるたびに声の主を探してしまう。
笑顔で対応しているし、話もちゃんと聞いている。それでも合間合間に彼女を探してしまった。
「もう、社長ー!!」
楽しそうな笑い声が聞こえた。
それだけで、どきりと胸が弾んだ。
会話が一段落した時、視線を声の方に向けると結構離れた場所に女性たちが集まって談笑している。その中の一人に彼女がいた。
言葉にならない気持ちが胸を締め付ける。
なんでもない会話を続けながら、どうしても彼女を追いかけてしまう。
一瞬、彼女と目が合った気がした。
彼女を見ていたことを気が付かれたかな?
そう思うと、彼女を視界に入れにくくなった。
どうしよう、話したい。
少し一人になりたい。
そう思って、みんなの輪から離れると、やっぱり彼女を探す。
話したい。
声が聞きたい。
ねえ、どこにいるの?
どうしても。
俺は彼女を探してしまうんだ。
おわり
三〇二、君を探して
色素の薄い俺の恋人。
陽射しに当たると、そのまますり抜けそうだった。
「どうかしましたか?」
きらきらした太陽の光を背景に彼女が俺をのぞき込む。
「きれいだなって……」
彼女は不思議そうな顔をして、周りを見渡して首をかしげた。
「なにがですか?」
そう言いながら首をかしげる。俺言葉は自分のことだと、認識していないようだった。
「あまり陽にあたると良くないかもだから、こっちおいで」
そもそも色素が薄いのだから、紫外線に晒されると肌に良くない。
何を言われているのか理解出来ていなくても、俺がそばに来るよう言ったのは分かったので、彼女は俺の腕の中に収まる。
頭を撫でると、透明感のある彼女の髪の毛が柔らかくて心地いい。
「君がきれいだって言ったんだよ」
それだけ呟くと、驚いたような空気をまとうけれど、すぐに俺の身体に手を回した。
「ありがとうございます」
おわり
三〇一、透明
「終わった……」
ぐったり。
家に帰ると、ソファに脱力して座る。
今日は時々ある隊員が少ないのに、患者がひっきりなしに来る日だった。
そう、つまりはとんでもなく忙しい日だ!!!
「ちかれた〜……」
声すらも力をなくしているけれど、疲れたという言葉だけは溢れ出る。
「お疲れ様です」
俺の頭を優しく撫でながら、手作りしてくれたクリームソーダを持ってきてくれた。
「疲労回復にクリームソーダです!」
そう言って俺の手にバニラアイスが輝くクリームソーダを渡してくれる。
シュワシュワのメロンソーダにうさ耳っぽい型を取った小さいチョコレートをバニラアイスに二つ挿してくれていた。
「アイスがうさぎぃ……」
「可愛いですよね」
「ありがとぉう……」
「本当にお疲れだ」
彼女が作ってくれたクリームソーダは甘さがちょうど良くて炭酸が喉に心地いい。
彼女は俺のクリームソーダにのっているアイスをスプーンですくって俺に向けた。その笑顔は慈しみが込められていて、愛しさが身体全体に染み渡る。
「はい、あーん」
ああ、どうやら今日は全力で甘やかしてくれるみたい。
俺はそのまま口を開けると、優しくスプーンが口に入る。そうすると濃厚なバニラが口に広がった。
「とろける〜」
相当だらしのない顔をしていたみたいで、彼女はくすくすと笑ってくれる。
「明日のシフトは?」
「普通ですぅ〜」
「じゃあ早く寝なきゃ、だ」
「うんん……」
正直、もう眠くて気を抜いたら眠ってしまいそうだった。
「なら、早くお風呂に入って休んでくださいね」
頑張って頷く。身体は睡魔に身を任せようとしてくるけれど、なんとか奮い立たせる。
「はい、頑張ってくださいね」
今日は終わるけれど、また明日が始まる。
その隣に彼女がいてくれるなら、俺はまた頑張れるよ。
おわり
三〇〇、終わり、また始まる、