本棚の奥にしまい込まれてた たった250ページの文字の羅列 ふと手に取って 読み返した
挟まれていたしおりは 日に焼けて黄色くなって 表紙の裏から見える紙も どこかよれていた
懐かしいな あのころはこればっかり読んでたっけ
あのころは 目に映るもの全てが楽しくて仕方なくて 新しい知識を知るのが嬉しくて 本ばっかり読んでたっけ
初めて自分のお金で買った本 なんてことは無い 少年少女の冒険譚 それがどうしようもなく楽しくて 自分もその世界に行けたような気がして ページが破れようと文字がかすれようと 絶対に捨てたくなかったんだっけ
少年が言う
「どこかにある宝を見つけに行くんだ」
少女が言う
「この世界を私たちで渡ってみよう」
謎の男が言う
「この世界の秘宝は誰も渡さない」
文字を追って 重ねて 声を当て嵌めて その度に脳が違うと叫んだ
ああ面白いなと思うと同時に こんなに淡白だったかと頭に浮かんだ
たった250ページの本は こんなにもすぐに読み終わったか こんなにも展開が分かりやすかったか 「よくある話」だと思ってしまっただろうか
読み終わって見た表紙が 最初に見つけた時よりも随分と色褪せている気がして
少しだけ、この本を読んだ幼い頃が羨ましくなった
ああ、これが
これが、大人になることなのかと。
『忘れてしまった冒険譚』———【好きな本】
6/16/2024, 1:45:31 AM