星座
獅子座と水瓶座。
Leo&Aquarius.
君の星座を知ったのだって、君の誕生日の一ヶ月前のことだからね。結婚ならしてもいいと言われて、じゃあ結婚してよと即答したあの日に君の誕生日を知ったんだから。最短2年、最長4年の返事待ちの期間でどれだけ君について知ることが出来るだろう。それぐらい君のことを何も知らないままに、勢いのままにここまで来たんだから。
踊りませんか?
曰く、何も知らない人と結婚は無理。
曰く、だって冗談だって思ってたから。
一度目は、まだ連絡先も交換していない顔見知りの客同士。自分が「トリプルワークを始めます」という少しばかり頭のおかしいことを言い始めた頃。なぜそれを始めようと思ったのかは覚えていないが、気付いたらそうなっていたというのが正しい。カレンダーに空欄などなく、一日の半分は仕事で埋まる。そんな生活がもうすぐ始まるから、お店には顔を出せなくなりますと挨拶も兼ねて飲み歩きをしていた頃。
「来月からトリプルワークが始まるから、絶対しんどくなるの。癒やしが欲しいから付き合ってよ」
「嫌だよ、絶対仕事優先じゃん。会えないし遊びにも行けない人となんで付き合うの」
「だめかー」
そういうことを口に出せるぐらいにはよく会うし、仲は良い方だった。割とちゃんと断られて、案外押したらイケるのでは?と思ったのがこの時の感想。これを言うと「鋼メンタルなの?」と聞かれるが、仕事という分かりやすい理由で断ってきたのなら仕事を調整すればいいと思ったのだ。
二度目は、その数ヶ月後。トリプルワークを始めてもうすぐ一年が経ちそうというそんな頃。身体の限界と言うか、主軸にしていたバイト先に新しく来た上司があまりにも役に立たず心が疲弊してバイトを辞めようかと周囲に相談していた頃。新しく来た上司は社員で、仕事が出来ないけれど社員なばかりに安易にクビにすることが出来ず系列店で押し付け合っているような人で。結論から言えば自分はそこのバイト先を辞めた。主軸にしていたバイト先だったから、カレンダーには一気に空欄が増えた。「やっとゆっくり飲めます」と元上司の愚痴の一つでもこぼしながら、心身の回復を求めて。
「トリプルワークもうしてないよ。時間作れるから付き合って」
「駄目だよ、もう友達枠だもん。友達とは付き合わないって決めてる」
「友達ではあるの?じゃあいいかな」
「友達でいいならそういうこと言わないの」
この頃は色んな人に会う度に「まだトリプルワークやってるの?早く辞めな」と言われていて、もちろん君もそっち派で。仕事に片が付いたから言っとこうかなと思った二度目は「駄目」と言われて断られた。この時点でだいたいの人は諦めるんだよ、と今の君は真面目な顔をして言ってくるけれど、正直な話本気で付き合いたいと思っていたわけではなかったから、友達という肩書きが貰えただけで自分は良かったのだ。
三度目はそこから半年経たずして。いつものバーに居た時に偶然会って「この子に2回フラれたんですよ」とキャストの人に話しながら隣に座った。バイトは1つしかしていなくて、連絡先も交換した後だったからどうかなと思って言ったのが三度目。
「ねぇ、やっぱり付き合ってよ」
「無理、だいたい恋人欲しいわけじゃないでしょ」
「それはそう」
「じゃあ告白してくんなよ」
「フラれたー」
そんな三度目。実は二度目の告白の後すぐぐらいに連絡先を交換していて、ご飯にも行って遊びにも行って、ちゃんと友人をしていたと自負している。それでもやっぱりフラれたけれど自分にダメージは無かった。だって「やめて」って言われなかったから。
三回のどれも人前で、バーで飲みながらの状況での告白だったから君は二度目までは完全に冗談だと思っていて、三度目で(あれ?)と思ったらしい。実は三度目の告白の後、別の店で「付き合うのは無理だけど、同居とか結婚ならいいよ」と言われ「じゃあ結婚してよ」と間髪を入れずに答えた自分に(本気か?)と君が悩んだおかげで今に至る。
きっと一般的ではない始まり方で。今も付き合ってはないけれど結婚はほぼ確定していて週の半分を君の家で過ごすという、「それはもう付き合ってるんでは」と周囲にツッコまれる関係で。
世の中には色んな出会いがあるけれど、こんな出会いも心が踊りませんか?
