—夢の終わりに—
夢をみていた。
白いベッドに横たわっている自分を、俺は見下ろしていた。
「なんだよ、これ……」
まるで、目の前の自分は抜け殻になってしまったかのように目を閉じている。
叩こうとすると、透けて触れられなかった。
薄暗い病院の中をとぼとぼ歩いた。
こうやって歩くのはいつぶりなんだろう、と心の中で思った。
あそこにいた自分の体は大きくなっていて、もう大人になっているようだった。
「あの、出口はどこでしょうか」
近くの看護師に訊いた。だが、彼女は無視して通り過ぎていった。
本当に幽霊になってしまったように思えた。
自力で出口を探して、外に出た。
向かう場所は一つだった。
「ただいま」
声をかけるも返事はない。夜中の三時だ。
家族みんな、眠っているだろう。
俺は姉の部屋に入り込んだ。
「姉さん」
おそらく聞こえるはずのない声を、俺は発した。
「いつも見舞いに来てくれただろう」
病院で横たわっている時、意識はなかったものの、声だけは心の中に届いていた。昔から聞き慣れた姉の声だった。
「俺、嬉しかったんだ。姉さんがお見舞いに来てくれるの」
良い夢か悪い夢かわからないけれど、この夢が醒める前に、伝えたいことがあった。
「ありがとう」
姉は寝返りを打ち、小さな寝息を立てて眠っていた。
けれど、自分の想いを口にできただけで、それだけで充分だった。
俺は目を閉じた。
その瞬間、俺の体は小さいガラスの破片のように、キラキラと天に散っていった。
お題:夢が醒める前に
3/21/2026, 2:06:10 AM