とある恋人たちの日常。

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6/13/2024, 10:58:16 AM

 しとしとしとしと。
 
 降る雨が花や葉に当たり、優しい音を奏でる。
 そこに二人の足音が加わった。
 
 今日は花見に来た。雨とともに見ると良いと思う花見に。
 
 両端には色とりどりの紫陽花が連なっている。
 少し途切れてはまた見事な紫陽花たち。
 
「足元、気をつけてね」
 
 ぬかるみを渡った後、青年が恋人に手を差し伸べた。
 
「はい、ありがとうございます」
 
 彼女は嬉しそうに微笑んで、青年の手を取って、ゆっくりとぬかるみを超える。
 
 彼女は、そのまま後ろを振り返ると、先程まで歩いていた紫陽花の道が連なっていた。
 
 しとしとしとしと。
 
 動かない彼女を怪訝に思い、離さなかった手に力を込める。それに気がついた恋人は振り返った。
 
「雨が降ると低気圧で、頭痛くなるんですけれど……」
「うん」
 
 彼の声を聞いた後、彼女は再び言葉を止める。
 
 しとしとしとしと。
 
「雨の音が音楽みたいで、安心感がありますね」
 
 ここで言葉を返すのは無粋かな。そう思った青年は、恋人の手を握って、しばらく紫陽花と雨が奏でる音楽と、その景色を堪能した。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:あじさい

6/12/2024, 2:20:33 PM

 楽しいことが好き。シリアスは苦手。
 それでも、逃げられないことは沢山ある。
 
 仕事のことでも、生活のことでも。
 
 たくさんの〝楽しい〟に囲まれていても、時折訪れる逃げることが出来ない〝シリアス〟。
 
 
 
―――――
 
 
 彼女の職場は、時に事件、事故に巻き込まれやすい場所にある。
 慣れて油断した時に、彼女の職場で事故からの事件が起こったと聞いた。
 
 頭の中で混乱して、彼女のことが心配になるが、俺は俺の仕事……救急隊としての仕事をした。
 
 救助で病院に戻った時、彼女がいた。
 背筋が凍る。
 
 ほんの一瞬だけの動揺だったが、俺は目の前の救助に集中した。
 
 
―――――
 
 
 今回の事故対応が一段落した時、休憩と称して彼女の職場に向かった。
 彼女の会社の近くに着くと、スマホを取り出して彼女を呼び出す。
 
 彼女は、仕事を抜け出して、俺のところに走って来てくれた。
 
「どうしたんですか?」
「大丈夫!? さっき、病院にいなかった!?」
「あ! あれは友達のお迎えと、私もちょうどケガをしちゃったので、治してもらおうって行ったんです」
 
 彼女は恥ずかしそうに照れ笑いをする。
 
 そうか、あの事故に他の社員が巻き込まれたのか。
 
「そ、そっか。友達は無事?」
「はい、お陰様で!」
「君は無事?」
「私はもっと元気です!!」
 
 俺は安心して、しゃがみこんでしまった。
 
「心配……してくれたんですか?」
 
 彼女は俺に寄り添うようにしゃがみこんでくれた。
 俺は小さく頷いた。
 
 彼女が俺の両手を取って、立ち上がらせてくれる。
 
「私は無事です。心配してくれて、ありがとうございます」
 
 彼女は優しい声で言いながら、俺に微笑む。
 視界が涙で歪みそうになるのをグッと我慢して、彼女を強く抱きしめた。
 
「もう! 俺、こういうことは本当に、苦手なんだからね〜」
 
 
 
おわり
 
 
お題:好き嫌い

6/11/2024, 1:08:34 PM

 ここに来た時は、どんな未来が待っているのか、不安と期待が入り交じっていた。
 
 救急隊の仕事に就いて、その仕事でヘリに乗る。
 朝だったり、昼間だったり、夕方だったり、夜だったり。
 色々な顔を持った街。
 
 そして、色々な人達と、彼女と出会えた。
 
 今、ここが俺の街。
 
 
 
