とある恋人たちの日常。

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9/7/2024, 11:06:07 AM


 九月はほんの少しだけ楽しみな季節。
 来年に向けてスケジュールを管理するアナログの手帳が沢山出る時期だ。
 
 世の中はスマホやパソコンでスケジュールを組んでいる。けれど、私はスケジュールを手帳にしているのだ。
 やっぱり忘れないようにするなら、手書きが一番だと思っている。
 
 今年の新しい手帳はどうしても欲しいものがあった。私も彼も大好きな青空をカバーにした手帳が出るのだ。これは絶対に欲しい。
 しかも、どの手帳にするか悩んでいる時に、後ろから彼が何を悩んでいるかを聞いて、この手帳を見せたら、彼も使ってみたいという話になった。
 
 発売日当日。
 サーバ落ちや、接続できないことを繰り返しながら、歴戦の猛者を潜り抜けて、欲しい手帳を買うことが出来た!
 
 今日はふたりの仕事が休みの日で、待ち望んだ手帳が手元に届いた。
 
 少し大きなダンボールを受け取ると、私は彼の元へ足早に行き、心踊るようにそのダンボールを開ける。
 そこには購入のお礼のメッセージと共に二冊の手帳と、二冊分の手帳カバーが入っていた。
 
 彼はダンボールの中身を取り出し、それぞれの前に手帳とカバーのセットで置く。
 
 ああ、ダメ!
 顔がにやけちゃう!!
 
 それを見たのか、彼がくすくす笑った。
 
「楽しみだった?」
「そりゃあもう!! それに、来年はお揃いですね!」
 
 彼は目を細めて、優しく微笑んでくれる。
 
「どう使うか、参考にさせて!」
「はい!」
 
 スケジュールだけじゃなくて、日記にも、他の記録帳にも使える手帳。
 なにより、大好きな彼とお揃いになったのは嬉しくて、毎年使っている手帳だけれど、来年はもっと楽しく使えそうだと思った。
 
 届くまでもそうだったけど、実際に使うまでも心が踊るような気持ちだった。
 
「あなたを思い出せるものか増えました!」
 
 
 
おわり
 
 
 
一一四、踊るように

9/6/2024, 12:10:33 PM


 
 ピピピピ、ピピピピ――
 
 朝を告げる目覚まし時計の音が鳴り響く。恋人たちは揃って音の鳴る方に向かって手を伸ばした。
 
 ピピピッ――
 
 青年の方が先に目覚まし時計に手が届く。その上にもったりと彼女の手が重なった。
 
「あさぁ……」
 
 なんとも言えない気の抜けた彼女の声が耳に届く。青年は手のひらを回転させて重なった彼女の手を掴んで自分の頬に持っていくと寝ぼけ眼で頬擦りした。
 
「本日の仕事はぁ……?」
「休みですぅ……」
「俺も休みぃ……」
 
 ふたりは力の抜けた会話を繰り広げると、青年はゆっくりと瞳を開けて彼女を見つめる。
 
「……起きる?」
 
 青年の言葉に、彼女は片方だけ瞳を開けてぼんやり考えて、もっさりと身体を起こした。
 
「起きます……」
 
 青年は彼女の手を離さないまま、手の甲に唇を寄せた。
 
「じゃあ、起きようか」
「あい……」
 
 仕事であればふたり共、もう少しシャッキリと起きるのだが、休みだと気が抜ける。
 青年も身体を起こして、彼女の頬にキスを贈ると、ぽやぽやした彼女が青年にもたれ掛かった。
 
「ほーら、起きるよ。起きないとくすぐっちゃうよ!」
「いやだぁ、起きますぅ……」
 
 カクンッと彼女の重さが青年の肩に伸し掛った。
 
「……」
 
 ほんの一時だけ間を置いて、青年は彼女を精一杯くすぐって起こしてあげた。
 
 
 
おわり
 
 
 
一一三、時を告げる

9/5/2024, 1:04:34 PM

 
「わっ!?」
 
 突然、恋人が背中に抱きついてきた。背中に頬を擦り寄せて柔らかい温もりに胸が高鳴ってしまう。
 
「この前は旅行、ありがとうございました。とっても楽しかったです」
 
 抱きしめながら、彼女は俺の手に自分の手を重ねる。すると手の中にころんと何かが転がった。
 
「なに?」
 
 何を渡されたのか覗いてみると、コルクで栓をされた小瓶だった。中には、砂浜の上に淡い色の貝殻と、渦を巻いた貝殻が転がっているように見えた。
 
「お土産です。この前の海でこっそり拾って作ってみました。可愛いでしょ」
「可愛い……」
 
 可愛いのは小瓶もそうだけれど、「手作りの思い出をお土産に作ってくれた」ことが、また可愛いと思ってしまった。
 
「連れて行ってくれたことが、楽しかったですし、嬉しかったので!」
 
 俺は彼女に振り返って、また強く抱き締めた。
 
 買ってくるお土産も良いけれど、こういうお土産も宝物になると胸が暖かくなった。
 
「ありがとうね」
 
 
 
おわり
 
 
 
