—文房具の罠—
授業の中で、ノートをかく時間が好きだ。
最近は色とりどりのボールペンやマーカーが売っているから、楽しくて仕方ない。
「えっと、テスト範囲は……」
もうすぐ定期テストがある。
テスト勉強のために、範囲を確認して教科書とノートを開いた。
「……何書いてるかわからない」
色鮮やかすぎる私のノートは見づらい。
ボールペン、マーカー、落書き。
自分でかいたはずなのに、目が迷う。
これじゃあ『書く』というより『描く』だ。
一種のアート作品のよう。
「もう一回まとめよう」
私はノートを閉じ、別のノートを開いた。
お題:色とりどり
—雪だるま—
ある男の子が僕を作ってくれた。
「お昼だから帰るよ」
「お母さん、待ってー!」
その子供はいなくなってしまった。そのままじっと待っていると、声が聞こえた。
「これじゃ惜しいわね」
新しくきた女の子は木の実と枝を使って、目と鼻と腕を付け足してくれた。
「よし、いい感じ」
目と鼻と腕を作ってくれたその子もいなくなってしまった。またしばらく待っていると、今度はおじいさんがきた。
「これじゃ寒いじゃろ」
そのおじいさんは手袋をくれた。
「ほっほっほ、さらばじゃ」
夜、辺りが真っ暗になった頃、酔っ払った若い男がやってきた。
「おお、立派な雪だるまじゃねぇか。あと足りねぇのはこれだけか」
その人はマフラーをかけてくれた。
「あぁ、また帰りが遅くなると女房にキレられちまう。早く帰るか」
その男はしゃっくりを上げながら、ふらふらとした足取りで帰っていった。
(みんな優しいな……)
心が温かくなった僕は、溶けてしまった。
お題:雪
—ひだまり—
喫茶『ひだまり』が見えた。
私が小さい頃からよく通っているお店だ。
「おいしい」
「でしょ。ここ私のお気に入りのお店なんだ」
コーヒーを啜ってそう言う彼に、私はよく自慢した。別に私の喫茶店ではないのに、なんだか誇らしかったのを覚えている。
「ごめん、他に好きな人ができた」
「そう……」
その彼とは別れた。
引き止める気力もなく、あっさりと終わってしまった。
あとからわかったことだけれど、私と付き合っていた時にはもう別の恋人がいたらしい。
「いらっしゃい。いつものでいいかい?」
「はい……」
マスターの声は相変わらず穏やかだった。
彼と一緒にきたお店だから、嫌でも彼との記憶が呼び起こされる。
それでもまた来たいと思って、入店した。
「ミルクティーだよ」
一口飲むと心地良い甘さが口の中いっぱいにに広がった。
気づけば涙が落ちてくる。
マスターは何も言わずに、ただ側にいてくれた。
それだけで私の心は救われていた。
お題:君と一緒に
—青天の霹靂—
透き通るような青色が空一面に広がり、冷たい空気がおいしい。まさに冬晴れ。
川の水が流れる音が心地良く耳に入り、常緑の木々が目を潤してくれる。
橋から見えるこの景色は、絶景だ。
「心の準備はできましたか?」
「……はい」
ただこの景色を眺めているだけなら、どれほど良かっただろう。まさかジャン負けでバンジージャンプをやることになるなんて。
高所恐怖症の人にやらせることじゃない。
「じゃあ、カウントダウンを始めますよ」
「……」
遠くを見れば、男女五人が手を振って見ている。何をしても良い世界なら、奴らをぶん殴ってやりたい。
「三……、二、今だ!」
「え?」
カウントダウンの途中で押された。上を見ると、スタッフもにっこりと笑いながら手を振っていた。
そういえば今年のおみくじは大凶だったな、と思い出した。
途中で気絶できたのは、不幸中の幸いだった。
お題:冬晴れ
—幸せってなんだろう—
「お母さん、幸せって何?」
息子が訊いてきた。
子供はたまに難しい質問を、突拍子もなくしてくるから困ってしまう。
「そうだなぁ……、ご飯を食べられて、誰かと楽しい時間を過ごすことができる『今』が幸せなんじゃないかなぁ」
コンビニで買ったパピコを、半分にして渡した。
「ふうん、よくわかんない」
彼はそう言って、固いアイスと戦い始めた。
夜、ベッドに入って小さい頃の自分はどんなことを考えていただろう、とふと思った。
好き放題にお金を使えること、一日中遊び続けること、好きな人とずっと一緒にいられること。
多分、現実とは違う幸せも混じっていた。
隣を見ると、息子が眠っている。私は彼の頬にキスをした。
頭の中で考えるものとは別に、きっと幸せは日常に幾つも潜んでいる。
私たちは気が付かないうちに、それを掴んでいる。
幸せとはそういうものだと私は思う。
私はふかふかのベッドの中で眠りについた。
お題:幸せとは