とある恋人たちの日常。

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2/7/2025, 12:31:09 PM

 
 俺には好きな人がいます。
 
 誰にでも笑顔だし、優しいし、思いやりのある女性だから、他の人からも好意を向けられている……気はする。
 
 請求書に添えてくれる他愛のない一言が嬉しくて、好きなものが同じものが多くて、無理に内側に入ろうとしてこなくて……。
 
 一緒に居て心地いいんだ。
 
 募っていく〝好き〟という気持ちをいつか伝えられたら良いと願ってしまう。
 
 誰も知らないけれど、誰にも言っていないけれど。
 多分、周りの人たちは少しづつ気がついている俺の秘密。
 
 
 
おわり
 
 
 
二六七、誰も知らない秘密

2/6/2025, 2:19:18 PM

 
 しんと静まる夜。
 今日は恋人が夜勤で居間にひとりでソファに座っていた。
 
 テーブルの前にはココアが湯気を失いかけている。それだけ時間が経った証拠。
 
 眠ろうとは思ったんだ。
 でも、彼が居ない寂しさに負けてしまった。
 
 まあ、明日はお休みだから、頑張って眠ろうとも思わなかった。
 
 そう。
 明日は私も彼も休みだ。
 彼が帰ったあと、彼にぎゅーってしてもらって眠ってから、のんびり買い物デートしよう。
 
 あのお店見て、こっちのお店を見て……。
 そんな想像をしていたら、少し楽しくなってきた。
 
 コップを手に取りココアを口に含むと、すっかり冷たくなっていた。甘さが控えめになっていて、苦味が目を覚ます。
 
 あ。
 
 窓の外に視線を送ると、下の方からオレンジ色が差し込んできていた。
 
 夜が明ける。
 
 もう少ししたら、彼が帰ってくる。
 そうしたら大好きな彼の笑顔が見られるんだ。
 
 私の静かな夜明けが終わる。
 
 
 
おわり
 
 
 
二六六、静かな夜明け

2/5/2025, 2:21:11 PM

 
 疲れた。
 肉体的にじゃなくて、精神的に。
 
 仕事もプライベートも楽しいんだ。
 人からもらう好意も嬉しい。
 
 楽しいけれど。
 嬉しいけれど。
 
 疲れる。
 
 そんな過去だった。
 
 
 
「大丈夫ですか?」
 
 ソファで目を覚ますと、恋人が俺を心配そうな顔で覗き込んでいた。俺の頬に手を伸ばして優しく添える。その体温の温かさに安心を覚えた。
 
 誰より愛しい彼女。
 
 俺は両手を伸ばして彼女を抱きしめる。
 
「どうしました?」
 
 彼女は俺を包み込むように抱き締め返してくれた。
 
 そう。
 あの時も、心が破裂しそうなくらい疲れていたんだ。
 
 そんな時、俺の心にその心で寄り添ってくれたのが彼女だ。
 心と心を合わせて、俺のストレスを解放してくれた人。
 
「もう少し、このままでいて」
 
 君がいれば大丈夫だから。
 
 
 
おわり
 
 
 
二六五、heart to heart

2/4/2025, 2:01:59 PM

 
「なにこれ?」
 
 家に帰って居間に行くと、見慣れない白い箱があって、俺は思わず恋人に疑問をぶつけた。
 
「えっと……もらったんです」
「中身なに?」
 
 彼女は少しだけ戸惑いながら、俺を見上げてから箱を開ける。すると中には白と水色と青い薔薇が敷き詰められていた。
 
「え。これって、プリザーブドフラワー?」
「は、はい」
 
 ん?
 なんか様子おかしいぞ。
 不自然なまでに視線を逸らす彼女。どことなく頬と耳まで赤くなってる。
 
「なんかあった?」
「あ、あぁ……いや、えっと……その……」
 
 ついにもじもじし始めた。
 
「えっと……聞かない方がいい話?」
「あ、いや……」
 
 パッと顔を上げて慌てて否定する。少し考えたあとに照れた顔で見上げた。
 
 ダメでしょ、その顔は。
 俺は君に惚れているんですよ?
 
 今度は俺の方が視線を逸らして手で顔を隠した。
 
「え?」
「あ、いや。なんでもないです、教えてください」
 
 すると、彼女が左手を差し出す。そこには俺がプレゼントした指輪が光っていた。もちろん、薬指にはまっている。
 
「こ、これを見た社長たちが、勘違いしてお祝いって……」
「ふぇ!!?」
 
 それはつまり……結婚祝い……。
 
 それに気がついたあと、一気に顔が沸騰したように熱くなる。
 
 彼女の反応はこれか……。
 
 照れた顔した彼女はとても可愛くて。
 俺も照れはあったけれど、気持ちは固まっている。だから彼女に指輪を渡したんだ。
 
 俺は彼女の手を取ると、照れながらも不安な表情で俺を見つめる。
 
「安心していいよ。俺はそのつもりだから」
 
 いつか。
 プリザーブドフラワーと共に、君に永遠を違う花束を贈るね。
 
 
 
おわり
 
 
 
二六四、永遠の花束

2/3/2025, 1:13:03 PM

 
 同棲する恋人とはケンカとか、言い争いとかほとんどしない。そもそもケンカにならないんだよね。
 
 俺はちゃんと説明するし、彼女も話をしてくれる。
 もちろん全部話すなんてことは無理だから、そういう時は〝言えない〟事を伝える。
 
 俺は救急隊だから、個人情報を取り扱うし、彼女も客商売だから、お互いの仕事で言えないことだってある。そこはふたりとも弁えている。と、思う。
 
 生活する上で、合わないこと……も、あまりないんだよなー。
 
 でも、これはお互いなんだけれど、ミスしてしまった時に自分を責めること。これが一番良くない。
 
 
「今の私にやさしくしないでください」
 
 ぷくぷくになった頬、シワがよる眉間。ほんの少し涙目に見える恋人を見ていると、何か大きなミスをしたのは分かった。
 
 俺もこういう時はある。
 これは何度言っても心に寄り添う言葉を伝えたいんだ。
 
「なにかミスしたの?」
 
 こくりと首を大きく縦に振る。
 
「人に迷惑かけちゃった?」
 
 しばらく止まったけれど、今度は小さく頷いた。
 
「あやまった?」
 
 それは強く頷く。
 
「いっぱい反省した?」
 
 これまた止まってから、その瞳に大きなしずくを溜めて、ゆっくり頷いた。
 
 俺は彼女の正面に回って胸におさめ、彼女の頭を撫でる。
 
「なら、俺は優しくします」
「だめ……」
「ダメじゃないの。謝って、いっぱい反省したんでしょ? これ以上、自分をいじめる方がダメ」
 
 その言葉を聞いた彼女は、声を殺しながら方を震わせた。
 
「反省したあと、分からないこととかあるなら、一緒に考えよ。俺じゃ力不足かもしれないけれど……」
「そんなことありません!」
 
 涙声が響き渡る。彼女は俺の言葉をさえぎって、しっかり俺を見つめた。
 
「力不足なんてないです。こうしてくれるだけで、私の心を助けてくれてます」
 
 彼女の腕が、俺の腰に回されてその体重が俺にかかる。彼女の温もりがゆっくりと伝わってきた。
 
「うん。じゃ、そばにいさせて」
「はい、ありがとうございます」
 
 こういう日は、極力そばにいて体温を分け合う。これが一番いい。
 
 
 
おわり
 
 
 
二六三、やさしくしないで

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