のーとぶっく

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6/16/2024, 1:45:31 AM

本棚の奥にしまい込まれてた たった250ページの文字の羅列 ふと手に取って 読み返した

挟まれていたしおりは 日に焼けて黄色くなって 表紙の裏から見える紙も どこかよれていた

懐かしいな あのころはこればっかり読んでたっけ
あのころは 目に映るもの全てが楽しくて仕方なくて 新しい知識を知るのが嬉しくて 本ばっかり読んでたっけ

初めて自分のお金で買った本 なんてことは無い 少年少女の冒険譚 それがどうしようもなく楽しくて 自分もその世界に行けたような気がして ページが破れようと文字がかすれようと 絶対に捨てたくなかったんだっけ

少年が言う
「どこかにある宝を見つけに行くんだ」
少女が言う
「この世界を私たちで渡ってみよう」
謎の男が言う
「この世界の秘宝は誰も渡さない」

文字を追って 重ねて 声を当て嵌めて その度に脳が違うと叫んだ
ああ面白いなと思うと同時に こんなに淡白だったかと頭に浮かんだ

たった250ページの本は こんなにもすぐに読み終わったか こんなにも展開が分かりやすかったか 「よくある話」だと思ってしまっただろうか

読み終わって見た表紙が 最初に見つけた時よりも随分と色褪せている気がして

少しだけ、この本を読んだ幼い頃が羨ましくなった

ああ、これが

これが、大人になることなのかと。

『忘れてしまった冒険譚』———【好きな本】

6/14/2024, 10:26:34 AM

心模様を映し出した 空の喩えを見る度に こんなに世の中上手くないって 思ってしまうのは僕だけか

『涙を隠すみたいに 空が大雨を降らしていた』
『彼女の笑顔に似合うほど いつになく澄んだ快晴だった』

なんてなんてなんて、ね

所詮、おとぎ話に過ぎないから

神様は涙を流さないの 雨は水蒸気が空中で冷えただけ

ただの水滴 悲しみの涙じゃないから グッピーは息が出来なくて死んじゃった

雨になんかならずにずっと雨雲の中にいたら 死んじゃうこともなかったのにね

アルカリ性の雨が降って、降って、降って 体全部が火傷跡

水槽を泳ぐグッピー 最適化されたph 管理された水温 考えられた食事 たまに入ってくる新しい魚

水槽の中でただ生きる 水槽の中で生かされる
雨に濡れたら死んでしまうから 雨に濡れたら痛むから

神様は涙を流さない 雨は水蒸気が冷えただけ
水道からアルカリ性は流れない 人間が管理してるだけ

雨模様は涙じゃないし 晴れ模様は笑顔じゃなくて 曇り模様は不穏じゃない

ただ、ガラスの向こうに見える空が不思議と綺麗だから
神様って例えるだけ

水槽の中に生まれた子供は 外を見ないまま死ぬという。

『ph7.5〜8.0』———【あいまいな空】

6/10/2024, 12:02:33 PM

真っ白な画用紙を渡されて 48色の色鉛筆も持たされた
小さなショルダーバッグに無理やり詰め込んでも少しはみ出たまま
それでいいから行きなさいと その人は言う

なりたいものを見つけてくること
やりたいことを探してくること
自分の得意なことを学んでくること
たくさんの人と触れ合うこと
たくさんのものを知ってくること

きっと見つかるからと 根拠の無い自信だけを植え付けて 僕らをワタリドリの背に乗せた

試しに空を描いてみた
どこまでも広がって 果てしなく ただ広大に佇む世界の天井
ただそれすらも 僕らを閉じこめる蓋にしかならないんだと 僕らをここから出さないための蓋でしかないんだと とある男が僕に言った
だから僕は 空の絵を紙飛行機にして飛ばした

試しに海を描いてみた
深く深く澄み渡って 怒らず癒さず ただ悠然と佇む世界の床
ただそれすらも 全てを飲み込む絶望にしかならないのだと 全てが無に帰ることを望んでいるに過ぎないのだと とある女が僕に言った
だから僕は 海の絵を細かくちぎって風に乗せた

小さな花を描いてみた
美しく強く 懸命に太陽へと顔を向け 一生懸命に生きようとする世界の生命
けれどもそれは 綺麗事に過ぎないのだと その花が認められることも 一番として輝くこともないのだと 誰にも見向きされないまま散っていくのだと とある少年が僕に言った
だから僕は 花の絵をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱へ投げた

