中宮雷火

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9/19/2024, 12:00:30 PM

【時間よ止まれ!】

時間を止める能力。
僕が有している能力だ。
時間を自由に止めたり、再生することができる。
昔はその能力が如何に便利なのか気づかなかったが、成長するにつれ能力の万能さに気づいた。

数学のテスト中。
巡回する先生の足音、忙しなく動く鉛筆のカツッとした音が聞こえる。
僕はある問題で鉛筆が止まった。
「△ABCと△BDRの面積比を求めよ。」
僕が苦手とする問題だ。
うーん…
考えたけど分からない。
他の問題の答え合わせも兼ねて、時間を止めてカンニングしようではないか。
僕は指を鳴らした。
パチン。
その途端、先生の足音や鉛筆の音が聞こえなくなり、静寂に包まれた。
この状態なら、何をしても良い。
例えカンニングしても、誰かを殴っても。
何かを盗んだっていい。
あと、先生の顔に落書きしてもいい。
僕はクラスで2番目に賢い奴のもとへ行き、
回答用紙を拝借した。
しばらくして全ての問題を確認し終え、
回答用紙を元の場所にそっと戻した。
用が済んだので、時間を再生しよう。
と、思ったのだけれど。
なんだかテストに飽きてしまったので、
もう少しだけこのままでいよう。
僕は教室を出た。

他のクラスも皆必死の表情を浮かべ机に向かっている。
歩いているのは僕だけ。
この優越感、堪らない。

僕は運動場に出た。
ますます優越感を感じる。
みんなはテストに苦しんだまま、
自分は圧倒的な解放感を感じている。
ああ、自由だなぁ。
僕は近くのベンチに腰掛け、天を仰いだ。
そして目を閉じて、ただ風が当たる心地よさを感じていた。
感じていたのだけれど…

「!!!」
急いで跳ね起きた。
時計には7:30と表示されている。
夢、かよ…

9/16/2024, 12:02:48 PM

【狐の嫁入り】

幼い頃の話である。
車に乗って英会話教室に向かっている途中だった。
晴れた空から、いきなりポツッと雨粒がフロントガラスに落ちてきたのだ。
晴れてるのに雨?
私はとても不思議で堪らなかった。
すると母は、
「狐の嫁入りだ」と言った。
「狐の嫁入り?」
「うん。狐さんがね、結婚式で喜んで泣いているんだよ」
私は「へえ〜!これは狐さんの嬉し涙なんだ!」と感動したのを覚えている。

母の言う「狐の嫁入り」が本当に正しいのかは分からないが、
今でも天気雨が降るたびに「嬉し涙だ!」と思う私が居るのだ。

しかし、同時にこう思ったりもする。
天気雨が嬉し涙ならば、
酸性雨は「これ以上苦しめないで」という、SOSなのだろうか。

9/15/2024, 11:29:39 AM

【胡蝶の夢】

ピコン!
LINEの通知が来た。
どうせどうでもいい公式LINEだろうと思い、放っておいたのだが、
ピコン!
またLINEが来た。
何だ?と思い、開いてみると、

「お話しよ?」

久しぶりに君からLINEが来た。
嬉しくって、2時間も会話していた。
こんなに沢山会話できたのはいつ以来だろう。

やがて、
「またね!」
と、お開きの合図がなされた。
「もう起きなきゃね」
ん?
それはどういう意味だ…?
彼女の言っていることがイマイチ分からず考え込んでいた次の瞬間、

僕は天井を眺めていた。
微かに聞こえる鳥のさえずり、
死にたくなるほど眩しい太陽、
7時を指した時計の短針。
それらを認識したとき、僕は理解した。

あれは夢だったんだ。
彼女は3年前に死んでいるから。

9/14/2024, 12:01:40 PM

【命が燃え尽きるまで】

2007/12/01
子供が生まれた。
ああ、我が子ってこんなに可愛いんだな。
産声が聞こえてきたとき、どんなに嬉しかったことか。
遥が無事に元気な赤ちゃんを産んでくれた安堵、
大切な存在がもう一人できた事への喜び。
本当にパパになれるのだろうかという不安。
旦那の役目さえ全うできていない僕が、
パパの役目など果たせるのか。
でも、
「最初からパパになれる人なんていない」
そう君が言ってくれたから。
この命が燃え尽きるまで、妻を、この子を愛したい。
愛してみせる。

あっ、
名前は2人で話し合って、
「海愛(みあ)」にしようと思っている。
僕達には海での思い出がたくさんあるから、
いつか3人で海に行きたいな、なんて考えたり。
とにかく、愛のある子に育ってくれること、
それが何よりの願いだよ。

――――――――――――――――――――

私は高校2年生になったらしい。
「らしい」というのは、私は去年の12月から不登校なので実感が無いということだ。
ただ、最近は少しずつ学校に行き始めていて(というか行かなければ留年してしまう)、
教室に入ることは無いものの保健室登校や別室登校、特別な補講を受けている。
そうしないと、私は留年するらしいのだ。
面倒といえば面倒だが、私をサポートしてくれる先生達に感謝だ。

最近はよく外にも出るようになった。
といっても、楽器店に行くだけなんだけど。
電車で片道30分以上かけて行くのは億劫で、
「近くに楽器店があればなあ…」
なんて考えてしまう。
1年前まではあったのだけど、
色々あって閉店してしまったから…

友達―かのんちゃんしかいないけど―とも会うようになった。
保健室までわざわざ会いに来てくれたり、
この前は一緒に映画館に誘ってくれた。
とても嬉しかった。
だって、今までこんなに話せる友達なんていなかったから。

