真っ白な画用紙を渡されて 48色の色鉛筆も持たされた
小さなショルダーバッグに無理やり詰め込んでも少しはみ出たまま
それでいいから行きなさいと その人は言う
なりたいものを見つけてくること
やりたいことを探してくること
自分の得意なことを学んでくること
たくさんの人と触れ合うこと
たくさんのものを知ってくること
きっと見つかるからと 根拠の無い自信だけを植え付けて 僕らをワタリドリの背に乗せた
試しに空を描いてみた
どこまでも広がって 果てしなく ただ広大に佇む世界の天井
ただそれすらも 僕らを閉じこめる蓋にしかならないんだと 僕らをここから出さないための蓋でしかないんだと とある男が僕に言った
だから僕は 空の絵を紙飛行機にして飛ばした
試しに海を描いてみた
深く深く澄み渡って 怒らず癒さず ただ悠然と佇む世界の床
ただそれすらも 全てを飲み込む絶望にしかならないのだと 全てが無に帰ることを望んでいるに過ぎないのだと とある女が僕に言った
だから僕は 海の絵を細かくちぎって風に乗せた
小さな花を描いてみた
美しく強く 懸命に太陽へと顔を向け 一生懸命に生きようとする世界の生命
けれどもそれは 綺麗事に過ぎないのだと その花が認められることも 一番として輝くこともないのだと 誰にも見向きされないまま散っていくのだと とある少年が僕に言った
だから僕は 花の絵をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱へ投げた
僕を乗せてくれたワタリドリを描いてみた
たったふたつの翼で 僕の重さを背負ってくれる 僕の行きたいところまで連いてきてくれる 素晴らしい鳥
けれどもそれは 今だからに過ぎないのだと いつかは僕を助けてくれなくなるし 僕を置いてどこかに行くし いつかは僕を忘れてしまうらしい
だから僕は ワタリドリの絵を土の中に埋めた
帰ってきた僕を見て その人は眉を寄せた
画用紙も色鉛筆も減っているのに 完成したものが何も無いから
「見つけられなかったのですか」
「探さなかったのですか」
「やり遂げなかったのですか」
「途中で投げ出したのですか」
「……×待×ずれ××た」
その人は僕の画用紙と色鉛筆持ち上げると こちらを見ずにどこかへ行ってしまった
手元には何も無くて ショルダーバッグの中身は空っぽ
一体何をしに行ったのだろう 何を探しに行ったのだろう
ただ頭の片隅で思うこと 捨てきれなかったこと
「絵を語る言葉の中に」
「果たして僕はいただろうか」
手元にはもう何も無いけれど ショルダーバッグにも何も入っていなけれど
旅をしてみようか
あの四枚の絵を見つけに
飛ばしてしまった夢を ちぎり捨ててしまった学びを ぐしゃぐしゃにして捨てた僕を 埋めてしまった思い出を
どうせもう何も無いのだから どうせ誰も期待しないのだから
ならばいっそ
この身一つで 探しに行ってみようか。
『この道の行方』———【やりたいこと】
6/10/2024, 12:02:33 PM