一一二、貝殻

9/4/2024, 11:54:23 AM

 
 きらきら、きらきら。
 
 ああ、やっぱり。彼は特別かも。
 簡単にフタを開けてくる。
 
 
 二度目ましての救助をしてくれた時、優しくしてくれた彼を思い出しては胸が高鳴った。
 
 その後もよく助けてくれる。
 病院に行くと治療してくれた。
 
 帰りに好きなものを布教しようと渡してくれたクリームソーダは私の好きな物でもあって、喜んだらもっと喜んでくれた。
 お返しに少し前に作り過ぎたお菓子を渡した。
 
 きらきら、きらきら。
 彼の笑顔は、とてもきらめいていた。
 
 新しいクリームソーダが出た時、彼を思い出して買った。そうしたら彼がお店に来てお出かけしようと外に連れていってくれた。お礼にとプレゼントしたら「俺からも!」と、くれたものが同じもので笑いあった。
 
 きらきら、きらきら。
 
 仕事が好きで、仕事漬けになっていると知ったら、外に行こうと連れていってくれる彼。
 好きなものが同じなことが多くて、色々話してくれるうちに、きらきらがどんな気持ちか分かってしまった。
 
 きらめいて、ときめいていた。
 
 ときめいちゃダメなのに。
 
 色々な人から声がかかることも、モテる人なのも知っている。彼から見たら私はただの患者で、友達以外のものでも何者でもないだろう。
 
 だから、このきらめきにはフタをする。
 
 
 シャッターが開く音がして、振り返る。
 
「いらっしゃいませー!」
「あ、ごめん。修理してー!!」
 
 きらきら、きらきら。
 今日も太陽な笑顔の彼。
 
 せっかくフタをしたのに、彼のきらめきは簡単に開けてくる。
 
 
 
おわり
 
 
 
一一一、きらめき

9/3/2024, 2:37:55 PM

 
 風呂に入って、髪の毛も乾かして、パジャマに着替えて広いベッドに座りながらそのまま身体を倒した。
 恋人と一緒に眠る用に購入したから、かなり広いベッドだ。
 
「はあ……」
 
 チリッと額に痛みを感じて、少し苛立つ。
 瞳を閉じると、本当の意味でのその痛みの原因が脳裏に過ぎった。
 
 ここ数日、仕事のルールで納得できないことがある。それについて俺は少し強気な考えを持っていて、先日腹が立ってモヤモヤしていた。
 
 カチャリ。
 
 しばらくすると、俺の隣に彼女が同じように横になっていた。
 
「ここで眠ったら、風邪ひいちゃいますよ」
 
 そう言いながら、俺の額から後頭部に向けて優しく撫でる。いつも以上に柔らかい声と、暖かい手が、とても心地好い。
 
「寝てないよ」
 
 俺は彼女の方に向くように寝返りをうつと、彼女の無でる手も向きを変えてくれた。
 そんな状態でも、手をとめずに撫で続ける。
 
「寝られてますか?」
 
 優しいトーンに聞き逃しそうになったその言葉に驚いて、俺はパチッと目を開けて身体を起こした。
 
「わっ!!」
「あ、ごめん……って、え!?」
 
 彼女は俺の行動に驚いたようだけれど、その柔らかい雰囲気を変えず首を傾げる。でも、俺は彼女が放った言葉に口が閉じれないでいた。
 
「眠れてないって……」
「そりゃ気が付きますよ」
 
 気が、付いていたんだ……。
 
 眠れない時は、彼女に背を向けたり、静かに寝室を出たり、起こさないように細心の注意を払っていたのに。
 
 俺が言葉を失っていると、彼女も身体を起こして両手で俺の頬を包み込んでくれた。そして、少しの力で額同士をくっつけた。
 
「イライラしているのは分かっていたんですけど、私に当たるわけでもないし、触れられたくないのかなって思ったから何も言わないでいたんです」
「うん」
「でも、最近眠れてないみたいだから。眠れないのは良くないから……ごめんなさい」
 
 イライラしているのは確かに隠していた。仕事の感情をプライベートである彼女に見せるのも気が引けるし、彼女の性格的にも凄く心配させてしまうのも分かったから。
 
 でも。
 彼女は俺の些細なことでも見逃さずに見守って、必要だと思ったから一歩踏み込んだ。無遠慮に飛び込むのではなく、慎重に。
 それが伝わるのは、最後の「ごめんなさい」だ。
 
 どうしようもないほどの気持ちが溢れて、俺は彼女を強く抱き締めた。
 
「謝らないで。むしろ気を使わせてごめん!」
「ううん。でも、言えなかったんですよね。仕事も守秘義務があると思うし、聞いちゃいけないかなと思ったんですけれど……」
 
 心に申し訳なさが広がる。
 言わないことが心配させないことだと思ったのに違うんだ。
 彼女は気を使ってくれる人だ。
 俺を大切にしてくれる人だ。
 
 俺は彼女を解放して、ベッドの中に入ろうと促した。
 
「仕事的に言えないことはあるけれど、それでも聞いてくれる?」
 
 彼女は俺の腕に収まりながら、大きくうなづいた。
 
「聞くことしかできないかもしれませんが、聞かせてください」
 
 俺はぽつりぽつりと話していく。
 彼女はその合間に相槌を打ってくれる。
 抱きしめる彼女の体温が心地好くて、話終わる頃には意識を手放していた。
 
 
 
おわり
 
 
 
百十、些細なことでも

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