月並みだが調子を戻している私には、もう一つ熱中していることがある。
オトウサンについて、だ。
オトウサンは、私が3歳のときに病気で亡くなった。
かろうじてある夏の日の記憶は残っているのだが、
もう顔も覚えていないし、声も上手く思い出せない。
手の温もりもリアルに思い出せない。
私がオトウサンについて知っていることは2つ。
1つはミュージシャンだったこと、
もう1つは、お母さんと結婚する数年前から晩年まで、日記をつけていたことだ。
日記は5冊くらいあって、結婚のお話からミュージシャンとしての話、病気の話まで色々と書かれてあった。
特に病気の話は詳しくて、どこの病院に入院していたか、どんな病気だったか事細かに記されていた。
時々、幼い頃の私が日記に登場することもあった。
それを成長した私が読んでいるのだが、
文面でオトウサンに可愛がられていて照れ臭い。

しかし、こうしてオトウサンの事を知る度にある疑問が浮かぶのだ。
なぜ、お母さんはオトウサンの事を全く教えてくれないのだろう?
二人は夫婦だ、お互い険悪な仲であったはずが無いだろう。
思えば、我が家には1枚もオトウサンの写真
が無い。
よくドラマで、亡くなった家族の写真を机とかに立ててあるシーンがあると思うけど、我が家では一切無い。
だから私はオトウサンの顔が分からない。
なぜなのだろう、
お母さんはどことなくオトウサンの話題をタブー視しているように思う。
私がオトウサンの話を聞いたのも、全ておばあちゃんからだ。
お母さんが話してくれたことは一切無い。
そんなに、オトウサンの話をするのが嫌なのか?
何で?
私には抑えられない好奇心があった。

オトウサンの事を知る手がかりは、おばあちゃんから話を聞くことだ。
私は近々、おばあちゃんの家に行ってみようと思う。

――――――――――――――――――――

2010/12/01
僕はもう、駄目かもしれない。
日に日に弱っていくのが分かる。
肩や腰は耐えられないほど痛く、
夜は息苦しくて眠ることが出来ない。
もう末期らしい。
僕はもう、手の施しようが無いらしい。
ああ、
命が燃え尽きるまで、大切な人を愛することができなかった。
遥も、海愛も、両親も、僕は何1つしてやれなかった。
海愛との思い出など、何1つ作ってやれなかった。
みんなで、海行きたかったなあ。
何もしてやれなくて、本当にごめん。

9/13/2024, 12:26:11 PM

【始まりの中の終わり】

午前2時半。
私は小説を書き上げ、背伸びをした。
はぁっ。
疲れたっ。
ここ1ヶ月ほどずっと小説を書き続けていたので、かなり大きな達成感がある。
もう何もしたくない。
でも、まだ全体の見直しとか色々打ち合わせしなければいけないことがあるので、ここで気は抜けない。
でももう何もしたくないっ!
私はファイルを保存してパソコンを閉じた。
そして机に突っ伏した。
はあぁぁ。
小説書きたい…
さっきまで小説を書いていたというのに、何故かそんなことを考えてしまった。
こういうことはよくある。
私は、本当に創作することが大好きなんだろうなぁ。
そんな私が、いちばん好きだと思える。

小学生の時に「読書」という趣味に出会った私は、次第に小説家を志すようになった。
こんな物語があればいいのにな。
こんな人であれたらな。
その理想を押し付けるのに、執筆活動はうってつけだった。
しかし、世の中はそんなに甘くなくて、
「そんなんじゃ、小説家になれないよ?」
なんて言葉は腐る程聞いた。
「センスないね」
「まともな仕事ついたら?」
「いい加減現実見なよ(笑)」
そんなの、言われなくたって理解してる。
悔しいことに、次第にもう一人の私まで罵詈雑言を吐き出すようになった。
それでも、自分のセンスをYesと信じてやってきた。

この前、ちょっとした賞を受賞した。
芥川賞みたいな大きな賞ではないのだけれど、あるコンクールに応募して入賞した。
そのことを知って最初に思ったのは、
「ああ良かった、報われた」ということだった。
周囲の人に、自分に才能を否定され続けたけれど、
私は腐ることなく何年も努力を続けてきて、
そうして掴み取った栄光は何よりも眩しかった。
とはいえ、小説家で生計を立てるのは本当に難しい。
1回受賞したからといって、いきなり億万長者になれるわけではない。
小説家とは、そういう仕事だ。
現に、私は小説家以外にも副業を幾つも行っている。
そうしないと生き抜けることはできない。
それでも、自分が本当にやりたいことができるのなら、
これよりも幸せなことはないだろう。

しばらくぼうっとしていたらしい。
30分も経っているではないか。
もう寝なきゃ…
私はベッドでしばらく眠ることにした。

リビングから寝室に移動するとき、
ふと外の空気を吸いたくなった。
ベランダに出ると少し冷たい風が頭を撫でてくれた。
最近、少しだけ冷えてきたような気がする。
気のせいだろうか。
見下ろすと、若い二人組が歩いているのが見えた。
二人とも大きな荷物を背負っていて重そうだ。
そして仲が良さそう。カップルかな?
私は人間観察が好きだったりする。
他の人も、自分と同じように一喜一憂しながらも毎日を生きていることの不思議。
他の人の生活を想像することが好きだ。
しかしあのカップル、よくこの時間帯に出歩いているな。
私がここに引っ越して3年ほど経つが、この時間帯に外に出れば必ずあの人達と会っているような気がする。
なぜだろう。
そこで私の脳には様々な想像が流れ込んできたが、今は一旦シャットアウトすることにした。
今は睡眠が最優先、生活習慣には気を遣うべき。
私は中に入り、廊下を進み、ベッドに潜り込んだ。
目を瞑り、私は最後にこう思った。
夜が明けるときも、私は一日の終わりにいるのだろうな、と。

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