「ん、なんだろ?」
部屋の掃除をした時、タンスの裏に何か落ちていることに気がついた。
私はスマホを持ってきて隙間に光を当てると、折れ曲がった紙のようなものが落ちている。ホコリも被っていた。
手を入れるのは難しいから台所に行って何かないか探してみる。
「どうしたの?」
居間の方を掃除していた彼が私の行動に疑問を持ったみたいで、首をかしげて声をかけてくれた。
「タンスの裏に折れ曲がった紙が落ちているみたいで、拾った方がいいかなと思って……」
「……タンス?」
「はい」
何か神妙な顔をして考え込む彼を私はじっと見つめていた。しばらくするとハッと何か思い当たることがあったみたい。
「俺、心当たりある!! 俺が取る!!」
若干声が裏返りながら、物凄い勢いで垂直に手が上がる。その手の上げ具合が真っ直ぐに綺麗で思わず笑ってしまった。
「ふふ。分かりました。お願いします」
そう伝えると、彼は慌てて部屋に向かっていった。
……あやしいな。
なんだろ。
なんか動きが不自然。
隠したいことってあるのかな?
どうしよう……気になっちゃう。
しばらく今で休憩していると、一気に騒がしい声がする。その後で安心した顔の彼がホコリを被って戻ってきた。
「取れました?」
「取れたー! 見つかって良かったよー!」
髪の毛にホコリが付いていて、彼の髪の毛からはらい落とす。
「なにか聞いても……いいですか?」
「えっ!?」
明らかに焦った顔をしているし、私から逃げるように視線を逸らした。
「うわき?」
「しないよ!!」
「じゃあなに?」
彼は私の視線から逃げるように泳ぎまくる。そのまま顔も赤くなっていく。
「……むかし書いた、君への……らぶれたー……」
おわり
隠された手紙
二ヶ月ほど前、仕事に行く前にバイクの隅ににゃんこたちが迷い込んでいた。
これから寒くなる時期に放置していたら死んでしまいそうなか弱い生き物を放置できずに恋人と動物病院へ連れていった。
ふたりとも仕事で家に居ない時間が長いため、うちでは飼えない。住宅事情もある。
とは言え、放置もできないから動物病院を通して保護猫施設に預けることになった。
休みになると時間を作って保護猫として預けたにゃんこたちに会いにいっていた。
保護猫になっていたにゃんこたちは、拾った時に比べて良い環境、良い食事をしてきたのか愛嬌が溢れていき、少しずつ里親が見つかって家族ができていく。
明日、最後のにゃんこたちが里親に引き取られる日。
〝たち〟というのは、最後に残った二匹は常に寄り添ってずーっとイチャイチャしており、「二匹を離すなんて可哀想なこと出来ません!」と言う熱いお言葉を里親さんから聞いたとのことだ。
里親さんが迎えに来る前に、最後の挨拶をさせてもらえることになって、にゃんこ達を撫でさせてもらうことになった。
恋人とふたりでお邪魔して、それぞれでにゃんこを撫でていく。
「この子たちがしあわせなってくれるといいですね」
「そうだね」
うちでも引き取りたい。
そういう話しもしたんだけれど、やっぱり子猫を引き取るのは難しいとなった。
あまり長居するのも迷惑になるので、早めに退散することにした。
ケージに戻してから、にゃんこ達に手を振る。
よく分かっていないにゃんこ達は、またイチャイチャし始めていた。
「ばいば〜い」
「しあわせになるんだよ〜」
保護猫施設のご家族にお礼を伝えて家を後にすると、どうしようもなく寂しくなる。
今の時点では飼えない。仕事もそうだけれど、住宅事情もある。
だから、飼わない。
そう決めたのは俺たちふたりだ。
寂しくても飲み込まなければならない気持ちだった。
俺は彼女の手を取った。
「そのうち……ちゃんと考えて引っ越そうか」
〝ちゃんと考えて〟
その言葉には、〝家族になったら〟という気持ちを込めた。
家族になって、家族が増えて、家族を迎えて。
