初心者太郎

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—相合傘—

演劇部の部室の窓に、雨が打ちつけ始めた。
朝の天気予報では、一日曇りのはずだった。

「マジか、今日雨降んのかよ」
「折りたたみ傘、持ってないの?」

隣に座る水野が訊いてきた。

「ちょうど先週、壊れちまったんだよ」
「あぁ。あの時、風強かったもんね」

台風が近づいているわけでもなかったのに、台風並みの暴風が吹いていた。
そのせいで、俺の折りたたみ傘は骨がバキバキに折れてしまった。

元の状態よりも、折りたためる傘になってしまったわけだ。

「あたし、傘持ってるけど」
「なんだよ、嫌味かよ」
「そうじゃなくって……。あたしの傘でいいなら、駅まで入れてあげるって話」

俺の鼓動は急激に速くなった。
つまり、相合傘ということだ。

「いいのか?」
「だって、濡れたくないでしょ」
「……じゃあ、入れてもらおうかな」
「うん。帰ろっか」

彼女は、いつもと変わらない口調でそう言った。

昇降口を出ると、小雨に変わっていた。
しかし、ここで一人で帰ると言い出したら、逃げたみたいに捉えられる可能性があるので、俺は何も言わなかった。

「あんたの方が背が高いんだから、あんたが傘持ちなさいよ」
「わかったよ」

俺は右側に立ち、傘を握った。
彼女の歩幅に合わせて歩き出した。

「本番、来週だな」

何を話せばいいのかわからず、演劇部の舞台の話を持ち出した。

「そうね。でも大丈夫よ。きっと上手くいく」
「そうだな」

緊張のせいか、あまり会話は続かず、駅まで来てしまった。

「助かった。サンキュー」
「折りたたみ傘、ちゃんと買いなさいよ」
「あぁ」

傘についた雨水を払い、綺麗にたたんだ。
それを返す時、彼女の頬が少し赤くなっていることに気がついた。

「今度、なんか奢ってね」彼女は言った。
「わかった」

また明日、と言って俺たちは改札で別れた。
エスカレーターに乗っている時、俺は大きく息を吐いた。
もっと色々話せばよかった、と別れた今になって後悔した。

お題:二人ぼっち

3/22/2026, 5:03:33 AM