今日は夜勤。
俺の仕事は救急隊だから、お正月なんて関係ない。しかも今日はUターンラッシュということで人がごった返していて、慌ただしいことこの上ない。
そんなこんなでバタバタと救助をしていると外が白んできていた。
少し休憩に入り、窓の外を見るとビル群から太陽が昇り始めたようで、少しづつ空と世界の色が変わってくる。
仕事が終わる時刻が近づいていると分かるのと同時に、この景色を恋人と一緒に見たいと感じてしまった。
「いいかもしれない……」
ぽつりとこぼれる。
お休みが取れるようになったら、少しだけ長めにとって、ふたりで日の出を見ることが出来る旅館を探して行くのもいいかもしれない。
そこで、改めてふたりで新年を祝えばいいんだ。
おわり
二三二、日の出
今日も今日とて普通に仕事をしていた。
救急隊員としては、年末年始なんて関係ない。でも世の中はそうじゃない。年末年始のどこか浮かれた雰囲気がこの都市を覆っていた。
去年は書き初めしたな。
去年の豊富はお金を貯めていたから……まあ……うん……。
微妙に色々えぐる抱負を書いた記憶で、片隅に追いやった。
今年の抱負だ、今年の抱負!!
今年はなにがいいかな……。
ぼんやりと考えて、今年も抱負を提出した。
仕事を終えて、家に帰るといつものように恋人が飛びついて出迎えてくれる。
「おかえりなさい! 今日もお疲れさま!!」
胸に飛び込んできた彼女を正面から受け止め、力強く抱きしめ返す。
「ただいまー」
「お腹すいてますか? 温めればすぐ食べられますよ」
「あ、食べたい」
「すぐ用意しますね! 着替えてきてください」
「ありがとう」
彼女は嬉しそうに微笑んでから俺から離れ、キッチンに向かった。
その彼女の背中を見つめながら病院で、やり取りをした抱負のことを思い出す。
今年の俺の抱負。表面的なことは病院に出したことでいい。
でも生活面で言うなら、なにか大きいことを願うんじゃなくて、小さくてもいいから彼女と平穏に過ごせたら……と思った。
おわり
二三一、新年の抱負
無機質な音で目を覚ますと、パンを焼くいい香りが鼻をくすぐる。
いつもそばに居てくれる愛しい恋人の温もりがなく、朝から少し不満を覚えた。
香りにさそわれて寝室からダイニングに向かった。
「おはよぉ……」
なんとも気の抜けた声で、愛しい恋人に声をかけるとら慌てて火を止めて、菜箸を置くと、満面の笑顔で俺の胸に飛び込んでくる。
この温もりが欲しくて、力強く抱きしめ返した。
「うふふ、おはようございます。あと、あけましておめでとうございます〜」
彼女の体温を身体で感じてながら、彼女の言葉を反芻した……。
「あ、そうか。あけましておめでとう。あと、おはよ〜」
昨日も今日も普通に仕事だから、いつも通りの感覚で過ごしていた。そう言えば昨日の夕飯は年越し蕎麦だったっけ。
少しずつ頭は覚めていくのを理解しつつ、抱きしめていた彼女への力を緩めた。
「今年もよろしくね」
なんとも力の抜けた声だったけれど、いつも通りでいい。そう思った。
彼女にそれが伝わったのか、周りに小さい花がぽんぽんと咲いていくような笑顔を俺に向けてくれる。
「はい! 今年もよろしくお願いします!」
おわり
二三〇、新年
お蕎麦はすするもの。
と、言うことで、恋人とテーブルで向かい合わせてずるずるとお蕎麦を食べている。
日本の年の瀬ということで、暖かいお蕎麦を夕飯にしていた。
世の中は年末年始ということで、お休みモードに入っている人々が多いけれど、俺は今日も明日も普通に仕事だった。
せめて年末年始らしくということで恋人が夕飯にお蕎麦を作ってくれた。それが嬉しくて美味しいさに磨きをかけている。
「おいしかった〜、ごちそうさまでした〜!!」
「おそまつさまでしたー!」
作ってくれたから、俺の方が片付けをしようと立ち上がると、彼女が制止する。
「だめです、ゆっくり休んでください!」
そう言われてソファに座らせられる。
夕飯も食べて、ぼんやりとしていると心地よい疲労感が襲ってきて、眠気を誘う。
暖かいお蕎麦は身体を温めてくれるから、より眠気を強める。
ダメだ……。
彼女が近く気配はするけれど、意識は遠のいてしまう。
まだ彼女に伝えてないんだ。
良いお年を……と、来年に希望を願う言葉を……。
おわり
二二九、良いお年を
もぐもぐと幸せそうな顔でみかんを頬張る恋人を見ていると、心が暖かくなって今こうしている時間が本当にしあわせだなと感じていた。
色々あった一年だ。
でも、こうして彼女と過ごせる初めての一年で、今度は二年目が始まる。
出会ったのは去年だけれど、こんな関係になったのは今年からで。苦しい時も、辛い時もあった。
でもそんな時には彼女がそばに居てくれた。寄り添ってくれた。
俺はもう手放せない。
そんなことを考えながら彼女の頬へ自然と手を伸ばしていた。
「? どうしましたか?」
「うん……」
大したことないんだ。
「一年、色々あったけれど、しあわせだなって」
その言葉を聞いて、頬に添えた手の上に被せるように彼女の手を置き、頬を擦り寄せる。
「私もしあわせです」
おわり
二二八、一年間を振り返る