巡り会えたら
ずっと飼い主が欲しかった。養ってほしいとか面倒を見てほしいとか、そういうわけではない。警察犬とトレーナーのような信頼できるパートナーが欲しかった。自分は犬側であると早い段階で自覚していた。周囲からは「猫気質じゃない?」と言われたが、数人ばかりの友人達は一様に「日本犬」だと言う。曰く、認めた人間の言う事しか聞かないが、一度認めた人間の言う事はよく聞くのだと。時折見せる悪戯心が猫っぽく見えることもあるが、決して逆らうことはないと。
「何処かに飼い主落ちてませんかねー!」
もう何度目か分からなくなった本心をぶちまける。アレルギーで酒は飲めないのでもちろんソフトドリンクの入ったグラスを持って。
「落ちてないよ。落ちてたとしてもあんたは飼い主側だって」
「なぜ!こんなにも犬なのに……」
「この数年であんたの飼い主になれそうな人いた?」
「いなかったからまだこんなこと言ってるんじゃないですか。犬は増えましたけど」
「そうでしょ?あんた完全に飼い主側だから」
通って数年、いい意味で気を使うことをしなくなったキャストの内の一人と、これまた何度目か分からない会話をする。話の流れは毎回一緒で、一つのネタとして定着している部分もある。常連さん達はまたかと笑い、初めて会うお客さんは「え、危ない人ですか」と引いたり好奇の目で見てきたり。別に変な意味で言っているつもりはないけれど、どうも言葉が悪いらしい。だが恋人が欲しいわけではないし、友人は友人であって飼い主とは思えない。パートナーと言ってしまうと語弊が出るから、やっぱり飼い主が一番しっくり来るのである。
それなのにこの数年、増えるのは犬ばっかりで自分が飼い主をする始末。しかも複数人。なんで。
「恋人の方がすぐ出来るんじゃないの?」
「求めてないんですよね、モテないし」
「モテないやつは犬が増えたりしないのよ」
この人は分かって言ってくるからいいものの、自分が言う恋人と飼い主(=パートナー)の違いを理解出来ない人がほとんどだ。恋をしないという言葉の意味がうまく伝わらず、恋愛はするものだという前提で話が進む。それはそうなんだけど。そっちが多数派なんだけど。
「愛情はありますけど恋心はないですからね、求めてるのは飼い主なんですー」
「それ何回も聞いた。だから恋人を飼い主にすれば?」
「え、嫌だ。自分に恋愛感情抱かない人がいい」
「あーそうだった、めんどくさい奴」
別に蛙化現象ではない。単に自分にとって恋愛感情を抱かれることは裏切られたのと同義なだけだ。初対面の時から「付き合ってください」ならばまだいいが、ある程度仲良くなってからの告白は裏切りなのだ。こっちはそういうつもりじゃなかったのに、と。
「まぁそのうち見つかるでしょ」
「見つかるかなぁ」
「もし飼い主見つかってもウチには来てよ」
「そりゃ連れてきますよ!自慢しに!」
巡り会えた今だから笑って話せる過去のお話。
ちゃんと今も通ってます。
奇跡をもう一度
初めて会った時の記憶なんて正直に言ってない。何度か会う内に(いつもいるなぁ)と思うぐらいの客同士。向こうもそんな感じの印象だったらしい。直接絡んだ記憶もあまりなくて、だいたい恋人に振り回されている現場しか見たことがないような、そんな気すらする。あと酒飲み。ザルを通り越してワク。そんな人。
「飼い主が欲しいんですよ!あ、変な意味じゃなくて、警察犬とトレーナーみたいなパートナーの意味合いですからね」
確かバーに通い始めて数ヶ月でそんなことを口走った気がする。言葉に嘘は無かったからか、それともこのバーが色々おかしいのか「分かる!」と言われたのは一人や二人じゃない。キャスト側も「そう、恋人じゃないんだよねぇ」とかそんなことを言っていた。
今までの自分の人生において”恋人”という肩書きの人は何人か居たが、向こうから近寄って来て、向こうが去っていくのを繰り返した。最初に説明しても受け入れてはくれるが、実感してくれる人は居なかった。。
