ふと 星の寿命は短いんだよって君が言った
いつ消えるか分からないんだよって 最後までエネルギーが持つかも エネルギーの寿命で死ねるかも分からないんだよって君が言って
最後、真っ白で死ねたら やり尽くせたのかなって
真っ黒な夜空を 彗星が飛び交って
アナウンサーが喋った『地球最後の日』と 8.16の数字がいつまでたっても交差しなくて
なんだか実感がわかないまま 夜空がだんだんと落ちてきた
『世界が割れてしまうとき きっとあちらこちらで火が昇って 苦痛の声と一緒に死んでいくんだ』
なんて言う悲劇は 結局妄想でしかないってことだね
暗い空が少しずつ 少しずつ落ちてきて 最後は大口を開けて 僕らをぐちゃぐちゃにしてしまうんだろう
そのとき 僕らは手を繋いでいられるだろうか
大きすぎる引力で引き裂かれてはしまわないだろうか
強すぎる衝撃で手を離してしまわないだろうか
暗すぎる暗闇に錯乱して独りになってしまわないだろうか
最後までちゃんと 二人きりの約束を守れるだろうか
星みたいに死ねるなんてロマンチックじゃないかと君が言って どうせなら白色矮星になって死にたいねって返した僕に また君は笑ったんだ
あの爆弾が地球を壊さなくても 大体五十億年後ぐらいには 太陽に呑まれて溶けるらしい
どっちがいいって聞かれたら 答えなんてわかんないね
世界の終わりも君とがいい 世界の終わりは君とがいい
たとえ彗星が僕らを潰しても たとえ僕らを粉々にしても
太陽が境目を無くすまで僕らを溶かしても 意識なんて一瞬で消してしまうのだとしても
手を繋いでいたい 近くにいたい 君のそばにいたい 君を近くに感じたい
だからどうか行かないで だからどうかそばにいて
僕を置いて 先に夜空へ行ってしまわないで
僕を置いて 先に真っ白な衣装を見に纏わないでよ
君は白色矮星にすらなれていないのに
『君とのサヨナラは、まるで彗星のように』———【世界の終わりに君と】
あーあ あーあ ばれちゃった
ばれちゃった ばれちゃった 一番隠したかったのにな
あーもう手遅れ だって君の顔は真っ青だ 唇をブルブル震わせて 今にも逃げ出したいって顔だね
もうなんかどうでもよくなっちゃった なんで隠してたのとか なんで秘密にしてたのとか
だってそんなの 気味が悪いからに決まってるでしょ?
にこにこして愛想振りまいとけば 大抵の人は受け入れてくれるでしょ
正常なフリしておけば 大抵の人は一緒にいてくれるでしょ
それが当たり前なんでしょ それが当然なんでしょ
だって人間に生まれたから 人として生きていくから
だから だから だから きっと僕はおかしいんでしょ?
ねぇそうでしょ だから君はそんな顔するんでしょ
だから君は僕を気持ち悪そうな目で見るんでしょ
ねぇ ねぇ ねぇ ねぇ
ねぇ君は 君もアイツらと同じなんだね
友達なんて顔して ずっと味方だよなんて言っといて いざこんなになったら捨てるんだ 気持ち悪いって殺すんだ
期待なんて端からしてないはずなのに どうしてこうも胸が痛い どうしてこうも息苦しい
君に当たれば収まるかな 君も同じぐらい苦しめばいいのかな どう思う? この大勢の人の前で この世界の前で
僕と一緒に地獄に落ちようよ
天国行き?大丈夫
「僕ね、君がだいすき」
地獄の果てまで引きずり込んであげるから
『最悪なラブレター』———【最悪】
口元に手を当てて 万が一にもバレないように 億が一にも漏れないように 固く叩きつけた手のひらが 強ばった笑顔を貼り付けた
ひみつ、ひみつ、ひみつのはなし
うそつきうそつき嘘まみれ
静かにしてねと笑う横 人差し指を口に立てた
悪魔が高らかに叫び出した 可哀想だと泣き出した
笑顔がうかんだ瞬間に涙がこぼれて消えていく
純粋な瞳の対に 僕の心はおかしいらしい
溢れそうになった思いを 唾液と一緒に飲み込んで 胃液の中で 何も残らなくなるまで溶かしちゃった
理不尽な暴力に 思わずえずいて吐き出して それを見たあいつらは 顔をゆがめて逃げてった
ゲロにまみれたその中に ただ一つだけ真っ白な それだけ汚れず見えていた たった一つの愛言葉
ああ、悪魔が泣く、悪魔が笑う!
