ようやく……ようやくお休みをいただけました!!
救急隊という、休みの日ほど忙しくなる仕事。年末年始もあって、お正月なんぼのもんじゃいというレベルで普通と変わらない……いえ、大変忙しゅうございました。
そんなこんなで、ようやく休みです。
冬休みです。
正月休みです。
恋人は一般的な休みではあったのだけれど、車の修理をしているため、緊急で連絡があった場合は率先して出勤していたと聞いた。
その甲斐もあって彼女も同じ日付しっかり休みが取れた。
今日から少しはゆっくりできるのが嬉しくて仕方がない。
けれど……ちょっと提案したいことがあった。
最後の夜勤の日に見た日の出が綺麗で、あの景色を彼女と一緒に見たいと思ったんだ。
「ねえ、旅行しない? 近場でもいいんだけど」
「ふぇ? どこか行きたい場所があるんですか?」
大きな瞳がさらに大きくなる。驚く彼女に言葉を返した。
「行きたい場所って言うか……見たいところがある、みたいな?」
「???」
見るからにクエスチョンマークが数個頭に飛んでいるのが分かる。
そうだよな。
〝どこ〟と言うのは言えないんだよね。
「うーんとね、日の出を一緒に見たいんだ。初日の出じゃないけれど、日の出ならいつだって見られるじゃない?」
それを告げた瞬間。本当にパッと花が咲いたように笑顔になった。
「なにそれ素敵です! 行きたい、行きたい!!」
とんでもなく前のめりで挙手をする。
「どこか分からないから、宿が取れるか分からないよ?」
「大丈夫ですよ! お正月休みが終わって、きっと空いていると思います」
なるほど、それはそうか。
彼女はスマホを取り出してスイスイと探し出す。
「ほら、見てください!」
スマホの画面には近場で日の出が見られるホテルの一覧があった。しかも結構割引されてる。
「今回長めに休みがありますから、天気調べて連絡してみましょ!」
満面の笑みで、休みの計画を立て始める彼女に嬉しくなった。
ゆっくりするつもりだったけれど、突然の俺の言葉に賛同してくれて安心する。
「どこに行きましょうか! あ、言い出しっぺだから、決めてくださいね!」
「ボール俺?」
「はい!」
まあ、君と一緒なら、どこでもいいんだけどね。
そんなことを思いながら、肩を寄せあって思いつきの旅行計画を立てることにした。
おわり
二三五、君と一緒に
「ふぁあ……」
重い身体を起こすと、心地好い温もりが身体に絡まって来て、それを見つめる。そこには愛しい恋人が無防備に眠っていた。
すやすやと安心した表情が愛らし過ぎて、思わず頬をつついてしまう。一瞬、眉間に皺を寄せて片目が少し開いた。俺を見たかと思うと、ふにゃりと笑顔になってから俺の腕にしがみついて眠りにつく。
スマホを探して時計を見ると、昼を過ぎていた。
昨日は夜勤で、帰って眠ったのは朝方だったから、そんなに眠ってはいない。
でも、起きようかな……。
彼女は俺に合わせて起きてくれていたから、ここぞとばかりに一緒に眠った。とはいえ、変な時間まで眠ると昼夜逆転しまう恐れがある。
「そろそろ起きよう」
彼女の耳元に口を寄せてそう囁くと、首を横に振りながら俺の身体にしがみつく。
「起きない?」
「もう少し、ゆっくり休んで欲しいです」
「昼夜逆転しちゃうよ?」
その言葉に反応し、目をこすりながら身体を起こして、その大きな瞳が俺をとらえると彼女の両腕が向けられる。
それが何を示しているのか理解している俺は彼女を正面から抱きしめた。
気持ちが落ち着いたのか、ゆっくりと身体を離す。
視線が合うと、ふにゃりと力のない笑顔を見せてくれた。俺もつられて口角があがる。
ベッドを抜けてカーテンを開くと、太陽の光が部屋に入って明るくなる。昼も過ぎたのだから当然だ。
「あ……」