「あなたが思う恋人の関係は築けない」
そう伝えたところで「分かった」とは返ってくるものの、毎回最後は「思ってたのと違う」だの「本当に好きなの?」だの言って去っていく。だから説明したんだよ。自分には”恋愛感情が無いし性欲も無いんだ”って。それなのに根拠の無い自信で「大丈夫」とか言っておいて結局ただただ穏やかな関係性に耐えられなくなるんでしょう?好きなものを嫌いと言ってしまう程子供ではないけれど、好きではないものを好きと言える程大人ではない自分も悪いのかもしれないけれど。
「どうもフラれたんだよ」
「あぁ、通りであの荒れ具合」
「ヤケ酒にも程があるけどね」
「今までになく大荒れでは?」
話は現在に戻って、1年と少しぐらい前。その時点で君とはバーで会えば声を掛けて隣に座る程度の仲にはなっていた。でも人が多ければその時空いてる席に座る程度の、ご飯に行こうって言い合っているのに全然連絡先を交換しない程度の関係性。その頃君には恋人がいたけれど、何やらフラれて荒れに荒れているというのを人伝いに聞いたし、実際目撃もした。でもそんな失恋をイジれはしない、そういう関係性。
ともかく、君がフリーになったのだと知ったのはそこで、その時点で自分は君と一緒になる算段をつけて行動を始めたのだけれど、今思えばなんでそんな考えに至ったのか自分でも分からない。タイプでもないのに。
奇跡は偶然の頂点とも言うけれど。君にとっては不運が重なった頂点があの頃で、自分にとっては幸運が重なった頂点があの時だったんだと思っている。確かに自分も努力はしたけれど、君がその間に新しい恋人を作らなかったのは奇跡なんじゃないかって。だからもう奇跡は起きないかもしれないし、今この瞬間も君と過ごせているのは奇跡の連続なのかもしれない。どっちにしたって、奇跡をもう一度なんて他人事にするつもりはないけどね。
たそがれ
たそがれ、ねぇ。黄昏、黄昏時、黄昏れる。言い換えて誰そ彼時とか逢魔が時、古風な感じで暮れ六つとか。風景的な意味で使うか、本来の意味で使うか。いっそのことテーマの文言を使わずにテーマを表現するとか。
「見たことないぐらい難しい顔してる」
今日のテーマを見て、ぶつぶつと独り言を言っていたようで。そういえば君のリクエストで近所のファミレスに来ていたなと現実に意識を戻す。君は別に怒った風もなく「そんな難しい顔出来たんだね」と何やら失礼な評価をくれていた。
「そんなことある?難しい顔してることあるでしょ」
「ないよ、いっつもぽや〜ってのほほ~んってしてる」
「そうなのか……」
言われて少し考えてみたけれど、そもそも好意を持っている相手と一緒にいて、そんなに気難しい顔をする人も珍しいのでは。きっとその人はとんでもなく照れ屋さんで表情筋を一所懸命引き締めてるだけの人だったりしない?しないか。でもそう言われると何だか自分が締まりのない顔をしていると言われているみたいで不服です。
「締まりはないんじゃない?幸せそうな顔しやがってとか最近よく言われてるし」
「言われるけどしょうがないね、幸せだもん」
「そういうとこじゃない?」
元々飲み屋というか、君とはバーで知り合った。自分はアレルギーがあってお酒は飲めないけれど、キャストの人達が面白くてお客さん達がいい人達で、気付いたら通い始めて数年は経っている。知り合ったのは4年ぐらい前だけど連絡先を交換したのは今年の4月だと言うのは掴みとして最高で、その間に3回フラれたけど結婚予定です付き合ってはないですけどねという鉄板ネタが完成して今に至る。変なの。
「今日のテーマが『たそがれ』なんだよねぇ」
「書けないなら書かなきゃよくない?」
「書きたいじゃん、自分じゃ考えないテーマだし」
君は創作を生業にしていて、この手の話には理解が深い。自分はただの趣味でやっているだけだから、そうなるのは必然なんだけど。結局ファミレスでは『たそがれ』というテーマで筆が乗ることはなかった。