初心者太郎

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3/24/2026, 4:59:17 AM

—嘘しか話せない王子様—

ある国の王子様は、魔王に呪いをかけられてしまった。

「先代の王への復讐だ。お前に真実を話せなくなる呪いをかけてやろう」

魔王は、魔法をかけると不気味に微笑んでその場を去っていった。
その時、王子様はベビーベッドの中で、きゃっきゃと嬉しそうに笑っていた。

——

それから五年が経った。

「飯がまずい。なぜ、こんなものが作れる」
「すみません! すぐに作り直して参ります!」

油断するといつもこうなる。
本当の気持ちを伝えられないことに、王子様は困っていた。

「お待たせしました!」
「……」

王子様は黙って食事をした。

「本当にえらそうで嫌い」「傲慢すぎるわ」などと陰口を言われる始末。

この呪いのせいで、家族からも敬遠されていた。王子様はひとりぼっちだった。

「ねぇ、王子様。何をしてるの?」

川辺で魚を眺めていると、少女が話しかけてきた。

「……」
「一緒に遊ぼうよ!」
「嫌だ!」

王子様の本音が、ぽろっと漏れた。

「……王子様って、いつも嘘つきだよね。だって、全然嫌そうじゃないもん」
「本当に嫌なんだ。はやくどこかにいってしまえ」
「うん。わかったよ」

少女は、王子様の唯一の理解者だった。

「じゃあ、あっちでおままごとしようよ」
「いいよ」
「えっ……、じゃあ、虫探しは?」
「……したくない」

少女はにっこり微笑んだ。
王子様の手をとり、駆け出した。

「はやくしないと日が暮れちゃうよ!」
「いいよ、もうはやく帰りたい!」

王子様は心から笑っていた。
少女は振り返って言った。

「うん! いっぱい遊ぼうね!」

お題:特別な存在

3/22/2026, 2:44:19 PM

—誕生日サプライズ—

今日は、彼女の誕生日だ。
だから、俺はサプライズをすることにした。

準備は、彼女が仕事から帰ってくる十九時までに終わらせなくてはならない。
職場を早く抜けてきたつもりだったが、あと三十分しかない。

「よしっ! 飾り付けはオッケーだ」

壁に風船や、折り紙で作った輪飾をテープで貼りつけた。

「次は料理を並べないとな」

帰りにスーパーで買った少しお高めなサラダやローストビーフ、寿司等を皿に盛り付ける。

残り十分。
プレゼントは用意できている。ラッピングしたそれをそばに置いている。
ケーキは冷蔵庫だ。

俺は彼女が帰ってくるまで、大きな段ボールの中にクラッカーを持って身を潜めた。

ここから出て、彼女をびっくりさせてやるのだ。

——

今日は私の誕生日。
腕時計をみた。午後七時。

実は、彼が私にサプライズを仕掛けてくれることには事前に気づいている。

ベッドの下にたくさんの飾り付けがみえたから。それに朝から彼の様子がいつもと違っていたからだ。

鍵を回す。

「ただいまー」

私は何も知らないふりをして家に入った。
リビングにつながる透明なドアから、中の様子がみえた。中央に明らかに大きな段ボールが置いてある。

(バレバレだよ!)

