とある恋人たちの日常。

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 年末年始、しっかりと働いた身として、ようやく手に入れた長期休み。
 恋人と日の出を見に行きたくて、旅行に行くことになった。
 
 俺はスマホで近場で日の出が見られるホテルを探している。言い出しっぺだからと行く場所を選んで欲しいと言われたからだ。
 
 ちらりと彼女に視線を送ると、彼女もスマホを見ながら何か調べていた。
 
「わっ!」
 
 突然、大きな声とともにソファから立ち上がる。
 
「え!? なに、びっくりした」
「ああ、ごめんなさい。ほら見てください!」
 
 そう満面の笑みで俺にスマホを向けてきた。そこには一週間天気予報があって、ずらりと晴れマークが並んでいた。
 
「凄くないですか!? 晴れマークがいっぱいですよ!!」
 
 俺たちの目的は〝日の出を見に行くこと〟だ。そこには天気が晴れていることが条件になる。
 
「まだ、場所決めてないよ?」
「なに言ってるんですか! 全国的に晴れですよ!! 大丈夫です、どこだって問題ありません!」
 
 彼女の声が大きくなり、いつも以上にハツラツとしている。これは本当に楽しみなんだな。
 
「神様が日の出を見に行く私たちの背中を押してくれているみたいじゃないですか!!」
 
 そう言われると、俺も嬉しくなる。なによりそんな考えを持つ彼女がより愛おしくなる。
 
 確かに天気が左右する旅行だから、天気がずっといいのは追い風みたいなものだ。
 
 テンションの上がっていく彼女を見て、俺の心も弾んでいく。
 
「分かった! 直近で行けるところ探そうー!」
「おー!!」
 
 ふたりで片手を挙げ、気合を入れて行く場所を探した。
 
 いくつかピックアップした中から、彼女がここに行きたいと言うホテルは、オーシャンビューの上に朝食が目玉で温泉もある。
 もっと調べるとお正月明けという事で、かなりお手頃の値段になっていた。
 
「すんごい追い風……」
「これならワンランク上の部屋でも行けませんか?」
「行ける行ける」
 
 彼女が俺の腕に手を絡めて寄り添う。
 
「年末年始、沢山お仕事されたんですから、ちょっと贅沢していっぱい休みましょ」
 
 さっきまでの爆上がりテンションとは違う、慈しみを感じる視線で俺を見つめてくれる。
 
 そっか。
 楽しみは楽しみだけれど、〝俺が休める〟ことを最優先にホテルを選んでくれたんだな。
 
 自然と口角が上がってしまう。それと同時に彼女への愛しさが溢れてくる。
 
「ここに決めよう。俺、連絡するね」
「はい! じゃあ、私は支度始めちゃいますね」
 
 お互い、ひとつ頷いてからそれぞれの作業に移る。
 
 神様から背中を押してもらったんだ。
 良い旅行にしよう。
 
 そんなことを考えながら、俺は通話ボタンをを押した。
 
 
 
おわり
 
 
 
二三六、追い風

1/7/2025, 1:32:21 PM