ゆずし

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3/5/2023, 10:31:40 PM

 
「たまには外で遊んできなさい」

 いつもおかしい教授が、今日は一段とおかしかった。常に研究室に入り浸っている当本人がそんな事を言った。
 
「と、言いますと?」
「『遊ぶ』という概念に制約は無いはずなのに、最近の子供はゲームをする事を『遊ぶ』と認識している」

 ああ、確かに。言われてみればその通りだ。

「外で遊ぶ、には『遊び』をまず定義し、ルールを作成又は準用する必要がある。その際、"自由"な発想が求められる」

 自由とは、何でも出来る事を意味するが、何をするかを決めるのもそれなりに労力がいる。

 そうか、教授が言いたいのは───。

「"ゲームをする"は自由な「思考」を放棄していたって事ですよね。だから『たまには』自由の中で思考する必要性を問うていた、と。なるほど分かりました!」

 ぼくは、急いで外に走り出した!


「……いや、君には外の空気を吸って来いぐらいの意味で言っただけなのだが。やれやれ、慌ただしい子だな」



3/5/2023, 3:55:38 AM

 
 想いを綴るのが日記。
 想いを送るのが手紙。

 想いを伝えるのが言葉。

「残念ながら……彼女はもう」

 死んだ。
 微かにあった息が完全に途絶えて。

 医師の言葉を半分無意識状態で聞き流した。もう、彼女の想いが伝わる事はない。話すという当たり前が行えない。

 交通事故に巻き込まれた。ぼくの手の中にあった指輪が皮肉も綺麗に輝いていた。今日、渡すつもりだったこれを。


「遺族の方から、これを預かっています」
「手紙、ですか……?」
「毎日書き留めていたそうです」

『想いを綴るのが日記。でも、自分だけで完結しちゃうのは勿体ないから───』

 手紙を握る手が強くなる。紙にくしゃりと皺が寄る。涙で文字が薄らと滲んだ。

『大好きな君に、手紙として想いを送りたいと思います』


 ○月○日「今日は君がついに告白してくれた。ありがとうっ、人生で一番幸せだよ」
 ○月△日「初デート、楽しみだぁ」
 □月○日「急に泊まりは卑怯だよ。本当に待って」

 ☆月□日「いつか……"君と結婚したい"」


「───それが、今日になる……はずだったんだ」

 君の願いは、想いは確かに伝わった。
 でもごめん、それは叶えられない。


 もう、君はこの世に居ないんだから。

3/4/2023, 3:53:13 AM

 
 子供の時期か、子供が出来た大人の時期にしかそれを意識する事は無いだろう。まして、男の子なら尚の事、関係がない。何故ならその日は女の子の為にあるからだ。


「何故ひなまつりに人形を作るか知っているかね」


 研究室に行くと、教授は愛おしげに人形を眺めていた。
 また何かおかしな事を言っている。

「身代わりさ。病気や災いなどを肩代わりする。古来より人は魔除けとして藁人形を作ってきたが、お雛様だけはどこか格別だ。品質は格段に上がり、ただの人形に今や価値を見出している。実に不思議な事だろう?」

 確かに、そうかもしれないが。

「あまりに非論理的でロジカルの欠片もない催しである事に違いないが、3月3日が特別であり続けるというのは、とても魅力的であり興味深い事象だ。是非今度の学会に───」

「出しませんし、研究しませんから!」


 ただ教授の言う通り、少し不思議だとは思った。

 なんでだろう?

3/3/2023, 4:09:10 AM

 
「いいか……俺達が助かるにはこれしかない」
「本当にやるの?」

 薄暗い倉庫の中、俺達は閉じ込められた。
 そんなベタな展開がある訳、と思っていたがドアが施錠された訳ではなくただ単に建付けが悪くて開かなくなったのだ。

「強引にドアを破壊する」
「修理費請求されないかなー」
「これこそが、たった1つの希望……」
「カッコつけんなっ、ただの脳筋思考だから!」
「では他にどうする」
「あの高窓から脱出……は無理か。背が届かないし」

 ……。

「うぉぉおお!!」
「ちょ待て待て、早まるな〜!!」

 羽交い締めにされて止められてしまった。

「もう少しこのままでもいいじゃん……二人っきりになれる時間なんてあんまり無いんだから」
「それは、そうだが。まあ、うん」

 心地よい静寂が流れていく。
 早鐘を鳴らす心臓の鼓動だけが一定のリズムを刻む。背中合わせになると、彼女の体温を直に感じた。

 ここは学校だ、夜になればきっと誰か来る。
 なら、もう少しこのまま。

 このまま……。
 自然と身体を寄せ合って、


「おーい、先生が早く戻って来いって……え」
「「あ」」
「ッスゥーー、お邪魔しました」
「「待て、誤解だから」」

 ………………

 …………

 ……


「という展開で今度本を出そうと思う」
「もう賞味期限切れだろ、そのネタ」

3/2/2023, 4:13:28 AM

 
「誕生日近いんだってな。何か欲しいものあるか?」
「彼女」
「アホか」

 欲望に忠実に言ったのに。

「なら金」
「生々しいな、却下」
「単位」
「大学生全員の悩みだろそれは」

 欲望というか、煩悩の塊。


 究極幸せは掴むものであって、貰う物じゃない。そして、掴む為に『欲望』という感情は必須なのだろう。

「いらんよ。男同士でプレゼント交換とかアホらしい」
「確かに。仕方ない、今日は飯を奢ってやろう」
「それはいい事を聞いた」

 こうして、歳を重ねた。欲望の形は、歳によって色々変わるだろうけど、叶える為の努力は惜しまない方がいい。

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