物音に気がついて、眠りの海から浮上する。
周りを見ると隣にいるはずの恋人が居ないことに気がついた。シーツに触れると冷たく、彼女が起きてそれなりに時間が経っていることが分かった。
血の気が引いていき、俺は慌てて身体を起こす。
「あ、おはようございます」
「どしたの?」
そこには外に出かけようとブーツを履いている恋人がいた。
「朝ごはん作っていたんですけど、材料で足りないものが出ちゃって、買ってこようと思ったんです。起こしちゃってごめんなさい」
苦笑いしながら、すぐ戻りますねと言うけれど、俺はその手を取った。
「……だめ、まって」
「え?」
俺は彼女を引き寄せて抱きしめる。
「起きたら居ないの、やだ」
「ごめんなさい。昨日遅かったから疲れているかと思って……」
彼女は宥めるように俺を抱きしめてくれるけれど、俺の気は収まらなかった。
「待ってて!」
「え?」
「俺も行く!」
「ええ!?」
俺は彼女の身体を離して、部屋に戻る。急いで服に着替えて鏡を見るととんでもないほどの寝癖が付いていた。
「……」
この寝癖……どうしてやろうかな……。
あ。
俺は玄関で待ってくれている彼女に顔を向けた。
「ごめん、この帽子貸して」
きょとんとした表情で俺を見つめるけれど、くすりと笑って首を縦に振ってくれた。
俺は彼女の少し大きな帽子をかぶって玄関に向かう。
「じゃあ、行こうか!」
「はい!」
そんなお休みの日の朝だった。
おわり
二五七、帽子かぶって
1/28/2025, 12:58:51 PM