—誕生日プレゼント—
お昼休みに友人と話しながら昼食をとっていると、偶然男子たちの会話が耳に入ってきた。
「そういえば明日、涼介誕生日じゃん」
「めっちゃ忘れてた。明日、菓子パでも開くか」
「別にいいよ」
涼介君が苦笑いしていった。
こうして私は偶然、明日が好きな人の誕生日であることを知ってしまったのだ。
皆が眠りについた夜の時間。
だから私は、料理をしている。渡せるかもわからないお菓子を黙々と作っていた。
「ちょっと苦いけど、おいしい」
赤いプラスチックの袋にガトーショコラを詰め込んだ。
そして次の日。
朝、いつもと同じように席に向かう。
「誕生日、おめでとう」
涼介の周りで、いつものメンツがそう声をかけている。
私も素知らぬ顔で、彼におめでとうと声をかけた。でも周りに男子が群がっているせいで、プレゼントは渡しづらい。
時は流れ、昼休み。
昨日の会話通り、お菓子パーティが開催していた。
チャンスは一向に訪れない。
気づけば帰りのホームルームになっていた。
私は正直諦めていた。
家で美味しく食べようと、そう思っていた。
「プレゼントは渡せたの?」
部室に向かう時、優菜が訊いてきた。
私はかぶりを振った。
「勇気が出なかった」苦笑いして見せた。
バスケ部の練習を終え、ついに一日を終えてしまった。
「じゃあね、また明日ー」
チームメイトたちと挨拶して、部室を出た。皆は駅の方に向かい、私は駐輪場に向かう。
「あれ、どうしたの」
グラウンドの近くを通ったときに、偶然涼介と出会した。
「血が出たから洗おうと思って」
膝から、血が流れていた。彼はサッカー部だからスライディングでもしたんだろう。
「痛そう。……これあげるよ」
私は赤い袋を手渡した。
「こういうのって普通、絆創膏をくれるんじゃないのか」
「持ってないんだから、しょうがないじゃない。カカオが多いから貧血予防になるわよ」
「まぁ、ありがとう」
彼は釈然としない顔で袋を開けた。
「うまい!どこで買ったの、これ」
「私が作ったんだ」
「へぇ、料理上手なんだな。美味しかったよ、ありがとう」
「そう……、また明日」
駐輪場に着くと、私は大きく息を吐いた。
長い緊張が解けたようだった。
ウキウキの気分で、自転車を漕ぎ始めた。
ペダルを踏み込む度に、彼の声が頭の中に響いていた。
お題:あなたに届けたい
—狂愛—
幼馴染の海斗から、恋愛相談を持ち込まれた。
「初美にしか頼めないんだ……!」
隣のクラスの山崎という女が好きらしい。
一目惚れだということも聞かされた。
「いいよ。私はプロだからね、任せてよ」私は胸を張り、笑顔でいった。
「ありがとう、本当に助かる」
海斗は両手を合わせた。
「連絡先は持ってるの?」
「いや、まだなんだ」
「わかった。なんとかしてあげるから待っときな」
彼は赤い顔を見せながら頷いた。
「じゃあ、また連絡するね」
「うん、また明日」
彼と別れた後、私はある友人に電話した。
週明けの月曜日、海斗が駆け寄ってきた。
「山崎さんの連絡先くれてありがとうな」
「全然いいよ。で、何か話してみた?」
海斗は浮かない顔をしている。
「それが、既読無視されるんだよ……」
「え?嘘でしょ?」
「本当だよ。ほら」
画面を見る。確かに返信は来てない。
「だから、今日直接会って話してみる」
「ごめんね、力になれなくて……」
「全然そんなことないよ。むしろめっちゃ助かってる。じゃあ行くね」
彼は走って教室へ向かった。
だが、私は知っている。今日、山崎が学校に来ることはない。
私はある友人に電話した。
「奈々、助かったよ。ありがとう」
『うん、いいよー。私もあいつ気に食わなかったからね』