狂え狂えと笑い踊って、僕の耳元で囁くんだ
「どうせもう手遅れだ」
探し物の正体も 求めた問の正体も 押し込んでしまった
後悔も懺悔も嫌悪も憎悪も博愛も純愛も失恋も悲恋も絶望も切望も疑念も諦念も
ああもう全部なにもかも 手遅れなんだと嘲笑う
ゲロをぶちまけた僕を見て 君がひきつって口に出した
「だいじょうぶ」
「きみ、なんかへんだよ」
ああ、君への思いを愛と言うなら、
君は僕に何を与えてくれる?
『放課後、教室内で秘密の恋を。』
ぐるぐるぐるぐるぐる
廻る部屋のなかで 僕はひとりぼっち 平衡感覚なんてとうにないから 目の前はぐるぐるして 脳みそもぐらぐら
吐きそうなほどの嫌悪感が 肺の部分までせりあがって
慌てて全部飲み込んで 喉元をすぎる胃液の味
あっという間に夜になって また気がついたら朝になった
夕日が差し込んだと思ったら 月明かりのか細い闇になる
だんだんと巡る時間の中で この狭い部屋で僕はひとりぼっち 追いつけないんじゃなくて 追いかける相手がいないだけ 見つけられもしないだけ
いつだったか 朝を信じていたのはいつだったか 昼を待ち焦がれていたのはいつだったか 夜を嘆いていたのはいつだったか
廻る部屋の片隅に追いやられた あのノートの中身はなんだっけ ペラペラめくって流れてきえて 丸っこくてよく知らない君の文字
少し硬めで 鋭くて 止めはねがしっかりしてて まるで教科書の文字みたいだって言ったら 笑ってくれた君の顔が おかしいな、思い出せないや
廻る部屋の片隅で ただ壊れてく 骨が内側からドロドロに溶けて 肉片がそこら辺に飛び散って 眼球がこぼれ落ちて
ああそしたら そしたら最後 脳みそが記憶ごと混ざってお終い
窓辺から差し込んだのが 朝日か夕日か月光か はてさてそれは誰にも分からない
とりあえず 星光だとでも思っておこうか
『狭い闇の片隅で』———【狭い部屋】
きらきらとかがやいたピンクの星が 流星になって砕け散った
手を伸ばして翳したら ちょうど見えなくなっちゃった
ニュースでうたわれていた名前は 確かハレー彗星
何十年に一度の 星空を飾る飛び跡
端っこに写った力ない草場 君は誰かと一緒に笑ってる
僕は部屋の窓辺から 欠けていく恋心を眺めてた
欲深く望んでしまったから 全部全部壊れちゃって
これ以上を示したから君は僕から離れていったんだね
痛いな、痛いな
まるで彗星が突き刺さったみたいだ
彗星の尾が 僕の心を煙たくして見えなくする
肺の中にふと灰が詰まって咳き込んで 出てきたのはなんでもない空気
この空気に名前をつけられたら 恋が良かったな
「おかしいよ」「なんか変だよ」
そう言われることには慣れてきたはずだったのに
おかしいな、君から言われると全く別の言葉に聞こえた
君の隣にいるその子
僕は同じ黒髪で 同じたれた眉で 同じ丸っこい瞳で 同じ髪型で 同じぐらいの背丈で
ねぇ、ねぇ、それでも
やっぱり僕じゃだめですか
だめだから
この彗星は僕を迎えに来たのかな
この彗星が砕け散ったら 君とももうお別れだね
『夢の中の恋』———【失恋】