彼女のイメージカラーは白か、かなり薄い水色。
本人も全体的に色素が薄くて透明度の高い。そんな彼女。
「なんですか、そんなに見て」
夕飯後。
のんびりとソファに座りながら、そんなことを考えていた。ぼんやりと彼女を見つめていたものだから、不審に思った彼女から声がかかった。
「いや……キレイだなって」
「な、に、言っているんですか!?」
慌てながら、視線を逸らす彼女。よく見れば耳まで赤い。
「なんというか、汚れてない感じ?」
それを伝えた瞬間。唇を尖らせてこっちをねめつける。
ゆっくり近づいたかと思うと、膝に乗っかった。
「わたし、そんなに無垢じゃないですよ」
そう言うと、彼女の温もりが全体に伝わった。
おわり
お題:無垢
「これってどう思います?」
「うーん、難しいなあ……」
「ですよね。でも、うちの会社では結構大きな問題になっているんです」
家に帰って、夕食を済ませた二人。ソファに座って二人が抱えている悩みを話し合っていく。
あーでもない。
こーでもない。
職種の違う二人は、違う目線で話し合う。
費やす時間は短いものではなかった。
「難しいねぇ……」
青年がソファに身体を預けながら言う。さすがに煮詰まった感が否めなかった。
「大事になり過ぎると、私たちじゃどうにも出来ませんしねぇ……」
そう言いながら、彼女は立ち上がって台所に足を向ける。
「どうしたの?」
「糖分入れましょう!」
彼女は取っておきのグラスを出し、冷蔵庫を開けて、氷と炭酸を注ぐ。棚からシロップを出し、鮮やかな色に変化させる。そしてポンとアイスクリームを乗せた。
「クリームソーダ!!」
「はい!!」
彼女が作ってくれたクリームソーダを口に含むと、その甘さが身体に染み渡る。疲れた脳みそにも効くというものだ。
休憩にしっかりと時間をかけると肩の力が抜けた気がした。
「まだまだ?」
青年は恋人に挑戦的なほほ笑みを向ける。
「明日、休みですから、まだまた、です!」
二人の話し合いは、まだ。
おわり
お題:終わりなき旅
いつもにも増して、視線が痛い。
頬を膨らませた恋人が、正座した俺の目の前で仁王立ちしていた。
心当たりは、まあまあある。
アレかな、コレかな。
あ、この前、彼女用のクリームソーダを勝手に飲んだからかな?
考えれば考えるほど、心当たりしかなくて苦笑いしてしまった。
「え、えっとね、喉が乾き過ぎたのと、甘いものが欲しくてつい……」
思い当たるものが多過ぎるが、その中で当たりどころの大きいものから、謝ろうと言葉を選ぶ。
「そんなことで、怒りません。あ、嘘です。今度、クリームソーダ買ってきてください」
アレ? これじゃない?
じゃあ、どれだ?
思いついたものを片っ端から謝罪していくが、どれも違った。
話せば話すほど、彼女の首は横に振られ、的が外れていく。
なんだ〜?
なんで、こんなに怒っているんだ〜?
頭の中に宇宙の渦のようなものが出来上がっていく。
「今日、お仕事しているところ、見えたんです」
彼女がゆっくりとしゃがみ、俺と視線を合わせてから、静かに話し始める。
それは、今日の仕事のこと。
思い起こすのは、救助を優先し過ぎて、少し危ないことになりかけた。隊長からも、その事はコテンパンに怒られたけれど、まさかそれを見られた?
彼女が正面から俺を抱き締める。
「もっと自分を大切にしてください。私が怒っているのはそこです」
顔は見えないけれど、涙声になっているのは分かった。
彼女が一番怒ること。
俺自身が、俺を大事にしない時だった。
逆ならきっと俺も同じ怒り方をするなと思うと、申し訳なさが増して、彼女を強く抱きしめ返した。
「ごめん。本当に、ごめんね」
おわり
お題:「ごめんね」
「すっかり夏だねぇ」
「その割には湿度が高くないから、過ごし易いですよね」
居間にあるベランダへ出られる大きな窓から、日が差すとある休日。
二人はソファに座りながら、喉を潤す。透き通った琥珀色の飲み物に氷が入り、ストローを回す。グラスと氷がぶつかり、からんからんと涼やかな音を立てていた。
「明日も暑いのかな」
「んーっと……」
彼女はスマホですいすいとアプリを立ち上げた。
「明日も暑いみたいです」
「そっか〜……」
なんとも嫌そうな声に恋人が疑問符を浮かべる。
「夏や暑いの、嫌いでしたっけ?」
恋人の至極単純な疑問に、青年は彼女から視線を逸らした。
「別に嫌いじゃないけど……君が半袖の薄着になるでしょ。それが嫌なのっ」
背中から彼女の強い視線を感じる。
思春期の学生じゃないのに、こんなふうに思う青年は顔も耳も熱くなっていた。
おわり
お題:半袖
「「から〜い!!」」
夕飯を囲むのは、お土産と貰ったカレー。
〝美味しいから!〟と渡されたカレーは激辛だった。
二人は大の甘党。特に彼女は辛いものは苦手で、テーブルに突っ伏してしまっていた。
顔を赤くし涙目の彼女。
自分も辛いものは苦手だけれど、彼女はもっとだ。
「うぅ……地獄だぁ……」
二人頷きながら、スプーンを進めていく。
「食べ終わったら、いいものあげる」
「ほんと!?」
「もちろん!」
「分かった、食べる!!」
辛い中にもうま味を感じて、口に運んでいった。
食べ終わると青年は冷蔵庫から、とっておきのものを出してくる。
「じゃーん!!!」
青年が持ってきたのは、シュワシュワの炭酸にバニラアイスが乗った二人の大好きな飲み物。
「あ、クリームソーダ! 見たことないやつ!」
「そうなの、また新しく見つけたんだー!」
彼女のきらきらした瞳がクリームソーダに釘付けになる。ひとつを彼女の前に差し出すと嬉しそうに受け取った。
ストローを刺して吸い込むと、喉に通る炭酸が心地好い。
「「あまーい!!」」
思わず声が揃ってしまった。
「ふふ、天国です」
カレーで汗をかいた後に、口に含む涼やかな炭酸とクリームの甘さが口に広がると、満面の笑顔が青年に向けられた。
おわり
お題:天国と地獄