私たちはくすくすと笑った。
「今度、学食奢るよ」
『サンキュー。じゃあまた』
「うん」
あとは、失恋した海斗を私が慰めるだけだ。
そうすれば、やっと敵はいなくなる。
長い道のりだったな、と私はしみじみ思う。
私はスキップしながら、教室へ向かった。
お題:I LOVE…
—気分だけでも—
私には、二歳年上の姉がいる。
「あ、お姉ちゃん」
「お土産、買ってきたよ」
姉の手には『横濱ハーバー』の手提げがぶら下がっている。彼女の明るい茶色に染まった髪を見て、私はため息を吐いた。
「いいなぁ。お姉ちゃんは……」
「どうしたの」
「別に」そっぽを向いていった。
姉は田舎から離れて、神奈川県にある大学に通っている。
一人暮らし、都会。
私の憧れるものだった。
「大変なことも多いのよ」と姉はいった。
私は、窓の外を見た。
落葉した木々が立ち並び、深い緑色の山々が見える。
ここにきて三年間、景色はほとんど変わっていない。
「それでも、一回は行ってみたいな」
「あなたが元気になったら、どこへでも連れて行ってあげる」
「本当⁈」
姉は頷き、白いベッドに腰を下ろした。
「この前ね、東京にある、神田神社に行ってきたの」
姉は、茶色い封筒を渡してきた。
中には『平癒守』という金文字が刻まれたお守りが入っていた。
「そこには、医学の神様がいるらしいわ。だから大切に持っていなさい」
「うん!」
姉は伸びをして、立ち上がった。
微かに花のような香水の香りが残っている。
「じゃあ、また来るね」
「お姉ちゃん、いつもありがとう」
手を振って見送った。
姉が持ってきてくれたお土産を手に取る。袋を開け、一口かじった。
「おいしい……!」
外に出られない代わり、いつも姉のお土産で街へ行った気分になれる。
窓の外を見ると、涙が落ちてきた。
お題:街へ
—祝福—
タキシードに身を包んだ新郎と、ウェディングドレスを纏う新婦。
祭壇の上を、俺はペューから真っ直ぐに見ていた。
今日は友人の結婚式だ。彼女とは、大学で同じ水泳部だった。
「では、新郎は新婦に誓いのキスを」
牧師の声が、会場内によく響く。
二人は、唇を合わせた。それが終わると、祝福の拍手が起きた。
俺は、誰にも負けないように強く叩いた。
その後の儀式も、しっかり目に焼き付ける。二人が退場するまで、笑顔を作りながら見ていた。
「はい、撮ります——」
教会の外で写真撮影は行われた。雲一つない青空だった。
それが終わると、彼女の元へ歩み寄った。
「結婚おめでとう」
「ありがとう。二次会、来てほしかったな」
「ごめん。本当は行きたかったんだけど、どうしても外せない仕事があって……」
俺は、顔の前で両手を合わせた。
「そっか……。でも、また水泳部のみんなでご飯とか行こうね」
「そうだね。今日は本当におめでとう。そして、お幸せに」
今の自分にできる最高の笑顔を見せた。
帰り道、俺はずっと堪えてた涙を流した。
それは、しばらく止まらなかった。
お題:優しさ
—今日は今日。明日は明日—
喉が痛い。お酒のせいもあるのだろうが、間違いなく歌いすぎだ。
カラオケボックスに入ってから、かなりの時間が経っていた。コンパの時にいた、俺を含む男子三人、女子三人がここにいる。
明日はヤバいな、と心の中でそう思った。
「はい、どうぞ」
隣からデンモクが回ってきた。だんだんと疲れてきたせいか、思考は回らない。
『恋するフォーチュンクッキー』が止み、俺の番がきた。
曲名が表示された途端、場が一気に盛り上がった。
Adoの『新時代』だ。
気になっているカオリちゃんの熱い視線を受け止める。
今日はもうどうにでもなれ、と思いながら限界まで声を張り上げた。
お題:ミッドナイト