中宮雷火

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9/12/2024, 3:17:26 PM

【殺人崇拝】

⚠今回の物語は過激な内容(グロい系)を扱っております。
苦手な方・不安な方は次回作を楽しみにしていただけると幸いです。

また、今回の物語は前回作『×』と同じ世界観です。
本作を読む前に『×』を読んでいただくと、より世界観への理解が深まると思います。

本作は(タイトルからも分かるように)狂った内容ですので、
世界観への理解が非常に難しいかと思いますが、
「この物語エグい!」と思って頂ければ嬉しいです。







――――――――――――――――――――

私はずっと恋をしている。
彼とは3年前に知り合ってから、ずっと恋仲だ。
しかし、結婚を考えているわけではない。
というか、「結婚」と言われてもピンと来ない。

なぜなら私は、彼を崇拝しているからだ。


「ただいま!」
私は友人との旅行から帰った。
久しぶりの家だ。
彼は微笑んで
「おかえり、待ってたよ」
と、優しく頭を撫でてくれた。
リビングには黒いゴミ袋が2つほど放置されていた。
きっと、私が旅行している間にも『ゴミ』を処理してきたのだろう。
「帰ってきて早々に悪いけど、この後手伝ってくれない?」
私は2つ返事で承諾し、スコップや軍手を用意して、彼とゴミ袋を抱えて外に出た。

山に着いた。
軍手をはめてスコップを持ち、ひたすらに土を掘る。
ある程度掘れたら、ゴミ袋を埋める。
私達の日課だ。
今日も日課をこなしたので、誰にも見られないようにさっさと車に乗り込んだ。
車の中で、彼と色々な話をした。
主に旅行の話。
温泉入ったよ、お土産に和菓子買ってきたよ、そんな話を延々と続けた。
彼はずっと笑顔で私の話を聞いてくれた。
ああ、こんなところに惚れたんだよな。
私は昔の、痛む過去の記憶を思い出した。

実の両親から虐待を受けていた私は、人間関係に飢えていた。
本気で愛してくれる人が居てほしかった。
話を聞いてくれる人が居てほしかった。
とにかく飢えていた。
何とか実家を抜け出して上京した頃に、彼と出会った。
理想の人間だった。
彼は私のことを全て肯定してくれて、
過去のことも全て受け止めてくれて、
本気で愛してくれた。
私も、彼に本気の恋心を持った。
ずうっと、ずうっと一緒に居たい!
初めてそう思えた人だった。

しかし、1つだけ理想と違ったことがあった。
彼は"殺人鬼"だった。
ひっそりと人を殺し、山に埋める。
それを生業としていた。
異常だ。
こんなの、異常だ…!
そんなことくらい私にだって分かった。
しかし、それでも私は彼から離れなかった。
だって、彼に抱いたのは不気味さ・恐怖より
美しさだったから。
人を殺すときの目つき、指先、ナイフで刺すときの顔、
やっていること全てが美しく感じられた。
もっと、いっぱい彼の美しさをこの目で見たいと思った。
やがて彼への気持ちは「恋」から「崇拝」へと変化していった。
彼とは恋人であり、共犯者だ。

家に着いた。
正直、もうクタクタだ。
あくびが何度も出てしまう。
「私、先に寝るね」
そう言って寝室へと向かった。

午後4時。
何だか物音がして目が覚めた。
彼が何かやっているのだろうか。
しかし、こんな時間に起きているとは。
何かあったのだろうか。
まさか…、警察?
私は冷や汗が止まらなかった。
バレた?なんで?
どうしよう…、どうしようどうしよう!
私はパニックになった。
嫌だ、離れたくない!
「キイッッ」
ドアが開いた。
鼓動が高鳴った。
「…っ」
彼だった。
「どうしたの?」
「ううん、ちょっと…嫌な夢見ただけ」
私は安堵した。
良かった…警察じゃ無かった…
そう思ってほっと息をついた瞬間、
頭に鈍痛が走った。
「…ぇ、」
私は痛みに耐えきれず、うずくまった。
痛い、痛いよ…
私はさっきまで頭を押さえていた手を見た。
濡れている。
そして、独特の匂い。
何となく、血だと思った。
暗くて色は見えないけど。
何で血が?どうして?
意味不明な状況に困惑していると、
また鈍痛が走った。
頭、背中、腕、脚。
あらゆるところに硬いものが打ち付けられた。
何、一体?
次第に瞼が重くなっていって、
頭も上手く回らなくなって、
声も発せなくなった。
遂に視界が黒一色に染まり、その中で彼の声が酷く響いた。
「あー、また『ゴミ』捨てなきゃなぁ…」

