—最後の一ページ—
幼稚園からの親友が亡くなった。
交通事故に遭ったらしい。
お互い別の高校に進学したから、最近は疎遠になっていたけれど、ひどく悲しかった。
線香をあげた後、「しんごの部屋、見ていってもいいよ」と言われて、俺は慎吾の部屋にきた。
昔は、よく二人でここでゲームしたのを覚えている。
懐かしいな、と俺は思った。
「あれ、なんだろう……」
本棚には、たくさんの漫画が並んでいる。
そこに一冊、漫画ではない茶色い革の背表紙が混じっていた。
「しんご、日記つけていたのか」
ぺらぺらとめくってみると、俺の知らない高校でのエピソードが書かれている。
友人のこととか、テニス部のこととか、好きな人のこととか。
「なんだよ、これ……」
幾つもの青春に紛れた、最後の一ページ。
そこにはこう書かれていた。
『僕はもうすぐ殺されるかもしれない』
俺は、静かに日記を閉じた。
事故死、と警察は結論を出した。
だが、それが、急に信じられなくなってしまった。
お題:閉ざされた日記
—木枯らしヘア—
木枯らしが吹きつけてきた。
それを正面から受け、隣で歩いている彼女と一緒に、髪を持ち上げられた。
「せっかく髪の毛セットしてきたのに……」
彼女はそう言い、そばの店の壁を鏡代わりにして、前髪を整えた。
「そんな整えても、また風に吹かれるよ」
「そうだけど……」
彼女の視線は、僕の頭に向けられた。
「あなたはもっと気にした方がいいと思うよ」
「え?」
彼女は、今にも吹きだしそうになっている。
彼女にならって自分の髪を見てみると、髪が前に立っていた。
まるでドラえもんに出てくる、あのキャラのようだ。
「顔、近づけて」
彼女にそう言われて、近づけると、髪を分けられた。いつも髪を下ろしている僕は、なんだか落ち着かなかった。
「うん、似合ってるじゃん」
「そうかな」
彼女がそういうのだから間違いない。
しかし、安心していると、また木枯らしに吹きつけられた。
さっきと同じように、容赦なく髪が立つ。
「前見て」
彼女は、スマホで自撮りをした。
二人とも前髪が立てられたツーショットが撮れた。
僕たちは、顔を見合わせて笑った。
お題:木枯らし
—完璧なプロポーズ—
綺麗な夜景がみえるイタリアンレストラン。
今は、コントルノの『季節野菜のグリル』を食べ終えたところだ。
彼女の好きなダリアの花束を用意し、彼女に伝える言葉は、何度も何度も練習した。
そして、背広の内ポケットには、メレダイヤをあしらった指輪が潜んでいる。
我ながら、美しいほどに完璧なプロポーズだと思った。
「僕は、君のことを必ず幸せにしてみせる。その準備も覚悟も全てできてる。だから、君のそばに居させて欲しい。僕と結婚してください」
映画に出る俳優のように堂々として言い、ケースを開いて掲げた。
「ちょっと待って……。すごい準備してくれたのはわかるんだけどさ……」
彼女は顔を赤らめ、僕の目を見て言った。
「私は、いつものあなたがいいな」
「……あの、今のはなかったことにしていい?」
彼女は頷いた。
そして、二度目のプロポーズに入った。
「僕は春菜のことが好きで、これからもずっと一緒にいたい。僕と結婚してください!」
彼女は少し笑って、小さく息を吸い込んだ。
「はい」
小数点まで合わせた指輪は、彼女の指にぴったりとはまった。
窓の外は、さっきよりも少し、夜景が輝いて見えるような気がした。
お題:美しい
—小さな読者—
『厳正な選考の結果、残念ながら今回は掲載・採用は見送らせていただくこととなりました——』
何度目かわからない、漫画の落選通知。
『夢を追う勇気があれば、すべての夢は実現する』と、ある有名人はいった。
少なくとも、私には難しかったらしい。
「あっ……」
自室で自分が描いた原稿を読み返していると、窓を開けていたせいで、風に吹かれて飛ばされてしまった。
どうせ落ちた漫画なんだ、と思い気にしなかった。
「すごい!」
ふいに、窓から声が入ってきた。
顔を覗かせると、小学生くらいの男の子が私の漫画を手にして読んでいる。
「これ、お姉ちゃんが描いたの?」
私に気づいた男の子は、訊いてきた。
「うん……」
「すごくおもしろい!」
その一言で、目頭が熱くなった。
諦めようとしていた夢に、もう一度向かってみようと思った。
この世界には、意外と夢や希望が転がっているのかもしれない。
私は紙を取り出し、ペンを握った。
お題:この世界は
—朝の習慣—
朝、ホウキを持って公園に向かう。
小道の落ち葉をさっさっさと一ヶ所に集めて、ちりとりでゴミ袋に詰める。
公園掃除——それが、私の朝の習慣だ。
いい運動になるし、何よりも……。
「おじいさん、おはようございます!」
黄色い帽子を被った小学生たちが挨拶をしてくれた。
私はにこやかに挨拶を返す。
「園田さんいつもありがとうね」
「いえいえ、私が好きでやっていることですから」
通りかかった町の人々は声をかけてくれる。
どうして掃除をするのか。
それはこの町が大好きだから、だと私は思う。
お題:どうして