家でのんびりとした時間を過ごしていると、恋人が丸いボウルにみかんを山にして持ってきた。
「疲労回復みかんの登場ぉ〜!」
先日、早めの年末年始の買い物をしてきたけど、みかんを買った記憶はなかった。
「どこから出てきたの、そのみかん〜?」
彼女は俺の隣に座ると、ローテーブルにボウルを置いて、そこからひとつを撮って俺に向ける。
「社長からもらいました〜。沢山送ってもらったんですって〜」
「おすそ分け〜」
向けられたみかんを受け取り、皮を剥き、甘皮も丁寧に取る。
「あーん」
キレイになった一粒のみかんを、俺は当たり前のように彼女に向けた。
目を丸くしてみかんを凝視した彼女だっけれど、ふわりと笑顔になって口を大きく開けてくれる。
俺はゆっくりと彼女の口にみかんを運ぶと、俺の指ごとパクッと食べる。と言ってもみかんだけ食べて、指はハムハムと唇で止めていた。
「こらぁ、俺の指まで食べるな〜」
「んふふふふ〜、おいひぃれす〜」
完全に顔が蕩けた満面の笑みが、とても愛らしい。
「分け合いながら食べようね〜」
「はーい」
次のは自分で食べるけれど、その次も食べさせてもらえるのと思っているのか、目が輝いている。
「また食べさせてもらえると思ってるな〜?」
「思ってます〜」
実際、彼女は自分の目の前にあるみかんに手を付けず、楽しみに待っていた。
「自分で剥け〜、じゃなかったら俺に食べさせるために剥け〜」
「あはははは」
話しながら自分の身体を思いっきり彼女の身体に押し付ける。
「剥きます、剥きます〜」
彼女は目の前のみかんを丁寧に剥き始める。俺はそれを見守っていると、優しい瞳が俺を捕らえた。
「はい、あーん」
おわり
二二七、みかん
昨日、一応仕事納めしてきた。
一応というのは、私の仕事が車の修理屋なので、年末年始と言う運転に慣れていない人が車に乗る季節なのだから、壊すことが多い。
だから、緊急連絡に率先して連絡してもらうように申請してきた。
理由は簡単。
同棲している恋人がほとんど居ないからだ。
彼は年末年始、普通に仕事。救急隊員だから、年末年始の人が休みだから、運ばれてくる人も多いので忙しいらしい。
彼が冬休みを取れるのはこの都市が〝普通〟を取り戻した後だと。
だから、私も彼が冬休みを取れる時になったら、率先してお休みを取れるよう、緊急出勤に手を挙げた。
彼が居ない家は本当に寂しい。
普段は泣きそうになるけれど、今日は違った。
私はお店が年末年始てお休みに入る前に買い物をしに来ている。
冬休みを取れない彼のために、家事をしようと決めてたの。明日の朝ごはんも、お弁当も、夕飯も頑張るんだ。
だから、私たちの冬休みは、もう少したけ先延ばし。
おわり
二二六、冬休み
クリスマスも過ぎ、年始の準備に入って、恋人と買い物に行くと、彼女の冷たい手を繋いで自分のコートのポッケに入れることが普通になってきた。
彼女と手を繋ぐことは嬉しいから、いいと言えばいいんだけど、俺が居ない時はそのままでいるのしたら嫌だな……。
今度デパートに行って、彼女の好きそうな手ぶくろを探してこよう。
俺が居ない時につけてもらう用のやつを、ね。
おわり
二二五、手ぶくろ
去年、彼女との関係はまた恋人ではなかった。
でも仕事の関係で会って、クリスマスプレゼントを贈った。
そこから彼女に惹かれている自分に気がついて、彼女との関係がどんどん紡がれていき、今では隣で眠っている。
誰よりも愛おしい彼女。
来年はどんな関係になっているのか楽しみだ。
おわり
二二四、変わらないものはない
昨日のクリスマスイブは遅番の仕事をみっちりこなし、家に帰ったあとはシャワーを浴びて、恋人を抱き枕にしながら眠った。
今日は普通の時間帯で、明日ふたりとも休みにしたから、クリスマスの本番はこれからだ。
彼女へのプレゼントは、先日ようやく届いて休憩時間に無事引き取ってきた。
喜んでくれるといいな。
仕事を終え、彼女と役割分担をしていた買い物に出かける。今年のクリスマスは、何かを作るのはやめた。そんなの絶対に時間がかかる。今年は平日だから、夕飯は外で買うと話し合っていた。