僕を乗せてくれたワタリドリを描いてみた
たったふたつの翼で 僕の重さを背負ってくれる 僕の行きたいところまで連いてきてくれる 素晴らしい鳥
けれどもそれは 今だからに過ぎないのだと いつかは僕を助けてくれなくなるし 僕を置いてどこかに行くし いつかは僕を忘れてしまうらしい
だから僕は ワタリドリの絵を土の中に埋めた

帰ってきた僕を見て その人は眉を寄せた
画用紙も色鉛筆も減っているのに 完成したものが何も無いから

「見つけられなかったのですか」
「探さなかったのですか」
「やり遂げなかったのですか」
「途中で投げ出したのですか」
「……×待×ずれ××た」

その人は僕の画用紙と色鉛筆持ち上げると こちらを見ずにどこかへ行ってしまった

手元には何も無くて ショルダーバッグの中身は空っぽ
一体何をしに行ったのだろう 何を探しに行ったのだろう

ただ頭の片隅で思うこと 捨てきれなかったこと

「絵を語る言葉の中に」
「果たして僕はいただろうか」

手元にはもう何も無いけれど ショルダーバッグにも何も入っていなけれど

旅をしてみようか

あの四枚の絵を見つけに

飛ばしてしまった夢を ちぎり捨ててしまった学びを ぐしゃぐしゃにして捨てた僕を 埋めてしまった思い出を

どうせもう何も無いのだから どうせ誰も期待しないのだから

ならばいっそ

この身一つで 探しに行ってみようか。

『この道の行方』———【やりたいこと】

6/9/2024, 10:16:22 AM

繊維と繊維の間から 細く 細く 差し込んだ
灼熱の星が 幾重にも幾重にも薄くなって やっと届いた命の体温

その体温を受け取れるほど 僕の鼓動は暖かくないみたいだ

朝が来るのが怖いんだ
朝を知るのが怖いんだ
朝を見るのが怖いんだ
朝を生きるのが怖いんだ

こんなどうしようもない僕が あんな光に当たってしまったら その内溶けちゃうんじゃないかって 跡形もなく消えてしまうんじゃないかって

醜いですか わがままですか すがりついているのですか

生きたいのです 生きていたのです こんな僕でも生きていいと 生きることを望んでくれている人がいるのだと 信じられる日を待っていたのです

だから だからどうか

僕を溶かさないでくれませんか
見つけないでくれませんか
そっとしておいてくれませんか
遠目から眺めるだけにしておいてくれませんか
どうしようもなく目障りでも 無視してくれませんか


君の光に照らされてしまえば

僕はきっと溶けてしまう
きっと消えてしまう
きっと幸せを知ってしまう
きっと暖かさをこの身に宿してしまう
君に触れようと 近くにいようと きっとこの手を伸ばしてしまう

だから放って置いてください 僕を溶かそうとしないでください 光の暖かさを教えないでください 光の眩さを見せないでください

いつか 適当な幸せを見つけて 適当な人生を送って 身の丈にあってたって満足するから

朝を僕に与えないで

『君はまるで太陽のような』———【朝日の温もり】

6/8/2024, 11:22:33 AM

選択出来ることは 幸福なのだと誰かが言った

選択肢があるということは それだけの自由が約束されているということで それだけの価値があると認められていることで

選択できるということは それだけの意味があると それだけの理由があると理解されていることで

だから だから だから だから

選択出来ることに幸福を感じなさい、と

そんなのは戯言だ

限られた選択肢なんかで 私の運命を決めてくれるな
限られた価値なんかで 私を見積ってくれるな
限られた意味なんかで 私を定義してくれるな

あなたの中の正解を 私に押し付けないで
あなたの中の値札を 私に括り付けないで
あなたの中の理由を 私にこじ付けないで

私は私なの あなたじゃないの あなたの元に生まれた あなたの元で育って あなたの元で死んでいく ただの私に過ぎないの

選択肢を与えてくれるな ちゃんと自分で見つけてみせるから
価値を定めてくれるな ちゃんと自分で証明するから
意味を忘れてくれるな ちゃんと自分で探すから

私は私 歩む選択肢も 道の先にある価値も 最後に生まれる意味も

探すんだ たとえそれがどこにあろうと どれだけの時間がかかろうと この惑星になかろうと この宇宙になかろうと

探すんだ 選択肢を 探すんだ 価値を 探すんだ 意味を

探すんだ 私が定義する全てを

『探すべく歩くのだ』———【岐路】

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