彼女を迎えに行って、仕事終わりにドライブデート。
高速道路を走り抜けていく。今日は長距離にして星を見に行きたいと思った。
暗い夜のはずなのに、ビルや街灯の光がキラキラして星の合間を抜けていくようで不思議な気持ちになる。
見慣れた景色だけれど、彼女といれば違う景色に見えた。
少しずつビルの光が減り、街灯の数が減る。
「暗闇が広がるかわりに、天の星が増えていくみたいですね」
ぽつりと零す彼女の言葉に、案外ロマンチストなのかなと、彼女の知らない部分を見つけて嬉しくなった。
「夜空を走ってきて、夜空を見に行って……」
「また夜空を走って帰るんですね!」
弾む声が今楽しんでいるのを伝えてくれる。
「そうだね、まずは空にある星を見よう!」
おわり
二八一、夜空を駆ける
見ないふりをした感情。
紛れもない彼女への恋情。
俺は着ているシャツをぐしゃりと握った。
この気持ちに気が付かなかったら良かったのに。このまま推し潰せればいいのに。
でも、そんなことは無理で。
どうしたって彼女を視界の中に入れてしまうし、ふと視線を送ってしまう。
異性と二人っきりで話していると、それが本当に楽しそうだと胸の中がモヤモヤして仕方がない。
でも。だからこそ、面を付けるんだ。
彼女への密かな恋情に、お面でフタをするんだ
それでも。
彼女と二人で話せる瞬間は、胸が温かくなるし、自然と口角が上がってしまう。
隠しきれない〝好き〟という気持ちが溢れてしまうから、やっぱり面を付けるんだ。
恋はしないと決めたのに、彼女の笑顔は簡単にその決め事を取っ払ってしまうから、俺も気持ちを抑えられなくなりそうだった。
おわり
二八〇、ひそかな想い
だいすきなママがつれていってくれた、まっしろなところ。
ママがはなしていたひとにだっこされたとき、さみしくて、かなしくて、なみだがとまらなくなった。
「わあああ、ごめんねぇ!!!」
「やっぱりダメかー!」
ママにぎゅっとしてもらって、あんしんしてなみだがとまる。
とおいところから、「出っ勤!!」とおおきいこえのおにいさんがきた。
「え? 子供?」
おにいさんはびっくりしていたけれど、うーんってしてから、にっこりしてくれた。
そして、みどりいろののみものに、バニラアイスがのっているのみものをくれた。
「クリームソーダだよ〜、飲む?」
おにいさんのめはやさしくて、ママとおなじくらいあったかいきもちになる。
わたしはうなずくと、のみものにてをのばした。
ママがわたしをだっこしてくれたけれど、おひざにのせてくれた。するとおにいさんは、わたしのめのまえにすわってくれた。
「クリームソーダ、好きなの?」
やさしいこえのおにいさん。
わたしはそうだよっていいたくて、うんうんってする。おにいさんは、みどりののみものをゆっくりとのませてくれる。
「!!」
しゅわしゅわ!
あまくてほっぺがとけそう!
うれしくて、のみものをのんでいると、おにいさんはバニラアイスをスプーンにのせてもってきてくれる。
おにいさんのおかおがやさしくて、おいしいってわかるから、あーんした。
おにいさんはだれ?
ママじゃないのにポカポカするの。
のみおわると、ママはわたしをおにいさんにむける。こんどはおにいさんがだっこしてくれた。
おにいさん、あったかい。
ポカポカする、おにいさんはだぁれ?
はじめてママじゃないのに、あったかいの。
――
うっすらと、残るか残らないかの記憶。
考えると現実味のないファンタジーの奇跡。
心がポカポカするお兄さんは今、私の大切な人でした。
おわり
二七九、あなたは誰
手紙……というほどではないけれど。
私は適当な紙に、思っていたことを書き出した。
ぼんやりしては書いて、書いてはぼんやりして。
考えて書くことじゃなく、その時に思いついたことを、思いついた気持ちをひたすらに書きつづった。
最後の一文を見つめると胸が締め付けられてしまう。
〝彼が好き〟
そんな単純な言葉。
最初から読み直すと、読んでいる途中から顔が熱くなる。
これじゃ、ただの熱烈なラブレターだ。
折りたたんで、私の気持ちと一緒に引き出しにしまい込む。
いつか気持ちを伝えたいけれど、彼に迷惑がかかってしまうかもしれない。
そんなことを思うと、言葉にできずに彼を見守ろうと思ってしまった。
――
「ねぇ、これなぁに?」
彼と一緒に住むことになって、引越しの手伝いをしてくれる彼が、どこか見覚えのある紙を渡してくれた。
なんだろうと、紙を開くと背中から彼もその紙を覗き込む。
最初の文章を読んで思い出した。
彼に片想いしていた時に、それだと気が付かずに書きつづった私の気持ちだ。
思わず隠そうとしたけれど、彼の動きの方が早くて、紙を上にあげて私が手を伸ばしても届かない。
「読んじゃダメ!」
彼はその言葉を聞かずに、じっと紙を、私の過去の想いを読むと緩んだ笑顔で私を見つめてくる。
内側から熱くなるし、恥ずかしくて彼から視線を逸らした。
すると彼に抱きしめられる。
「ねぇ、このラブレター。俺がもらってもいい?」
顔から火が吹き出るかと思った。
おわり
二七八、手紙の行方
彼女は甘やかな声で俺を呼んでくれる。
振り返るとその人が優しく微笑んだ。
透き通るような白い肌は、幼さの残る表情を大人びて見せるから、俺の胸が高鳴る。
もちろん、彼女の魅力はそれだけじゃないけれど。
外見が可愛いと思うより先に、彼女の優しさに惹かれた。
些細な思いやり。と言ってしまえば、全てがそれなんだ。
好きな色や、好きなものが一緒は偶然で。
俺が軽い気持ちであげたものを宝物にしてくれていて、それを当たり前に見せてくれた時は嬉しかった。
色々なものが積み重なっていた。
そして、彼女が俺を呼ぶ。
振り返ると、彼女の笑顔がキラキラと輝いていて、俺の心を捉えて離さない。
知ってはいけない感情を、見て見ぬふりも出来ないくらい見せつけてくる。
悔しいけれど。
俺はどうしようもないくらい、君に恋してる。
おわり
二七七、輝き