とある恋人たちの日常。

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1/8/2025, 1:07:17 PM

 
 透明感のある異質な世界。ここは神様の住まう場所。

 そんな中、異質でレトロちっくな部屋に一際珍しい音がジリリリリンと鳴り響く。
 それはスマートフォンが世界に浸透した世界なのに、家主は時代遅れも甚だしい電話の音だった。
 
 細身の手が古めかしい黒電話に手を伸ばす。
 
「もしもし」
 
 どこか艶やかな声が響き渡る。
 受話器越しに聞こえてきたのは、少し前から気にしている男女の様子を知らせてくれる連絡だった。
 
 お互いへのリスペクト、思いやりを持っているふたりが、心が通じ合い恋人になって時間が経つ。
 
 年末年始に青年が忙しそうにしていたけれど、落ち着いて過ごしているらしい。確認する限り、小指の糸の色が鮮やかな赤になっているとのこと。
 
 神様は満足そうに微笑み、「ありがとう」と告げるとガチャンと重そうな音を立てて受話器を置いた。
 
 あのふたりは、神様の清涼剤。
 
 ケンカをする訳じゃない。
 お互いを想うから怒り、相手は反省して身を寄せ合う。
 
 それを聞いて心が落ち着いた。
 
 色々なものを見守る神様にだって楽しみは欲しいんですよ。
 
 
 
おわり
 
 
 
二三七、Ring Ring……

1/7/2025, 1:32:21 PM

 
 年末年始、しっかりと働いた身として、ようやく手に入れた長期休み。
 恋人と日の出を見に行きたくて、旅行に行くことになった。
 
 俺はスマホで近場で日の出が見られるホテルを探している。言い出しっぺだからと行く場所を選んで欲しいと言われたからだ。
 
 ちらりと彼女に視線を送ると、彼女もスマホを見ながら何か調べていた。
 
「わっ!」
 
 突然、大きな声とともにソファから立ち上がる。
 
「え!? なに、びっくりした」
「ああ、ごめんなさい。ほら見てください!」
 
 そう満面の笑みで俺にスマホを向けてきた。そこには一週間天気予報があって、ずらりと晴れマークが並んでいた。
 
「凄くないですか!? 晴れマークがいっぱいですよ!!」
 
 俺たちの目的は〝日の出を見に行くこと〟だ。そこには天気が晴れていることが条件になる。
 
「まだ、場所決めてないよ?」
「なに言ってるんですか! 全国的に晴れですよ!! 大丈夫です、どこだって問題ありません!」
 
 彼女の声が大きくなり、いつも以上にハツラツとしている。これは本当に楽しみなんだな。
 
「神様が日の出を見に行く私たちの背中を押してくれているみたいじゃないですか!!」
 
 そう言われると、俺も嬉しくなる。なによりそんな考えを持つ彼女がより愛おしくなる。
 
 確かに天気が左右する旅行だから、天気がずっといいのは追い風みたいなものだ。
 
 テンションの上がっていく彼女を見て、俺の心も弾んでいく。
 
「分かった! 直近で行けるところ探そうー!」
「おー!!」
 
 ふたりで片手を挙げ、気合を入れて行く場所を探した。
 
 いくつかピックアップした中から、彼女がここに行きたいと言うホテルは、オーシャンビューの上に朝食が目玉で温泉もある。
 もっと調べるとお正月明けという事で、かなりお手頃の値段になっていた。
 
「すんごい追い風……」
「これならワンランク上の部屋でも行けませんか?」
「行ける行ける」
 
 彼女が俺の腕に手を絡めて寄り添う。
 
「年末年始、沢山お仕事されたんですから、ちょっと贅沢していっぱい休みましょ」
 
 さっきまでの爆上がりテンションとは違う、慈しみを感じる視線で俺を見つめてくれる。
 
 そっか。
 楽しみは楽しみだけれど、〝俺が休める〟ことを最優先にホテルを選んでくれたんだな。
 
 自然と口角が上がってしまう。それと同時に彼女への愛しさが溢れてくる。
 
「ここに決めよう。俺、連絡するね」
「はい! じゃあ、私は支度始めちゃいますね」
 
 お互い、ひとつ頷いてからそれぞれの作業に移る。
 
 神様から背中を押してもらったんだ。
 良い旅行にしよう。
 
 そんなことを考えながら、俺は通話ボタンをを押した。
 
 
 
おわり
 
 
 
二三六、追い風

1/6/2025, 1:05:18 PM

 
 ようやく……ようやくお休みをいただけました!!
 
 救急隊という、休みの日ほど忙しくなる仕事。年末年始もあって、お正月なんぼのもんじゃいというレベルで普通と変わらない……いえ、大変忙しゅうございました。
 
 そんなこんなで、ようやく休みです。
 冬休みです。
 正月休みです。
 
 恋人は一般的な休みではあったのだけれど、車の修理をしているため、緊急で連絡があった場合は率先して出勤していたと聞いた。
 その甲斐もあって彼女も同じ日付しっかり休みが取れた。
 
