また来たのか。
いつの間にか私の隣には彼女が居る。公園の2人用ベンチに並んで座り、まるで友人のように。
だけど、余り悪い気はしなかった。私の事を聞いてこないし、一方的に話すこともしない。
本を読んでいる時は、近くの自動販売機で珈琲を買ってきたりする。―――これは少し困るが、悪い気はしない。
「最近」
彼女はポツリと呟く。
「花畑を思い出すんです」
「花畑を?」
私は彼女を見る。彼女の横顔は何処か遠くを見ていた。
「はい、夜で満月なんかも出て。幻想的ではあるんですが。何だか悲しい気持ちになるんです」
そっと目が細くなる。今にも泣いてしまいそうだ。
「何で、悲しくなるの?」
彼女は私を見て首を左右に振った。
「分かりません。只々、悲しいんです」
秋風が銀杏の葉を撫でる。小さい渦ができ、辺りを散らかす。
静かに涙が流れている。何だか言いようのない感覚を覚え、私はポケットからハンカチを差し出す。
「あぁ、ありがとうございます。ですが」
受け取ろうとしない彼女に私は溜め息を漏らしながら、頬を伝う雫を拭った。
「………え?」
「私にも分からないけど、何だか落ち着かないから」
分からない、泣いている彼女を見るのは嫌だった。
〈続〉
海のさざ波が聞こえる。
私は一人、目を覚ました。
空には満月。
青白い空を視界に収める。
ゆっくりと半身を起こし、辺りを見渡す。一面赤かった。風に触れ、花びらがそよぐ。
彼岸花だ。優しく包む月光に彼岸花が照らされる。
しんと悲しくなる。美しいのに、無性に悲しくなる。と、目の前で誰かの影が行き過ぎる。手を伸ばす、痣がある女性の影。
誰、だったか。忘れてしまったけれど何故か愛おしい。私は目閉じ、彼女の影を探した。
〈続〉
あの、少し話しませんか?
そう貴方は言った。私は首を振る。
秋空、子供達の声、そして目の前に立つ痣が目立つ女性の影。
私は貴方の事を知らない、話すことはない。と突っぱねた。
だけど、貴方は私の声聞いてか聞かずか、私の隣に腰を落とした。
〈続〉
静寂だけが私の中を満たす。
音、自分が発する音もいつの間にか聞こえない。
息さえ覚束ない。そのくせ苦しくはない。
明日を考える頭もない、このまま静寂の中で終わりを迎えるのだろう。
私は目を閉じる、何処からか声が、懐かしくて切なくさせるこの声は。
誰、だろう………――――。
――――誰か。
――――助けて。
暗闇に零した声は何処か遠くへ消えた。
必死に藻掻けば届くと思っていた、安易な考えは儚く散る。
だから、嬉しかった。貴方の手が、声が。
一人が怖いままでいる私には貴方が唯一の光だった。