月影

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ぬるくなった炭酸飲料を君は相変わらずの無表情で飲んでいる。
 背を伸ばす入道雲、晴天の空、夏の青と君の汗と。
 こころは遠く、伝えたい言葉は頑丈に施錠されたまま動けないでいる。
 光陰矢の如し、時間は有限だ。あと少しで長い夏も終わる。そしたら、私は。
「嗚呼、暑いね」
「そうだね」
 やっぱり、私には無理だ。素直に思いを伝えるのは。
 私は目を閉じ、君に寄りかかる。小さい肩は微かに震えたが、嫌がらない。溜め息もなく黙って肩を貸してくれた。
すっかりぬるくなった炭酸飲料を握ったまま、君との最後の夏に思い馳せた。

8/3/2025, 12:40:38 PM