月は来る者を拒まず包み込み、星は来る者の橋になり儚く輝く。
あの日約束した貴方の面影をポケットにしまい込んで僕は星の橋にそっと足をかける。
月世界で貴方に会えると信じて――。
「気持ち」〈一部グロテスク注意⚠️〉
ねぇ、ご主人。私、ご主人のためなら何でも出来るよ。だから、構ってよ。また昔みたいに。
昨日も一昨日もずっと私に構ってくれないね。分かった、周りに置かれている人形たちみたいになればまたご主人に気に入れられるよね。
そうと決まれば、まずは。
(おもむろに自身の右腕を取り、そのまま引き千切った。大声を上げ泣き叫ぶ)
はぁはぁ、ハハハ……。痛い。でもまだ足りない。まだ人形たちよりまだ残ってる。まだ…。
(今度は左目に指を当てがて強く押す。目の前がチカチカと光るが、構わず押し込んだ。激痛に耐えかねてバランスを崩して倒れる)
「何してるの」
聞き慣れた声。安心する。私の心は乱れ切っていた湖面が落ち着いた湖面に変わるように静かになる。
身体が持ち上がる。久しぶりにご主人の目を見れた気がした。
私、頑張ったんだ。またご主人に遊んでもらいたくて、私、頑張ったんだ。
「此処、取れかかってる」
真っ黒い瞳のまま、私の左腕を掴む。そして、蔑んだ表情を浮かべる。
あぁ、やっぱり、私はご主人が好きだな。
※※※
「また壊したの?」
母親は少女の手元を見ながら呆れた。すると、少女は頭を振り、笑った。
「違うよ、勝手にお人形さんが壊れたんだよ」
そう言いながら、少女は手元の頭を握り潰す。母親はその光景にため息を吐いた。
また新しいのを調達しなきゃ、今度のは頑丈そうな子を。
暗がりの夜道、人気のない道を一人歩く。
辺りには僕一人の筈だが、何処からか視線を感じる。
後方から知っている声がして振り返るも、闇だけがあるばかり。
暗がりの夜道、過ぎ去る風は何処か肌寒く感じる。
恐怖はあれど、もう遅い。行き着く先はこの夜道に戻ってしまう。かれこれ、何周目かも忘れた。
ただこれだけは分かる。迷っているのでも酩酊しているのでもない。ただ僕はもう………。
明日にはまた笑顔で会えるだろうか。
不安が胸にのしかかる。沈む夕日、夜に移ろう空。
明日に変わろうとする時間とは別に、私の時間だけが今日に取り残されていく。
私は目尻に溜まった涙を拭う。
涙の跡ができないように。
夏の光、蝉の鳴き声、花火、夏祭り。
思い浮かぶ、忘れられないあの日の出来事。
私の帰れる場所なんて、すでになかったんだ。
雨の気配、アスファルトの匂い、夜風、鈴虫の鳴き声。それから――こちらに背を向ける貴方の影。