おわり
 
 
お題:街

6/10/2024, 12:54:06 PM

「ふぁあふっ……うーん……どうしようかな……」
 
 青年はソファに転がって、大きな欠伸をしつつ、唸りをあげていた。
 
「んもう、どうしたんですか!? 邪魔ですよ、座れません」
「ふぁい」
 
 青年は身体を起こして、いつもの定位置に座り直す。恋人は両手に持っていたグラスをローテーブルに置いて、彼の隣に座った。
 
「なにを考えていたんですか?」
「明日の休み、どうしようかな〜って」
 
 前々から約束していた。今度、休みが一緒になったらどこかに行こうと。
 ふたりでデートに行きたいと言われていた。
 
「行きたいところはないんですか?」
「ある! たくさん!!」
 
 パッと、勢いつけて彼女に振り向いた。
 
「バスケ、テニス、ボーリング、釣り、それに他にも……」
 
 挙げればいくらでも出てくる。
 付き合う前から遊んでいたけれど、新しいことだけじゃなく、同じことをやっても楽しい。
 
「なにしたい?」
「うーん……」
 
 彼女はじっと青年を見つめる。彼女は彼女で思うところはあるようだった。
 唐突に彼女は青年の両目の下をなぞる。
 
「明日は家でごろごろしましょう」
「へっ!?」
「家で、いちゃいちゃしたいです!」
 
 頬を赤らめつつ、満面の笑顔でそう言う彼女。てへへと、照れ笑いをしながらソファから立ち上がって席を外す。
 
 青年も耳が熱くなる。彼女の笑顔が愛らしかったからなのはもちろんなのだが……。
 
 あれは……バレてるな。
 
 青年が一番欲しいもの。
 彼女とゆっくりとした、休みの時間。
 
 
 
おわり
 
 
お題:やりたいこと

6/9/2024, 11:18:37 AM

 眩しさに負けて、眠りの海から這い上がる。ボンヤリと目を開けると朝日が目に入った。
 肩には重みがあり、視線を送ると恋人が無防備な顔で眠っている。
 
 えっと、状況を整理しよう……。
 
 彼女を起こさないように、天を仰ぐ。
 
 昨日は、彼女と色々話して盛り上がって、盛り上がって……その勢いで寝たのか。
 どれだけヒートアップしたんだろう、俺たち。
 
 さすがに彼女を起こそうと、身体を揺らす。
 
「起〜き〜て」
「うう……ん……」
 
 彼女が伸びをしながら、ゆっくりと身体を起こす。
 
「今、何時ですかぁ……」
「八時過ぎだね」
 
 まあ、そこまで寝坊したわけではないが、寝方がまずかったな。
 
 俺も彼女に習って身体を伸ばす。
 
「うわ、身体がバッキバキだ」
「頭痛いです……」
 
 彼女はまだ微睡んだ中にいるのは分かった。ぽやぽや状態の彼女を無理に起こしてもな……。
 
 まだ、目が開ききらない彼女を後ろから抱きしめ、誘導してもう一度ソファに座らせる。そのまま俺に寄りかからせた。
 
「どうしたんですか?」
「五分だけ、ね」
 
 まだ身体が起ききらないだろうから、朝日を浴びてゆっくり目を覚まさせようと思った。
 
「起きたら、朝ごはん食べて、身体を動かしに行く?」
 
 外に視線を送ったまま、気にせず声をかける。
 
「いいですね」
 
 彼女の声は、少しずつ覚醒してきていることを伝えてくれた。
 
 のんびり、のんびりと。
 朝日の温かさ、彼女の温もりを両方感じながら、身体と心の目を覚ましていく。
 
 ゆっくり、ゆっくりと。
 
 
 
おわり
 
 
お題:朝日の温もり

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