初心者太郎

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10/27/2025, 6:42:47 AM

—あなたのお悩みは?—

店のポストに宛名の無い一通の手紙が入っていた。白い封筒に包まれた一枚の紙にはこう書かれている。

『あなたの夢はかないましたか?夢はかなうと思いますか?』

小学生くらいの女の子が書いた字のように、鉛筆で丁寧に書かれた丸い字が並んでいた。

私の店では、悩み相談を受け付けている。地域の方々に寄り添いたい、と祖父が始めた企画である。それを、店を継いだ私も続けているというわけだ。

私は頭を悩ませて、真剣に考える。この子のことを考えた返答をしたい。

ペンを走らせる。

『お悩みを相談していただきありがとうございます。正直に言うと、私にはかなった夢もかなわなかった夢も、どちらもあります。

きっとこの相談をしてくれたあなたには、何か大きな夢があるのだと思います。
知りたくないと思いますが、夢が必ずかなうとは限らないです。ですが、色々なことを経験してきた私からいいことを教えます。

夢がかなってもかなわなくても、後から思い返せば、どんな出来事もいい思い出になる。

夢に向かう過程が大事なのです。あなたの良い報告を待っています。』

私の想いは伝わるだろうか。
店の入り口の返信用ボックスに、手紙をそっと入れた。

お題:終わらない問い

10/26/2025, 9:52:50 AM

—一週間の奇跡—

学校から帰ると、一羽の雀がダンボールの中にいた。町でよく見かける様な、茶と白の雀だ。

「お母さん、何で雀がいるの?」
「その子ねぇ——」

母が買い物に行く途中の出来事だった。自転車を走らせていると、雀があろうことか車輪の中に飛び込んできたらしい。

「だから今から動物病院に連れて行くのよ」

俄には信じられない出来事だが、確かに雀の羽根は負傷していた。そのせいか、上部が開いているダンボールから出ようとしない。
ひどく落ち着いた雀だった。

動物病院で診察してもらうと、大した怪我ではなかったらしい。一週間程、安静にしていれば治るとの事だった。

そして家族で一週間だけ雀の世話をする事になった。名前は安直だが、『ピーちゃん』と名付ける事にした。

「ピーちゃん、ご飯だよ」

パン屑をあげる。鳥を飼ったことがなかったので、これくらいしかご飯がなかった。

元々警戒心がなかったせいか、たくさん触れ合うことができた。

「かわいい」

日本語を覚えたばかりの妹でさえ、怯えることなく触らせてもらえた。

一週間はあっという間に過ぎ、お別れの時間になった。家の中で一回も飛び回ることがなかったので、家族全員で心配していた。

「ちゃんと飛べるかな」
「きっと大丈夫だよ」

父の手のひらに、ピーちゃんは座っていた。地面に下ろすと、数歩歩いた後元気よく空に羽ばたいていった。

朝日が照らす空の下で、家族全員で揺れる羽根を見届けた。
あっという間の一週間だったが、深い思い出として家族全員の心の中に残ったのだった。

お題:揺れる羽根

——

実話です。

10/25/2025, 2:24:08 AM

—箱の中の悪戯—

僕が所属している演劇部には、いつも悪戯をしてくる女子がいる。

「中には何が入っているでしょー?」
「……」

机を僕の机にくっつけて、向かい側に座った彼女が言った。黒い画用紙に覆われた、クエスチョンマークが付いている四角い箱を机に置き、ニヤニヤとこちらを向いている。

ブラックボックスというやつだ。演劇で稀に使う道具で、昔の先輩が作ったものらしい。四十センチの立方体の中身は、こちらからは何も分からない。

「手、入れてみて!」

彼女が悪戯しようとしている事は直ぐに分かった。恐る恐る手を横から中に入れる。

その瞬間、箱に入れた手が掴まれた。

「掴まえたっ!」
「うわっ!」

間抜けな声を出してしまった。それを聞いた彼女は、口元をおさえて肩を振るわせて笑った。

「びっくりした?」

僕はいつか彼女に仕返しをしたいと思う。それがいつになるかは分からないけれど。

お題:秘密の箱

10/23/2025, 1:21:15 PM

—無人島は夢の島—

「パパ見て、むじんとうだって。おもしろそう!」

先日四歳になったばかりの息子が、テレビを見て目を輝かせている。無人島開拓を企画にした番組が放送されていた。

私も昔は同じ様な事を考えていた。自分の手で自分だけの島を作ってみたいと、そんな夢を心の中で何度も描いた気がする。

だが大人になって、私はそうは思わなくなった。きっと夢を見られなくなったのだろう。

「パパはむじんとうで何したい?」

顎に手を当てて考える。

「そうだなぁ……。砂浜の上で一日中寝たいな」

最近は仕事続きでろくに眠れていない。何も考えずにぐっすり寝たいと思った。
……なんて夢がないのだろう。

「ぼくはね……、お魚さんいっぱい釣ってね、自分のお家作ってね、パパとママと一緒に食べたい」
「パパも食べていいの?」
「うん!」

息子の純真な笑顔を見て、思わず頬が緩む。

でも、もし本当に無人島に行くならば、息子の様に無邪気に楽しめたらいいな、なんて心の中で思った。

お題:無人島に行くならば

10/23/2025, 5:03:50 AM

—風の郵便—

あの日は、今日の様な秋風が吹いていた。どこか寂しく冷たい風。

一年前。私が小学六年生の時のこと。
父の仕事の都合で転校する事を、まるで風の様に両親から告げられた。

本当は転校なんてしたくなかった。六年間共に過ごした友人達と離れたくはなかった。

けれど私が何を言っても変わらないと分かっていたから、出来るだけ顔には出さない様に振る舞った。

それを告げられてから猶予は一週間あった。だが、私は友人に言えなかった。中学生になっても仲良くしようね、なんて約束をしていたから言い辛かったのだ。

結局私は何も言えずに、故郷を離れた。

私は少し後悔している。最後にほんの一言でも伝えられたら、少しは心が楽になっていたかもしれない。

秋風が頬を撫でる。
友人への想いを風に託した。きっと、秋風が私の気持ちを運んでくれますように、と。

お題:秋風🍂

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