ケーキは彼女が、夕飯になるものは俺が買う。
簡単なオードブルとお酒買おうかなー。
こういう時くらい、ちょっと高めのおっしゃれーなシャンパンを飲んでもいいよね。と言っても、彼女に飲ませすぎないように、量は少なめのやつにしよう。
デパ地下に行って少しだけ贅沢なオードブルを数種類、それとシャンパンを選ぶ。こういう時は有名なモエ・シャンドンかな。
家に帰るとお約束のただいまのハグ。疲れた身体に彼女の温もりは効きます。本当に癒し。
「先に夕飯食べる?」
「はい! お腹すいちゃいました」
「まかせろまかせろー。美味しいものを買ってきたぞー」
「やったー!!」
両手を上げてクルクル踊りまわる彼女は今日も可愛いです。
「ケーキも引き取ってきましたから、楽しみにしてくださいね。一緒にプレゼントも渡しますので!」
「プレゼント!?」
「今年は物じゃないんですけど……」
「いいよ、そんなの。気持ちが嬉しいもん!」
困ったように笑うけれど、言葉通りで彼女が用意してくれたことが嬉しい。
嬉しいけれど……俺が用意したプレゼントは物なんだけど……大丈夫かな?
心の中で、不安が広がるけれど、困らせることはないだろ。と、思う。たぶん。
買ってきたオードブルとお酒で、ふたりだけのクリスマス会を過ごす。
少しいいグラスにシャンパンを入れて、ふたり同時に軽くグラスを鳴らして軽く口に含む。ほんの少しの苦みはあれど爽やかなブドウの味が飲みやすくて美味しい。
そして食事を合わせて食べる。さすがデパ地下のオードブルはお肉も柔らかいし、味の深みが凄い。
「ん〜〜〜!! おいひぃれふ〜〜〜!!」
気がつくとハムスターみたいに頬にいっぱい食べものを詰めた彼女がとろけきった笑みで叫ぶ。実際に美味しいから納得するし、何よりこの笑顔はたまらないほど可愛い。この笑顔プライスレスだな。
「喜んでくれてよかったー!」
「お酒も食べものも美味しくてとけちゃいそうです!」
グラスを回しながらオードブルを見つめる瞳はいつも以上にキラキラしていた。お酒も入っていて、ふわりとした微笑みは強烈に惹かれる。
「私のも喜んでもらえるといいな……」
「ん?」
とても小さい声でつぶやくから、思わず聞き返してしまった。
「んーん。デザート、楽しみにしてくださいね!」
首を振ってから、切り替えたのか。俺に挑戦的な笑みを向けてくれる。
デザートとして出してくれたケーキ。それと一緒に持ってきたクリームソーダには薄い青の炭酸にうさぎとパンダを模した小さなバニラアイスが添えられていた。しかも小さなハートのチョコレートがひとつ付いて。
うさぎは俺のイメージ動物で、パンダは彼女のイメージ動物だから、俺たちを模していた。
「なにこれ、可愛いー!! 初めて見たけど、どうしたの!?」
「私が考えて手作りしましたー!!」
クリームソーダは俺の好きなもので、まさかこう持ってくるとは思わなかった。
「これが私からのクリスマスプレゼントです」
うさぎに向けてパンダが寄り添っている具合が、ギュッと寄り添っていて本当にイチャイチャしている感じがする。
なんだろう……彼女から〝好き〟って言って貰える気がして胸が熱くなって彼女への想いが溢れた。
俺はその衝動のままに動く。カバンにしまっていた小さなジュエリーボックスを彼女に差し出した。
「俺からのプレゼント……形に残るものだけど、君にどうしても渡したいものだったから……」
以前、見つけた彼女のイメージカラーに近いアイスブルーダイアモンドのリング。
サイズは過去に彼女と作りに行ったことがあるから、お店と相談した。だから合っているはず……。
彼女が俺にくれたものは、心の底から俺が好きなもので、俺への気持ちを込めてくれていて……こういうものを選ぶ彼女が好きなんだ。
驚きつつも、受け取ってくれた彼女の瞳の端にきらりと光るものが見えた。
「ありがとうございます。大好きです!」
おわり
二二三、クリスマスの過ごし方