—気分だけでも—
私には、二歳年上の姉がいる。
「あ、お姉ちゃん」
「お土産、買ってきたよ」
姉の手には『横濱ハーバー』の手提げがぶら下がっている。彼女の明るい茶色に染まった髪を見て、私はため息を吐いた。
「いいなぁ。お姉ちゃんは……」
「どうしたの」
「別に」そっぽを向いていった。
姉は田舎から離れて、神奈川県にある大学に通っている。
一人暮らし、都会。
私の憧れるものだった。
「大変なことも多いのよ」姉はいった。
私は、窓の外を見た。
落葉した木々が立ち並び、深い緑色の山々が見える。
ここにきて三年間、景色はほとんど変わっていない。
「それでも、一回は行ってみたいな」
「あなたが元気になったら、どこへでも連れて行ってあげる」
「本当⁈」
姉は頷き、白いベッドに腰を下ろした。
「この前ね、東京にある、神田神社に行ってきたの」
姉は、茶色い封筒を渡してきた。
中には『平癒守』という金文字が刻まれたお守りが入っていた。
「そこには、医学の神様がいるらしいわ。だから大切に持っていなさい」
「うん!」
姉は伸びをして、立ち上がった。
微かに花のような香水の香りが残っている。
「じゃあ、また来るね」
「お姉ちゃん、いつもありがとう」
手を振って見送った。
姉が持ってきてくれたお土産を手に取る。袋を開け、一口かじった。
「おいしい……!」
外に出られない代わり、いつも姉のお土産で街へ行った気分になれる。
窓の外を見ると、涙が落ちてきた。
お題:街へ
1/29/2026, 5:45:19 AM