目を覚まして身体を起こすと、腰の辺りに重さを感じた。
冷たい空気が肌に触れて、一瞬震えてしまう。
「ん〜……さむいぃぃ……」
起き上がったことでベッドに隙間ができて、冷気が毛布の中に入ったことで、隣で眠っていた恋人が抗議の声をあげた。
年末年始が忙しくしていた彼と合わせて遅めの冬休みを過ごしていたから、急いで起きる必要はない。
時計をちらりと見つめると起きるにはまだ早い時間だったから、もう一度彼の横に寝転がった。
「かくほぉ〜」
なんとも気の抜けた声を出しながら、私を抱きしめてくる。
彼の腕の中に収まると、その上から毛布が掛けられて寒さが和らいでくる。
「あたたかいね」
「はい、あったかいです」
くすくすと笑い合いながら、温もりが浸透してきて眠りを誘ってくれた。
せっかくの休みなのだから、誘いにのってふたり共に意識を手放した。
おわり
二四〇、あたたかいね
少し前と言うか、去年のクリスマスに恋人へのプレゼントのこと。
プレゼントを贈る時って割と色々考えるじゃない?
特に相手が恋人だから尚更。
正直さ、俺が何を贈っても喜んでくれると思うんだ。
でもさー、そうじゃないよね。
やっぱり心に響くものを渡したいって思ったんだ。
散々悩んだけれど、やっぱりそれを贈りたくて、一度お世話になったジュエリーショップに相談に行った。
今、それは彼女の薬指で光っている。
プラチナに、彼女の色だと感じている宝石であるアイスブルーダイヤモンドのリング。
それは、俺にとっての未来への鍵。
おわり
二三九、未来への鍵
遅い冬休みで恋人と日の出を見に来た。
早い時間に眠り、日の出に備えただけあって暗い時間に目を覚ます。
日の出を迎えるには、まだまだ早い時間。
俺が飲みものの用意をしていると、彼女がカーテンを開けた。
「わぁ……」
彼女が感嘆の声をつく。
「見てください!! 月と星のかけらがキラキラしてます」
「どゆこと!?」
彼女の言葉に驚きながら、暖かい飲み物を彼女に渡しつつ隣に立った。
視線を彼女から窓の外に向けると、月と星が水面に反射してキラキラしている。
「すごっ……」
日の出を見るために選んだホテルはオーシャンビューだから、日が入る前の暗い海に輝きを放つ。
確かにこれは月と星のかけらが輝いているように見えた。
彼女が自然と俺に身体を寄せてくれる。
「ここから日の出が楽しみですね!」
彼女の腰から抱き寄せると視線が絡み合う。自然と笑顔になってから、もう一度海へ視線を戻した。
「そうだね」
おわり
二三八、星のかけら
透明感のある異質な世界。ここは神様の住まう場所。
そんな中、異質でレトロちっくな部屋に一際珍しい音がジリリリリンと鳴り響く。
それはスマートフォンが世界に浸透した世界なのに、家主は時代遅れも甚だしい電話の音だった。
細身の手が古めかしい黒電話に手を伸ばす。
「もしもし」
どこか艶やかな声が響き渡る。
受話器越しに聞こえてきたのは、少し前から気にしている男女の様子を知らせてくれる連絡だった。
お互いへのリスペクト、思いやりを持っているふたりが、心が通じ合い恋人になって時間が経つ。
年末年始に青年が忙しそうにしていたけれど、落ち着いて過ごしているらしい。確認する限り、小指の糸の色が鮮やかな赤になっているとのこと。
神様は満足そうに微笑み、「ありがとう」と告げるとガチャンと重そうな音を立てて受話器を置いた。
あのふたりは、神様の清涼剤。
ケンカをする訳じゃない。
お互いを想うから怒り、相手は反省して身を寄せ合う。
それを聞いて心が落ち着いた。
色々なものを見守る神様にだって楽しみは欲しいんですよ。
おわり
二三七、Ring Ring……
年末年始、しっかりと働いた身として、ようやく手に入れた長期休み。
恋人と日の出を見に行きたくて、旅行に行くことになった。
俺はスマホで近場で日の出が見られるホテルを探している。言い出しっぺだからと行く場所を選んで欲しいと言われたからだ。
ちらりと彼女に視線を送ると、彼女もスマホを見ながら何か調べていた。
「わっ!」
突然、大きな声とともにソファから立ち上がる。
「え!? なに、びっくりした」
「ああ、ごめんなさい。ほら見てください!」
そう満面の笑みで俺にスマホを向けてきた。そこには一週間天気予報があって、ずらりと晴れマークが並んでいた。
「凄くないですか!? 晴れマークがいっぱいですよ!!」
俺たちの目的は〝日の出を見に行くこと〟だ。そこには天気が晴れていることが条件になる。
「まだ、場所決めてないよ?」
「なに言ってるんですか! 全国的に晴れですよ!! 大丈夫です、どこだって問題ありません!」
彼女の声が大きくなり、いつも以上にハツラツとしている。これは本当に楽しみなんだな。
「神様が日の出を見に行く私たちの背中を押してくれているみたいじゃないですか!!」
そう言われると、俺も嬉しくなる。なによりそんな考えを持つ彼女がより愛おしくなる。
確かに天気が左右する旅行だから、天気がずっといいのは追い風みたいなものだ。
テンションの上がっていく彼女を見て、俺の心も弾んでいく。
「分かった! 直近で行けるところ探そうー!」
「おー!!」
ふたりで片手を挙げ、気合を入れて行く場所を探した。
いくつかピックアップした中から、彼女がここに行きたいと言うホテルは、オーシャンビューの上に朝食が目玉で温泉もある。
もっと調べるとお正月明けという事で、かなりお手頃の値段になっていた。
「すんごい追い風……」
「これならワンランク上の部屋でも行けませんか?」
「行ける行ける」
彼女が俺の腕に手を絡めて寄り添う。
「年末年始、沢山お仕事されたんですから、ちょっと贅沢していっぱい休みましょ」
さっきまでの爆上がりテンションとは違う、慈しみを感じる視線で俺を見つめてくれる。
そっか。
楽しみは楽しみだけれど、〝俺が休める〟ことを最優先にホテルを選んでくれたんだな。
自然と口角が上がってしまう。それと同時に彼女への愛しさが溢れてくる。
「ここに決めよう。俺、連絡するね」
「はい! じゃあ、私は支度始めちゃいますね」
お互い、ひとつ頷いてからそれぞれの作業に移る。
神様から背中を押してもらったんだ。
良い旅行にしよう。
そんなことを考えながら、俺は通話ボタンをを押した。
おわり
二三六、追い風