月影

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10/21/2025, 7:52:53 PM

また来たのか。
 いつの間にか私の隣には彼女が居る。公園の2人用ベンチに並んで座り、まるで友人のように。
 だけど、余り悪い気はしなかった。私の事を聞いてこないし、一方的に話すこともしない。
 本を読んでいる時は、近くの自動販売機で珈琲を買ってきたりする。―――これは少し困るが、悪い気はしない。
「最近」
彼女はポツリと呟く。
「花畑を思い出すんです」
「花畑を?」
 私は彼女を見る。彼女の横顔は何処か遠くを見ていた。
「はい、夜で満月なんかも出て。幻想的ではあるんですが。何だか悲しい気持ちになるんです」
そっと目が細くなる。今にも泣いてしまいそうだ。
「何で、悲しくなるの?」
 彼女は私を見て首を左右に振った。
「分かりません。只々、悲しいんです」
 秋風が銀杏の葉を撫でる。小さい渦ができ、辺りを散らかす。
 静かに涙が流れている。何だか言いようのない感覚を覚え、私はポケットからハンカチを差し出す。
「あぁ、ありがとうございます。ですが」
 受け取ろうとしない彼女に私は溜め息を漏らしながら、頬を伝う雫を拭った。
「………え?」
「私にも分からないけど、何だか落ち着かないから」
 分からない、泣いている彼女を見るのは嫌だった。
〈続〉

10/11/2025, 12:43:30 PM

海のさざ波が聞こえる。
 私は一人、目を覚ました。
 空には満月。
 青白い空を視界に収める。
 ゆっくりと半身を起こし、辺りを見渡す。一面赤かった。風に触れ、花びらがそよぐ。
 彼岸花だ。優しく包む月光に彼岸花が照らされる。
 しんと悲しくなる。美しいのに、無性に悲しくなる。と、目の前で誰かの影が行き過ぎる。手を伸ばす、痣がある女性の影。
誰、だったか。忘れてしまったけれど何故か愛おしい。私は目閉じ、彼女の影を探した。
〈続〉

10/10/2025, 10:53:41 AM

 あの、少し話しませんか?
そう貴方は言った。私は首を振る。
 秋空、子供達の声、そして目の前に立つ痣が目立つ女性の影。
 私は貴方の事を知らない、話すことはない。と突っぱねた。
 だけど、貴方は私の声聞いてか聞かずか、私の隣に腰を落とした。
〈続〉

10/8/2025, 9:31:44 AM

静寂だけが私の中を満たす。
 音、自分が発する音もいつの間にか聞こえない。
 息さえ覚束ない。そのくせ苦しくはない。
 明日を考える頭もない、このまま静寂の中で終わりを迎えるのだろう。
 私は目を閉じる、何処からか声が、懐かしくて切なくさせるこの声は。
誰、だろう………――――。

10/3/2025, 10:09:28 AM

――――誰か。
――――助けて。
 暗闇に零した声は何処か遠くへ消えた。
 必死に藻掻けば届くと思っていた、安易な考えは儚く散る。
 だから、嬉しかった。貴方の手が、声が。
 一人が怖いままでいる私には貴方が唯一の光だった。

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