イブの夜……だけど俺は遅番の仕事!
それに合わせて彼女も遅番の仕事。
そりゃ、ね。
彼女とゆっくり過ごしたい気持ちはあるけれど、仕事は仕事なんだよ。俺にも彼女にもそれはそれって話になった。
まあ、代わりに明日は普通、明後日は休みにしてあるから、明日ゆっくりしようかという話をしている。
今日は家帰ったらシャワーを浴びて彼女を抱き枕にして眠るんだ。
彼女へのプレゼントも用意してある。
喜んでくれたらいいな。
そんなことを考えていたけれど、頭を切りかえて仕事に向かう。
明日ゆっくり彼女と過ごすために、今日頑張ろ!
おわり
二二二、イブの夜
どれがいいなかな。
何なら喜んでくれるかな。
もうすぐクリスマスだから、恋人へのプレゼントを選びに来ている。もちろん一人で。
一緒に暮らしてそれなりに経つ。
だから彼の好みもある程度把握はしているけれど、それでも悩んでしまう。
正直ね。
正直、私が選べば彼は喜んでくれると思うの。
でもそうじゃないのー!!!
彼の役に立てるものを贈りたいの。
身につけるなら時計とか?
でもあまり高いもの贈っても困らない?
こういうのはお金じゃないと思うんだよね。
どうしよう。
なになら喜んでくれる?
彼の好きなもの……。
そうやって考えているとパッと思いついた。
そうだ。そうだよ!
彼の好きなもの、それはクリームソーダ!!
そこからは驚くくらいに、こうしたいと言うものが頭に浮かんでくる。
彼のイメージのうさぎと、私のイメージのパンダのアイスクリームを寄り添わせて……彼に大好きだよって伝えたい。
もうそこからの私の行動は早くて、足早にお菓子を作るコーナーに向かっていく。
あ、でも……私は不器用だから作れるかな。
そんな不安も過ぎるけれど、そんなのは練習すればいい!
手作りのマフラー作ろうとか思うよりマシ!
……あ、来年はそれにしよう。
そんなことを考えながら、なになら足りる?
これならできる?
そんな考えがフルスロットルでめぐってくる。
クリスマスまで時間は足りないけれど、たくさん練習して彼に喜んでもらえるように頑張ろう。
絶対に喜んでもらえる。
それが分かるから、ワクワクが止まらない。
当日に驚かせて、大好きって伝えたい!
おわり
二二一、プレゼント
家に帰ると恋人といつものハグをした後、ご飯を食べる前にお風呂に入るように言われた。
お腹空いているんだけどな……。
そんな事を言葉にできないまま、大人しく浴室に向かった。
ガラリと扉を開けると、まず柑橘系の香りが鼻をくすぐる。爽やかで上品な香りがした。
そして、珍しく湯船にお湯を張っていて、黄色いくだものがプカプカ浮いていた。
香りの元はこのゆずだな。
身体を洗ってからお湯に浸かる。中に入っているゆずを上からツンツンと続くと、ぽよんぽよんと沈んでは浮かんでを繰り返した。
日本の冬至にゆず湯に入るというのは聞くけれど、今日は冬至じゃない。
なんでだろう?
そんな単純な疑問をお風呂に出た後、恋人にぶつけてみた。
「ゆず湯に入ると風邪をひかないって聞いたから、予防に! 本当は冬至? に、入った方が良いらしいんですけど、私知らなかったんで……」
今日、職場でその話を聞いて、速攻ゆずを買って用意してくれたらしい。
確かに今、身体は芯から温まっていた。内側から熱が出ていて、少し暑いくらい。
少し前に、俺は声が出なくなる風邪をひき、風邪も治って、少しづつ声が出るまで回復した。そういうところで心配してくれたのかな。
うーん。俺、愛されてる。
おわり
二二〇、ゆずの香り
空が好きだ。
雄大な空、その色が大好きだ。
だから仕事でヘリに乗る時、緊張感を持っている時だけれど緊張したままだとダメだからリラックスって必要なんだ。
俺はリラックスする時にこの空を見るようにしている。
透き通る青空、雲ひとつの無い空、曇天の空、雨の空。風の日は俺達が危険だから無理だけれど。
でも、どんな空も広大。
その広さに息を飲むんだ。
俺の恋人はそれとは違う意味で空色が好きみたい。でも、同じ色が好きだと言うのをきっかけに、仲良くなったから……今の俺にはちょっと特別な思い入れがあったりする。
だから今、救助でヘリに乗る時。空を見つめると彼女も思い出すからよりリラックスできるようになった。
俺の大好きな広大で愛しい空。
おわり
二一九、大空
今日は彼女が仕事が遅くなっていて孤独の時間を過ごすことになった。
彼女が恋しくて、胸を締め付けられる。心の空洞の寒さに耐えられず、ソファの上だと言うのに膝を抱えて小さくなっていた。普段あった視界の色が褪せて灰色に見えていく。
普段、彼女がこういう時間を過ごしているんだなと改めて痛感する。
元々寂しさには弱い方だけれど、彼女を好きになって、一緒に暮らすようになってからはずっとそばに居てくれた。ずっと笑顔や彼女の温もりが近くにあった。
だからこそ、寂しさが心へのダメージを受ける。
ああ、彼女が本当に大好きなんだ……。
ピンポーン。
「へ?」
今は夜で、こんな時間に配達なんて来るわけがない。
俺の心になにか予感を覚えて立ち上がって玄関に向かい走り出した。
迷いもなく玄関の鍵を開けて扉を開く。
「わっ!!!?」
両手に荷物を抱えた彼女が、目を丸くしていた。
その瞬間、心が暖かくなって、無くなっていた色が華やかに色付いていく。
「どうしましたか?」
俺の表情を見て、様子がおかしいと察した彼女が不安の顔を向けてくる。俺は両手に抱える荷物を取ってサッと廊下に入れて置く。そして彼女を玄関の中に引き入れて、バタンと言う音が聞こえる時には彼女を抱き締めていた。
「おかえり」
心の底から安堵の声がこぼれ落ちる。
「……ただいまです。遅くなりました」
「うん、寂しかった」
俺は抱きしめる力を強くする。彼女の温もりが腕から、身体から広がっていった。
「普段は私がそんな寂しい思いしているんですよ?」
「うん、この時間つらいね」
ほんの少し力を抜いて彼女の顔を見つめて、苦笑いしてしまう。
彼女は思い知ったかと言わんばかりの、悪い笑みを俺に向けてくれる。
「耐えられるようになっちゃダメですよ」
「え!?」
「ずっと私に夢中でいてくださいね」
その言葉に力が抜けるけれど、心の底から笑いが込み上げて口元が緩んだ。
「安心していいよ。ずっと夢中だから」
そう笑顔で返して、彼女にキスをした。
おわり
二一八、ベルの音