大人一人が入れる大きさだった。
小さく咳払いをして、表情を固めた。

「ただいま」ともう一度言った。
「誕生日おめでとう!」

彼が勢いよく飛び出してきて、クラッカーを鳴らした。私は驚いたふりをしておく。

「うわっ、びっくりした!」
「えへへ、でしょ。誕生日おめでとう」

彼は、頭の後ろを掻いて笑った。

「はい、いつもありがとう」

彼はそう言ってプレゼントをくれた。
私がずっと前から欲しいと言っていた、ヘアブラシだった。

「嬉しい。ありがとう!」

今夜の誕生日パーティーは、とても素敵な会になった。
バカみたいに笑い合って、最高の思い出になった。

お題:バカみたい

3/22/2026, 5:03:33 AM

—相合傘—

演劇部の部室の窓に、雨が打ちつけ始めた。
朝の天気予報では、一日曇りのはずだった。

「マジか、今日雨降んのかよ」
「折りたたみ傘、持ってないの?」

隣に座る水野が訊いてきた。

「ちょうど先週、壊れちまったんだよ」
「あぁ。あの時、風強かったもんね」

台風が近づいているわけでもなかったのに、台風並みの暴風が吹いていた。
そのせいで、俺の折りたたみ傘は骨がバキバキに折れてしまった。

元の状態よりも、折りたためる傘になってしまったわけだ。

「あたし、傘持ってるけど」
「なんだよ、嫌味かよ」
「そうじゃなくって……。あたしの傘でいいなら、駅まで入れてあげるって話」

俺の鼓動は急激に速くなった。
つまり、相合傘ということだ。

「いいのか?」
「だって、濡れたくないでしょ」
「……じゃあ、入れてもらおうかな」
「うん。帰ろっか」

彼女は、いつもと変わらない口調でそう言った。

昇降口を出ると、小雨に変わっていた。
しかし、ここで一人で帰ると言い出したら、逃げたみたいに捉えられる可能性があるので、俺は何も言わなかった。

「あんたの方が背が高いんだから、あんたが傘持ちなさいよ」
「わかったよ」

俺は右側に立ち、傘を握った。
彼女の歩幅に合わせて歩き出した。

「本番、来週だな」

何を話せばいいのかわからず、演劇部の舞台の話を持ち出した。

「そうね。でも大丈夫よ。きっと上手くいく」
「そうだな」

緊張のせいか、あまり会話は続かず、駅まで来てしまった。

「助かった。サンキュー」
「折りたたみ傘、ちゃんと買いなさいよ」
「あぁ」

傘についた雨水を払い、綺麗にたたんだ。
それを返す時、彼女の頬が少し赤くなっていることに気がついた。

「今度、なんか奢ってね」彼女は言った。
「わかった」

また明日、と言って俺たちは改札で別れた。
エスカレーターに乗っている時、俺は大きく息を吐いた。
もっと色々話せばよかった、と別れた今になって後悔した。

お題:二人ぼっち

3/21/2026, 2:06:10 AM

—夢の終わりに—

夢をみていた。
白いベッドに横たわっている自分を、俺は見下ろしていた。

「なんだよ、これ……」

まるで、目の前の自分は抜け殻になってしまったかのように目を閉じている。
叩こうとすると、透けて触れられなかった。

薄暗い病院の中をとぼとぼ歩いた。
こうやって歩くのはいつぶりなんだろう、と心の中で思った。
あそこにいた自分の体は大きくなっていて、もう大人になっているようだった。

「あの、出口はどこでしょうか」

近くの看護師に訊いた。だが、彼女は無視して通り過ぎていった。
本当に幽霊になってしまったように思えた。

自力で出口を探して、外に出た。
向かう場所は一つだった。

「ただいま」

声をかけるも返事はない。夜中の三時だ。
家族みんな、眠っているだろう。

俺は姉の部屋に入り込んだ。

「姉さん」

おそらく聞こえるはずのない声を、俺は発した。

「いつも見舞いに来てくれただろう」

病院で横たわっている時、意識はなかったものの、声だけは心の中に届いていた。昔から聞き慣れた姉の声だった。

「俺、嬉しかったんだ。姉さんがお見舞いに来てくれるの」

良い夢か悪い夢かわからないけれど、この夢が醒める前に、伝えたいことがあった。

「ありがとう」

姉は寝返りを打ち、小さな寝息を立てて眠っていた。
けれど、自分の想いを口にできただけで、それだけで充分だった。

俺は目を閉じた。
その瞬間、俺の体は小さいガラスの破片のように、キラキラと天に散っていった。

お題:夢が醒める前に

3/20/2026, 3:57:11 AM

—雪の上でもう一度—

物心ついた頃から雪の上を滑っていた。
雪国に生まれた僕は、父と母の影響でスキーを始めた。

山頂から雄大な雪景色を見下ろすだけで、僕の心は高鳴った。

『大谷小学校六年一組 橋本奏多 全国スキー大会優勝! ——』

地方新聞に大きく飾られた僕の写真。
これからさらなる飛躍をみせてくれるだろうという輝いた姿だった。

「コーチに誘われたけど、練習どうする?」
「……やめとく」
「わかった」

おそらく母はコーチに電話をかけ始めた。
いつもの声よりワントーン高い声が聞こえてくる。

「はぁ」と大きく息を吐く。
僕が練習に行かなくなって、一年が経った。

原因はわかっている。
僕は怪我をしたのだ。一年前の練習の時、スキー板が制御できなくなって、骨折をした。

全治半年の大きな怪我だった。
ただ、体の怪我はもう治っている。心の怪我が治らなかったのだ。

「そうかもしれませんねぇ」

ソファに寝そべると、母の声が耳に入ってくる。

「わざわざ、すみません。ええ、息子に準備をさせておきます」

母は電話を切った。

「コーチが一時間後、迎えにきてくれるそうよ」
「行かないって言ったじゃん」
「あなたはコーチの苦労を知りなさい。毎回わざわざ電話をくれるんだから」

確かに半年前に練習が始まる前に早退してから、コーチは毎週電話をくれていた。

「今日で続けるのか、やめるのか、決めなさい」母は鋭い声でそう言った。

きっかり一時間後に、コーチは車で迎えに来てくれた。

「ひさしぶりだな。少し大きくなったか」
「まぁ、ちょっとだけ」

僕をみて、母はシャキッとしなさいと僕の尻を叩いた。

母が助手席に、僕が後部座席に乗って車は動き出した。前の二人は、ひたすら僕の話をしていた。

車に揺られて三十分。いつものスキー場についた。僕たちは着替え始めた。

「サイズは合うか」コーチが訊いた。
「大丈夫です」

いつの間にか少しだけ小さくなっていた。
ザクザクと雪を踏み締める。もう既に、僕の体は震えていた。

むろん、寒いからではない。

「コーチ、やっぱり、無理です」

雪山を見た途端、僕の体の震えは最高潮に達した。僕は今すぐに帰りたかった。

「カナタ、スキーは嫌いになったのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんです。ただ、震えが止まらなくて」

コーチは大きく頷いた。

「なら、大丈夫だ」

コーチは僕を、山のない、平らな場所へ連れてきた。手を繋いで、ただ何度も同じ場所を往復した。

「お前が今やめたら、これから一生後悔すると思うんだ」
「……」
「またゼロからでいい。ちょっとずつ、俺と頑張ってみないか」

コーチは、ゴーグルの奥から熱い視線を送ってくれていた。

「……僕はまたスキーがしたい。あの景色をもう一度みてみたい」

胸が高鳴るあの瞬間を、また味わいたい。
今抱えている恐怖と同じくらい、前に進みたいと思っている自分がいた。

お題:胸が高鳴る

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