9/11/2024, 2:28:41 PM

【×】

⚠今回の物語は少しばかり過激な内容(いわゆるグロい系)のものを取り扱っております。
苦手な方・不安な方は次回作を楽しみにしていただけると幸いです。














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午後3時。
用事を終えて帰路に着いた。
午後3時、鬱陶しい日脚、薄汚れたビルの路地を進み、レンガ造りのアパートへと向かった。
階段を上がっていると、同じアパートの住人とすれ違った。
ここに住む人々は少し冷たくて、
すれ違っただけで鋭い目を向けてくる。 
僕は気にせずに軽く会釈をした。

鍵を開けて自宅に入ると、生臭い匂いが鼻を刺激した。
ああ、『ゴミ』捨ててなかったっけ。
今晩捨てに行こう。
あと消臭スプレーで臭い消しとこう。
そんなことを考えながら、僕は壁掛けカレンダーに×印を書き込んだ。
その後日記を開き、昨日の夕方からのことを書き込んだ。
窓が北に付いているので、部屋には日差しが入りにくい。
でも、それでいいと思う。
暗いほうが好きだ。

午後8時。
僕は『ゴミ』を捨てに山の中へ入った。
スコップで地面に穴を開け、ある程度の大きさになったら『ゴミ』を埋める。
そしてまた土を被せる。
ここ5年ほど、これが一種のルーティンになっている。
『ゴミ』を埋め終えたので、また新しい『ゴミ』を見つけに行こうと思う。

午前4時。
はあ。
『ゴミ』を扱っていたら汚れてしまった。
顔も服も汚れているではないか。
まあ、黒い服を着ているから大丈夫だけど。
僕は手袋をナイロン袋に入れた。
赤い液体が床にポトッと垂れた。
さっき処理した『ゴミ』を黒いゴミ袋に入れ、その上に腰掛けた。
僕は、すっかり枯れてしまった命の上で足を組みながら考えた。
カレンダーに×印つけとかなきゃなぁ。

9/8/2024, 1:02:07 PM

【恋のBPM・オーバー100】

やばい。
緊張してきた。
胸の鼓動がドクドクドクと早く打っている。
なぜならば、僕は今日の放課後、あの子に告白するからだ…!

遡ること昨日の昼休み。
「なあ、お前アイツに告白しないの?」
いきなり友達に言われて、危うく飲んでいたいちごミルクを吹き出しそうになった。
「い、いや、いきなり何だよ。別に、様子見てるだけだし?」
「いやビビってるだけだろ?」
こういうとき、誰だって臆病になってしまうものだろう。
もちろん僕も例外ではない。
「もうこの際告白しようぜ?はい、決まり!プロポーズ大作戦始まりでーす!」
勝手に決まってしまった予定にオロオロしていると、女子たちが声を掛けてきた。
「あんたたち、さっきからうるさい!
何話してんの?」
「あ、ちょうどいいー!
○○にさ、明日の放課後体育館裏に来てって言っといて!」
「え、なんで?」
「それはヒ・ミ・ツ」
「え、ま、まさか!?マジで!?」
「いや、コイツがな」
指を指された僕は、苦笑いを浮かべた。

いきなり決まってしまった告白の予定。
本当にどうしよう。
気持ちの整理がつかない。
一言目はなんて言えばいい?
いきなり「好きです!付き合ってください!」なんて言えるわけない。
というか告白なんて無理だよ!
振られたらどうするんだよ!
こうしているうちに、家を出る時間は刻一刻と迫っていた。
玄関で頭を抱えながら、本当に悩んだ。
だけど、行くしかない。
もう告白の予定は決まってるし。
なんて考えていると、急に自分の胸の内に秘める漢気が沸々と元気を出し始めた。
ここでビビってどうする?
告白するんだろ?
なら堂々と行けよ。
もう一人の(漢気がある)自分がこんな風に言ってくる。
もうこうなってしまったら、逃げることなんてできなくて、僕は勢いよく外に出た。

通学路を歩いている間も漢気のある自分は主張を止めることなど無かった。
今日告白しないでどうする?!
このままチャンスを逃す気か?
お前はそれでいいのか?
5分も経つと、段々と素の自分が洗脳され始めて、とうとう勇気を出した。
そうだ、今日告白しなければチャンスを逃す。
振られてもいいんだ、当たって砕けるんだ!
なんて、真面目に考えているではないか。
でも、恥ずかしくは無かった。
むしろ、こんなに堂々としている自分が誇らしかった。

学校に着いてしばらくするとHRが始まった。
そこで、担任は衝撃的な事を言った。
「えーっと、今日欠席しているのは、○○さんだけ?」
告白しようと思っていた相手が、休んでいるではないか。
心がポキっと折れてしまった。


9/7/2024, 1:04:20 PM

【心踊る体験を】
 
あるアーティストのコンサートに行ったことがある。
ずっと好きで、「推し」という言葉で表せないほどの存在。
ずっと苦しくて、死にたくて、そんな中で彼らのロックサウンドに光を見出そうとした。
そんな、私にとってのヒーロー達に会いに行った。