「どうしました?」
「いや、見て」
彼女に手を差し伸べると、彼女もベッドから抜け出して俺の手を取って窓を覗く。俺もそれに習って外を見つめた。
朝では無いけれど、それでも普段見えない山々まで見える景色に、彼女も息を飲んでいるのが分かる。
「いつもの風景が少し違って見えますね」
「晴れた上に冬の空気でよく見える」
「はい!」
家からの景色だけれど、季節が変わると眺めが変わって見える。
彼女を見つめると、俺の視線に気がつくから同時に笑ってしまった。
おわり
二三四、冬晴れ
夜勤明けで家に帰る。
さすがに恋人は眠っていると思うから静かに居間に向かおうとした。
すると、寝室から勢いよく扉が開く。
「うぇ!?」
「おかえりなさい!!」
その音に俺の方が驚いてしまった。笑みを浮かべた彼女に驚いたのは申し訳なかったけれど、起きているとは思わないじゃない。
「うえ?」
「いや、起きてると思わなくて……」
俺の言葉ににんまりと微笑んで、いつものように俺の胸に抱きついてくれる。俺もそれに応えるように抱きしめ返した。
外が寒かったから彼女の体温が心地よくて、少しだけ強く抱きしめてしまった。
「そと、寒かったんですね」
その言葉を聞いて彼女から離れようかと思ったけれど、彼女腕は俺を強く抱きしめてくれている。
「俺、冷たいでしょ。ごめん」
「私で温まってくださいね〜」
そう言いながら、更に強く抱きしめてくれた。
……寝ていた様子もない彼女。これは俺が帰るまで起きていた……よな、これ。
そう思うと、彼女への愛しさが身体をめぐってくる。
こういう小さな思いやりを感じるとき、俺は彼女といる自分がしあわせだと思った。
おわり
二三三、幸せとは
今日は夜勤。
俺の仕事は救急隊だから、お正月なんて関係ない。しかも今日はUターンラッシュということで人がごった返していて、慌ただしいことこの上ない。
そんなこんなでバタバタと救助をしていると外が白んできていた。
少し休憩に入り、窓の外を見るとビル群から太陽が昇り始めたようで、少しづつ空と世界の色が変わってくる。
仕事が終わる時刻が近づいていると分かるのと同時に、この景色を恋人と一緒に見たいと感じてしまった。
「いいかもしれない……」
ぽつりとこぼれる。
お休みが取れるようになったら、少しだけ長めにとって、ふたりで日の出を見ることが出来る旅館を探して行くのもいいかもしれない。
そこで、改めてふたりで新年を祝えばいいんだ。
おわり
二三二、日の出
今日も今日とて普通に仕事をしていた。
救急隊員としては、年末年始なんて関係ない。でも世の中はそうじゃない。年末年始のどこか浮かれた雰囲気がこの都市を覆っていた。
去年は書き初めしたな。
去年の豊富はお金を貯めていたから……まあ……うん……。
微妙に色々えぐる抱負を書いた記憶で、片隅に追いやった。
今年の抱負だ、今年の抱負!!
今年はなにがいいかな……。
ぼんやりと考えて、今年も抱負を提出した。
仕事を終えて、家に帰るといつものように恋人が飛びついて出迎えてくれる。
「おかえりなさい! 今日もお疲れさま!!」
胸に飛び込んできた彼女を正面から受け止め、力強く抱きしめ返す。
「ただいまー」
「お腹すいてますか? 温めればすぐ食べられますよ」
「あ、食べたい」
「すぐ用意しますね! 着替えてきてください」
「ありがとう」
彼女は嬉しそうに微笑んでから俺から離れ、キッチンに向かった。
その彼女の背中を見つめながら病院で、やり取りをした抱負のことを思い出す。
今年の俺の抱負。表面的なことは病院に出したことでいい。
でも生活面で言うなら、なにか大きいことを願うんじゃなくて、小さくてもいいから彼女と平穏に過ごせたら……と思った。
おわり
二三一、新年の抱負