 今日から少しはゆっくりできるのが嬉しくて仕方がない。
 けれど……ちょっと提案したいことがあった。
 
 最後の夜勤の日に見た日の出が綺麗で、あの景色を彼女と一緒に見たいと思ったんだ。
 
「ねえ、旅行しない? 近場でもいいんだけど」
「ふぇ? どこか行きたい場所があるんですか?」
 
 大きな瞳がさらに大きくなる。驚く彼女に言葉を返した。
 
「行きたい場所って言うか……見たいところがある、みたいな?」
「???」
 
 見るからにクエスチョンマークが数個頭に飛んでいるのが分かる。
 そうだよな。
 〝どこ〟と言うのは言えないんだよね。
 
「うーんとね、日の出を一緒に見たいんだ。初日の出じゃないけれど、日の出ならいつだって見られるじゃない?」
 
 それを告げた瞬間。本当にパッと花が咲いたように笑顔になった。
 
「なにそれ素敵です! 行きたい、行きたい!!」
 
 とんでもなく前のめりで挙手をする。
 
「どこか分からないから、宿が取れるか分からないよ?」
「大丈夫ですよ! お正月休みが終わって、きっと空いていると思います」
 
 なるほど、それはそうか。
 
 彼女はスマホを取り出してスイスイと探し出す。
 
「ほら、見てください!」
 
 スマホの画面には近場で日の出が見られるホテルの一覧があった。しかも結構割引されてる。
 
「今回長めに休みがありますから、天気調べて連絡してみましょ!」
 
 満面の笑みで、休みの計画を立て始める彼女に嬉しくなった。
 ゆっくりするつもりだったけれど、突然の俺の言葉に賛同してくれて安心する。
 
「どこに行きましょうか! あ、言い出しっぺだから、決めてくださいね!」
「ボール俺?」
「はい!」
 
 まあ、君と一緒なら、どこでもいいんだけどね。
 
 そんなことを思いながら、肩を寄せあって思いつきの旅行計画を立てることにした。
 
 
 
おわり
 
 
 
二三五、君と一緒に

1/5/2025, 2:12:36 PM

 
「ふぁあ……」
 
 重い身体を起こすと、心地好い温もりが身体に絡まって来て、それを見つめる。そこには愛しい恋人が無防備に眠っていた。
 
 すやすやと安心した表情が愛らし過ぎて、思わず頬をつついてしまう。一瞬、眉間に皺を寄せて片目が少し開いた。俺を見たかと思うと、ふにゃりと笑顔になってから俺の腕にしがみついて眠りにつく。
 
 スマホを探して時計を見ると、昼を過ぎていた。
 
 昨日は夜勤で、帰って眠ったのは朝方だったから、そんなに眠ってはいない。
 
 でも、起きようかな……。
 
 彼女は俺に合わせて起きてくれていたから、ここぞとばかりに一緒に眠った。とはいえ、変な時間まで眠ると昼夜逆転しまう恐れがある。
 
「そろそろ起きよう」
 
 彼女の耳元に口を寄せてそう囁くと、首を横に振りながら俺の身体にしがみつく。
 
「起きない?」
「もう少し、ゆっくり休んで欲しいです」
「昼夜逆転しちゃうよ?」
 
 その言葉に反応し、目をこすりながら身体を起こして、その大きな瞳が俺をとらえると彼女の両腕が向けられる。
 
 それが何を示しているのか理解している俺は彼女を正面から抱きしめた。
 
 気持ちが落ち着いたのか、ゆっくりと身体を離す。
 
 視線が合うと、ふにゃりと力のない笑顔を見せてくれた。俺もつられて口角があがる。
 
 ベッドを抜けてカーテンを開くと、太陽の光が部屋に入って明るくなる。昼も過ぎたのだから当然だ。
 
「あ……」
「どうしました?」
「いや、見て」
 
 彼女に手を差し伸べると、彼女もベッドから抜け出して俺の手を取って窓を覗く。俺もそれに習って外を見つめた。
 
 朝では無いけれど、それでも普段見えない山々まで見える景色に、彼女も息を飲んでいるのが分かる。
 
「いつもの風景が少し違って見えますね」
「晴れた上に冬の空気でよく見える」
「はい!」
 
 家からの景色だけれど、季節が変わると眺めが変わって見える。
 彼女を見つめると、俺の視線に気がつくから同時に笑ってしまった。
 
 
 
おわり
 
 
 
二三四、冬晴れ

1/4/2025, 1:17:56 PM

 
 夜勤明けで家に帰る。
 さすがに恋人は眠っていると思うから静かに居間に向かおうとした。
 すると、寝室から勢いよく扉が開く。
 
「うぇ!?」
「おかえりなさい!!」
 
 その音に俺の方が驚いてしまった。笑みを浮かべた彼女に驚いたのは申し訳なかったけれど、起きているとは思わないじゃない。
 
「うえ?」
「いや、起きてると思わなくて……」
 
 俺の言葉ににんまりと微笑んで、いつものように俺の胸に抱きついてくれる。俺もそれに応えるように抱きしめ返した。
 
 外が寒かったから彼女の体温が心地よくて、少しだけ強く抱きしめてしまった。
 
「そと、寒かったんですね」
 
 その言葉を聞いて彼女から離れようかと思ったけれど、彼女腕は俺を強く抱きしめてくれている。
 
「俺、冷たいでしょ。ごめん」
「私で温まってくださいね〜」
 
 そう言いながら、更に強く抱きしめてくれた。
 
 ……寝ていた様子もない彼女。これは俺が帰るまで起きていた……よな、これ。
 
 そう思うと、彼女への愛しさが身体をめぐってくる。
 
 こういう小さな思いやりを感じるとき、俺は彼女といる自分がしあわせだと思った。
 
 
 
おわり
 
 
 
二三三、幸せとは

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