そんな気持ちに気がついた彼女は、花のような笑顔を向けて大きく頷いてくれた。
おわり
二六一、バイバイ
彼からもらった指輪を見つめる。
「どうしたの?」
その様子を見ていた彼が、私に声をかけてきた。
私は彼に視線を向ける。
「しあわせ〜」
そう言葉にしながら自然と顔がゆるんでしまう。その様子を見ていた彼が満面の笑みを浮かべて後ろから抱きしめてくれた。
「俺もしあわせ〜」
流れるように頬に柔らかい唇が触れる。そのまま首元を吸いながらくすぐってくる。本当にイタズラっ子のようだ。
「くすぐったいですよー」
そんなふうに彼とじゃれていると、彼が私の左手を取り二人の前にかざした。
「大好きだよ」
いきなりの告白に胸が高鳴る。でも、同じ想いを伝えたくて「私もです」と伝えながら、彼に体重を預けた。
「次はペアリングを買おうね」
それが何を意味するのか、分からないほど子供でもない。彼の顔は見えないけれど、私は心の底から彼への気持ちを込めてうなづいた。
「はい、一緒に買いに行きましょう!」
先はまだ分からない。
未来からすると、まだ旅の途中。
でも、分かっているんだ。
彼と一緒なら、私はしあわせだってこと。
おわり
二六〇、旅の途中
夕飯後ののんびり時間。
俺はソファに座って、その前に彼女を座らせていた。後ろから抱きしめて『猫吸い』のように彼女を吸っていた。
「くすぐったいですよ〜」
「癒されてるんだよ〜うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ〜」
くすくす笑いながら軽く身動ぎして俺の方に身体を向ける。そして手を伸ばして俺の頭を撫でた。
「お仕事、本当にお疲れ様です」
その様子に驚きつつ、正面からちゃんと撫でて欲しくて抱きしめていた手の力を抜く。それを理解した彼女はソファから降りて中腰になると正面から撫でてくれた。
俺は頭を撫でてくれていた手を取って、自分の頬に持っていく。
「甘えんぼさん?」
「んー……」
彼女は更に手を伸ばして俺を抱きしめて、その胸に収めてくれる。
えーっと……。
大変心地好いです……。
「いーっぱい甘えていいんですよー」
そう優しく囁きながら、後頭部を撫でくれた。
普段、甘えん坊なのは彼女の方なのに、お姉さんのような撫で方、甘やかし方に少しだけ驚いていた。
こんな風に甘えさせてくれるんだ……。
また知らない彼女を知って嬉しくなる。
付き合いは長くなったけれど、まだまだ知らない君がいてくれることに俺は安心した。
おわり
二五九、まだ知らない君
「ん、まぶし……」
お店から出ると燦々とと降り注ぐ太陽の光に手をあげて影を作りながら目を細めた。
これは目が慣れるまで時間がかかりそう。
私はさっきまで暗いお店にいた。お店のコンセプト的に明るくするのはイメージ似合わないからだ。
そんなお店に長い時間いた。
待ち合わせしていた彼が到着したと連絡があったからお店の外に出た結果、太陽の光に目が負けてしまったのだ。
「大丈夫?」
「んー、まぶしい……」
彼の方が私を見つけてくれて、声をかけてくれる。すると顔を覆って影を作っている手ではない方の手を取って、優しく引っ張ってくれた。
「ゆっくり動くけれど気をつけてね」
「ありがとうございます」
彼の手に引かれて、日陰に入る。
外側から来る光は眩いけれど、時間をかけてゆっくりと目が慣れて、大好きな彼の顔がはっきり見えた。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
心配そうに見てくる彼は優しくて、私にとっては太陽みたいな人。
やっぱり目を細めて口角が上がる。自然と笑顔になってしまった。
「ん? どうしたの?」
ふふっと笑いが込み上げてくる。
太陽から逃げたのに、私の太陽がそばにいる。
どっちもまぶしい。
おわり
二五八、日陰