初心者太郎

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—一週間の奇跡—

学校から帰ると、一羽の雀がダンボールの中にいた。町でよく見かける様な、茶と白の雀だ。

「お母さん、何で雀がいるの?」
「その子ねぇ——」

母が買い物に行く途中の出来事だった。自転車を走らせていると、雀があろうことか車輪の中に飛び込んできたらしい。

「だから今から動物病院に連れて行くのよ」

俄には信じられない出来事だが、確かに雀の羽根は負傷していた。そのせいか、上部が開いているダンボールから出ようとしない。
ひどく落ち着いた雀だった。

動物病院で診察してもらうと、大した怪我ではなかったらしい。一週間程、安静にしていれば治るとの事だった。

そして家族で一週間だけ雀の世話をする事になった。名前は安直だが、『ピーちゃん』と名付ける事にした。

「ピーちゃん、ご飯だよ」

パン屑をあげる。鳥を飼ったことがなかったので、これくらいしかご飯がなかった。

元々警戒心がなかったせいか、たくさん触れ合うことができた。

「かわいい」

日本語を覚えたばかりの妹でさえ、怯えることなく触らせてもらえた。

一週間はあっという間に過ぎ、お別れの時間になった。家の中で一回も飛び回ることがなかったので、家族全員で心配していた。

「ちゃんと飛べるかな」
「きっと大丈夫だよ」

父の手のひらに、ピーちゃんは座っていた。地面に下ろすと、数歩歩いた後元気よく空に羽ばたいていった。

朝日が照らす空の下で、家族全員で揺れる羽根を見届けた。
あっという間の一週間だったが、深い思い出として家族全員の心の中に残ったのだった。

お題:揺れる羽根

——

実話です。

10/26/2025, 9:52:50 AM