ピピピピ、ピピピピ――
朝を告げる目覚まし時計の音が鳴り響く。恋人たちは揃って音の鳴る方に向かって手を伸ばした。
ピピピッ――
青年の方が先に目覚まし時計に手が届く。その上にもったりと彼女の手が重なった。
「あさぁ……」
なんとも言えない気の抜けた彼女の声が耳に届く。青年は手のひらを回転させて重なった彼女の手を掴んで自分の頬に持っていくと寝ぼけ眼で頬擦りした。
「本日の仕事はぁ……?」
「休みですぅ……」
「俺も休みぃ……」
ふたりは力の抜けた会話を繰り広げると、青年はゆっくりと瞳を開けて彼女を見つめる。
「……起きる?」
青年の言葉に、彼女は片方だけ瞳を開けてぼんやり考えて、もっさりと身体を起こした。
「起きます……」
青年は彼女の手を離さないまま、手の甲に唇を寄せた。
「じゃあ、起きようか」
「あい……」
仕事であればふたり共、もう少しシャッキリと起きるのだが、休みだと気が抜ける。
青年も身体を起こして、彼女の頬にキスを贈ると、ぽやぽやした彼女が青年にもたれ掛かった。
「ほーら、起きるよ。起きないとくすぐっちゃうよ!」
「いやだぁ、起きますぅ……」
カクンッと彼女の重さが青年の肩に伸し掛った。
「……」
ほんの一時だけ間を置いて、青年は彼女を精一杯くすぐって起こしてあげた。
おわり
一一三、時を告げる
9/6/2024, 12:10:33 PM