今日は恋人が食事当番。機嫌が良いのか、鼻唄を歌いながら色々と準備をしている。
青年は彼女が楽しそうに台所に立っている姿を見て、くすりと微笑んだ。
仕事で疲労感がある中、彼女の声がとても心地良い。優しい声に身を任せながらまぶたを落とすと、うっかり意識を手放してしまった。
意識の海から浮かぼうとしている中、温かい手が優しく額を撫でてくれる。それと同時に彼女の歌声が聴こえてくる。
目を覚ますと、青年は恋人の膝の上に頭を乗せていた。
ぼんやりとした意識の中で、彼女の歌声が気持ち良くて、もう一度瞳を閉じた。
おわり
お題:君の奏でる音楽
電車が終点に到着して、旅行中の恋人たちがゆっくりとホームに降りる。そこに広がるのは青い空。漂う潮の香りが鼻をくすぐった。
「うわぁ!!」
「いいところでしょ?」
「はいっ!」
愛らしい恋人の満面の笑みを見る青年は口角が上がる。以前、職場の仲間たちと来た時、とても楽しかったこの場所に、彼女を連れてきたかったのだ。
「日差しが眩しいですね」
「そうだね。でも、晴れてよかった」
朝から電車に揺られて陽も天に昇りきった頃合で、その陽射しは強く痛みを覚える。
青年は自分の鞄から折りたたみができる麦わら帽子を取り出して、彼女の頭に被せた。
「わ!?」
「被って、日焼けしちゃう」
彼女は驚きつつも、柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
この麦わら帽子は、彼女へのプレゼントに用意したものだった。頭の調節しやすい太めの紐はリボンに見える。その紐はふたりが好きな夏の時によく見る爽やかな空の色。
色素の薄い肌の彼女が、日焼けしないようにと青年が選んだ。
照れつつ嬉しそうに微笑む彼女を見ていると、青年は嬉しさが込み上げてくる。
絶対、君に似合うと思ったんだ。
おわり
お題:麦わら帽子
いつもは車やバイクで移動をする恋人たちは、電車で遊びに出掛けている。
だからこそなのか、彼女の瞳からわくわくしている期待感が青年には見えて、口角が上がった。
彼女の仕事上、車両に関わっているので普段の移動手段も車が多いから、青年はこの旅行の移動手段を電車を選んだ。
「どこまで行くんですか!?」
彼女には行き先を伝えていない。
だから、青年は人差し指を口元に寄せて、悪い笑みを彼女に送る。
「なーいしょ」
行先は終点。
彼女はワーカホリックなので会社から中々出ることがない。だから、この都市で知らないことが多い。
仕事のメンバーで行って楽しかった記憶のある場所に、どうしても彼女を連れていきたかった。
「楽しい旅行にしようね」
青年の言葉に振り返った彼女は満面の笑みで笑う。
「はい! たくさん思い出作りましょう!!」
おわり
お題:終点
今日、かねてから付き合っていた彼女と一緒に暮らし始める。
休みの関係上、俺の方が先に家に荷物を入れられた。
彼女の荷物はこれから一緒に片付ける。
片付けると言っても、洋服関連は流石にいじりません。
そんな時、彼女の盛大な悲鳴と共に景気よくガラスが砕ける音がした。
「え!? 大丈夫!!?」
「お気に入りのお皿が粉々になりましたー!!」
薄水色で彼女も俺も好みの色の皿が……皿とは思えないほど無惨なものになっていた。
「ひとまず動かないで。怪我はない?」
「うぅ……。怪我はないと思います」
「分かった。変に動くと怪我するかもだからまずは動かないで。掃除したら怪我してないか確認するね」
はいと返事をするが、明らかにしゅんとする彼女。そんな恋人を横目に、俺は掃除道具を持って割れた皿を片付けた。
「うぅ……初日からやっちゃいました……気に入っていたのに……」
皿を片付けた後、彼女を立たせて軽く彼女を診る。医療道具はさすがにないけれど、救急隊として日々仕事をしている俺としては、このくらい普通にできた。
本当にお気に入りの皿だったのだろう。彼女のへこみようが見ていて痛々しい。
特段怪我もないことを確認した俺は、優しめに抱きしめる。
「上手くいかなくてもいいんだよ。失敗も思い出にしていこう」
「……はい。お皿は悲しいですが、思い出にします」
俺は彼女の背中を落ち着くようにぽんぽんと叩く。そしてふたりの予定を頭で確認した。
「お皿、明日買いに行こう。ふたりでお気に入りになるような皿を探しに行こう!」
彼女は驚いた顔を向けたかと思ったら、少しずつ嬉しそうに微笑み、俺を強く抱き締め返してくれた。
「はい、お気に入りのお皿、探しに行きましょう!!」
おわり
お題:上手くいかなくたっていい
うちの会社は、ファミリーみたいな温かさがある会社。社長をお母さん、従業員はその子供という〝てい〟で、家族ごっこが始まる。
社長の〝お母さん〟は板についていて。
本当にいつから、この茶番劇が始まったのだろうと笑ってしまった。
そして思い出す。
末っ子気質の同期の彼女は、その気質の通りに会社の末っ子だ。
その彼女と社長のやり取りが発端だった気がしてきた。
あの時は、わたしも〝お姉ちゃん〟って言われたなあ。
懐かしい思い出に浸っていると、その子がお客さんと話しているのが聞こえた。
天真爛漫に笑って、お客さんの対応をしているから、お客さんから蝶よ花よと愛されている、同期の彼女。
そして、話している相手は彼女が気になると言っていた救急隊の先生。
さてさて。
〝お姉ちゃん〟は可愛い〝妹〟の恋を応援しましょうかね。
おわり
お題:蝶よ花よ