会場付近では物品販売が行われていた。
近づくにつれ増えていく人溜まり。
「ああ、こんなにも多くの人達が彼らの音楽を愛しているんだ」と、感慨深い気持ちになった。
2時間ほど経ち、開場した。
周りを見渡すと、席ばかり。
そしてやや下にはステージ。
「これから、コンサートが始まるんだ!」というワクワクを抱え、その時を待った。

いよいよ始まった。
迫力ある映像、音楽、光に包まれて現れた彼らは、美しかった。
本当に、存在している…
心がこんなにも震えて、多幸感に満ちたことなどあっただろうか?
生で聴いた彼らの音楽は、この世のものとは思えない賛美歌だった。
心の底から美しいと、本気でそう思った。
そして、私はこのとき決意した。
彼らに近づこう。
アーティストになろう。
ある1日の、心踊る体験をしたお話だ。

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あれから10年。
今日は、アリーナツアーを控えている。
彼らがライブを行った場所で。
この10年の間に色々なことがあった。
親に夢を反対された高校時代。
曲が中々売れず悩んだ大学時代。
いきなり売れ始めた3年前。
ずっと、今までのことは夢だと思うようにしていた。
自分が、こんなに幸せになっていいはずがないと、
そう言い聞かせなければ自分の輪郭を保てない感覚があった。

今日も、あのライブを思い出した。
あの日から忘れることなど1日たりとも無かった。
あのライブだけが、自分を照らす太陽だった。
あれから色んなライブに足を運んだが、
自分にとっての太陽にはなれなかった。

しかし、今日だけは自分のライブが1番だと、胸を張って言えなければ。
そんな思いでステージに経った自分は、観客席を見回した。
ああ、彼らが見ていた景色も美しかったのだな。

心踊る体験をさせてあげよう、
その思いを胸に始まったライブは大成功だった。

9/6/2024, 1:41:06 PM

【ボーナスタイム】

僕の住む町内では、午後5時になると「夕やけ小やが流れる」が流れる。
スマホも腕時計も持たされていない僕達は、その音楽を合図にして家に帰ることが多い。
今日もそうだと思っていた。
だけど、今日は何だか違ったのだ…

「今日、1日が長くね?」
良樹がポツリと漏らした。
「そうか?」
「えー、違う?」
「普通かなぁ」
そんな他愛も無い話をしていた矢先、妹が変な事を言い出した。
「お兄ちゃん、夕やけ小やけ流れないよ?」
「え、まだだろ」
「もーすぐじゃない?」
すると、英一(クラス1の秀才だ)が
「いや、もう5時過ぎてるよ。」
と言った。
そんな馬鹿な、と思ったが、英一はキッズケータイを僕達に見せた。

17:12

もう10分以上経っている。
「え、門限過ぎてるじゃん!ヤバぁ!」
良樹は頭を抱えてヘナヘナと座り込んでしまった。
一方、他の面々は冷静で、他の女子数人は
「これ、お母さん達絶対気づいてないよね。」
と会話している。
そんな中、僕はあることを思いついてしまった。
「なあ、母さん達気づいてないなら、もうちょっと遊んでもバレなくね?」
すると皆は一瞬静かになったものの、1秒後には口を揃えてこう言うのだった。
「それな!!!」

その後、僕達は広い公園に移り、鬼ごっこを始めた。
幸いにも今は夏なので、日が暮れるのが遅い。
ということは、母さん達もきっと気づくのが遅くなるに違いない。
ということは、僕達はもっと遊べる。
そんな優越感と1mmの不安に満たされていた。
走っているときに見えた空が青くて綺麗だった。

17:54
英一がおもむろにポケットの中を探り始めた。
「あー、お母さんから電話来た。」
恐らく、早く帰ってこいと言われるのだろう。
英一は電話をし始めた。
「うん…、うん…、第1公園にいる、うん…、分かった。」
通話が終わるや否や、英一は言った。
「ごめん、帰んなきゃ。嘘、つけなかった。」

結局、各々帰ることになった。
いや、実際にはもう少し遊んで帰ってもバレないのでは?とも思った。
だけど、僕らは知っている。
そういうことをすると後々面倒になる、と。

僕と妹は家に帰った。
今日は門限をオーバーし過ぎた。
とっくに6時を超えている。
怒られるだろうか。
そんなことが頭をよぎったが、今日の判決はすぐに下された。
「町内放送が壊れてたらしいし、今日だけは見逃してあげる。でも、次はないよ?」
あぁ、良かった。
そんな脱力感と幸福感に満ちた僕は、夜ご飯をガッツリ食べた。

その後、しばらく町内放送が出来ないということになり、お母さんから百均の腕時計を買ってもらった。
もう、門限を合法的に破ることが難しくなった。

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