彼からもらった指輪を見つめる。
「どうしたの?」
その様子を見ていた彼が、私に声をかけてきた。
私は彼に視線を向ける。
「しあわせ〜」
そう言葉にしながら自然と顔がゆるんでしまう。その様子を見ていた彼が満面の笑みを浮かべて後ろから抱きしめてくれた。
「俺もしあわせ〜」
流れるように頬に柔らかい唇が触れる。そのまま首元を吸いながらくすぐってくる。本当にイタズラっ子のようだ。
「くすぐったいですよー」
そんなふうに彼とじゃれていると、彼が私の左手を取り二人の前にかざした。
「大好きだよ」
いきなりの告白に胸が高鳴る。でも、同じ想いを伝えたくて「私もです」と伝えながら、彼に体重を預けた。
「次はペアリングを買おうね」
それが何を意味するのか、分からないほど子供でもない。彼の顔は見えないけれど、私は心の底から彼への気持ちを込めてうなづいた。
「はい、一緒に買いに行きましょう!」
先はまだ分からない。
未来からすると、まだ旅の途中。
でも、分かっているんだ。
彼と一緒なら、私はしあわせだってこと。
おわり
二六〇、旅の途中
夕飯後ののんびり時間。
俺はソファに座って、その前に彼女を座らせていた。後ろから抱きしめて『猫吸い』のように彼女を吸っていた。
「くすぐったいですよ〜」
「癒されてるんだよ〜うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ〜」
くすくす笑いながら軽く身動ぎして俺の方に身体を向ける。そして手を伸ばして俺の頭を撫でた。
「お仕事、本当にお疲れ様です」
その様子に驚きつつ、正面からちゃんと撫でて欲しくて抱きしめていた手の力を抜く。それを理解した彼女はソファから降りて中腰になると正面から撫でてくれた。
俺は頭を撫でてくれていた手を取って、自分の頬に持っていく。
「甘えんぼさん?」
「んー……」
彼女は更に手を伸ばして俺を抱きしめて、その胸に収めてくれる。
えーっと……。
大変心地好いです……。
「いーっぱい甘えていいんですよー」
そう優しく囁きながら、後頭部を撫でくれた。
普段、甘えん坊なのは彼女の方なのに、お姉さんのような撫で方、甘やかし方に少しだけ驚いていた。
こんな風に甘えさせてくれるんだ……。
また知らない彼女を知って嬉しくなる。
付き合いは長くなったけれど、まだまだ知らない君がいてくれることに俺は安心した。
おわり
二五九、まだ知らない君
「ん、まぶし……」
お店から出ると燦々とと降り注ぐ太陽の光に手をあげて影を作りながら目を細めた。
これは目が慣れるまで時間がかかりそう。
私はさっきまで暗いお店にいた。お店のコンセプト的に明るくするのはイメージ似合わないからだ。
そんなお店に長い時間いた。
待ち合わせしていた彼が到着したと連絡があったからお店の外に出た結果、太陽の光に目が負けてしまったのだ。
「大丈夫?」
「んー、まぶしい……」
彼の方が私を見つけてくれて、声をかけてくれる。すると顔を覆って影を作っている手ではない方の手を取って、優しく引っ張ってくれた。
「ゆっくり動くけれど気をつけてね」
「ありがとうございます」
彼の手に引かれて、日陰に入る。
外側から来る光は眩いけれど、時間をかけてゆっくりと目が慣れて、大好きな彼の顔がはっきり見えた。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
心配そうに見てくる彼は優しくて、私にとっては太陽みたいな人。
やっぱり目を細めて口角が上がる。自然と笑顔になってしまった。
「ん? どうしたの?」
ふふっと笑いが込み上げてくる。
太陽から逃げたのに、私の太陽がそばにいる。
どっちもまぶしい。
おわり
二五八、日陰
物音に気がついて、眠りの海から浮上する。
周りを見ると隣にいるはずの恋人が居ないことに気がついた。シーツに触れると冷たく、彼女が起きてそれなりに時間が経っていることが分かった。
血の気が引いていき、俺は慌てて身体を起こす。
「あ、おはようございます」
「どしたの?」
そこには外に出かけようとブーツを履いている恋人がいた。
「朝ごはん作っていたんですけど、材料で足りないものが出ちゃって、買ってこようと思ったんです。起こしちゃってごめんなさい」
苦笑いしながら、すぐ戻りますねと言うけれど、俺はその手を取った。
「……だめ、まって」
「え?」
俺は彼女を引き寄せて抱きしめる。
「起きたら居ないの、やだ」
「ごめんなさい。昨日遅かったから疲れているかと思って……」
彼女は宥めるように俺を抱きしめてくれるけれど、俺の気は収まらなかった。
「待ってて!」
「え?」
「俺も行く!」
「ええ!?」
俺は彼女の身体を離して、部屋に戻る。急いで服に着替えて鏡を見るととんでもないほどの寝癖が付いていた。
「……」
この寝癖……どうしてやろうかな……。
あ。
俺は玄関で待ってくれている彼女に顔を向けた。
「ごめん、この帽子貸して」
きょとんとした表情で俺を見つめるけれど、くすりと笑って首を縦に振ってくれた。
俺は彼女の少し大きな帽子をかぶって玄関に向かう。
「じゃあ、行こうか!」
「はい!」
そんなお休みの日の朝だった。
おわり
二五七、帽子かぶって
「あ、こんにちは!」
「こんにちは!」
彼女と出会ってから、挨拶をするようになった。
そこから好きな色、好きな飲み物が一緒だと知った。
少しずつ笑顔が見たくなる彼女。
もっとその顔が見たくて、小さな勇気を振り絞った。
「ねぇ、今度一緒に出かけない?」
俺の使っている社用車を修理している彼女に、なんでもないふりをしなから声をかける。それを言っても良いような関係値にはなった……と思うんだ。
彼女はひょこっと顔を俺に向けて、パッと笑顔になった。
「いいですよ! 行きましょう!!」
かわいい。
そう思ってしまったのが少し悔しい。
けれど、その笑顔が見れたのは凄く嬉しい。
そんな俺たちの恋の始まり。
おわり
二五六、小さな勇気