無機質な音で目を覚ますと、パンを焼くいい香りが鼻をくすぐる。
いつもそばに居てくれる愛しい恋人の温もりがなく、朝から少し不満を覚えた。
香りにさそわれて寝室からダイニングに向かった。
「おはよぉ……」
なんとも気の抜けた声で、愛しい恋人に声をかけるとら慌てて火を止めて、菜箸を置くと、満面の笑顔で俺の胸に飛び込んでくる。
この温もりが欲しくて、力強く抱きしめ返した。
「うふふ、おはようございます。あと、あけましておめでとうございます〜」
彼女の体温を身体で感じてながら、彼女の言葉を反芻した……。
「あ、そうか。あけましておめでとう。あと、おはよ〜」
昨日も今日も普通に仕事だから、いつも通りの感覚で過ごしていた。そう言えば昨日の夕飯は年越し蕎麦だったっけ。
少しずつ頭は覚めていくのを理解しつつ、抱きしめていた彼女への力を緩めた。
「今年もよろしくね」
なんとも力の抜けた声だったけれど、いつも通りでいい。そう思った。
彼女にそれが伝わったのか、周りに小さい花がぽんぽんと咲いていくような笑顔を俺に向けてくれる。
「はい! 今年もよろしくお願いします!」
おわり
二三〇、新年
1/1/2025, 1:12:47 PM