中宮雷火

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【ボーナスタイム】

僕の住む町内では、午後5時になると「夕やけ小やが流れる」が流れる。
スマホも腕時計も持たされていない僕達は、その音楽を合図にして家に帰ることが多い。
今日もそうだと思っていた。
だけど、今日は何だか違ったのだ…

「今日、1日が長くね?」
良樹がポツリと漏らした。
「そうか?」
「えー、違う?」
「普通かなぁ」
そんな他愛も無い話をしていた矢先、妹が変な事を言い出した。
「お兄ちゃん、夕やけ小やけ流れないよ?」
「え、まだだろ」
「もーすぐじゃない?」
すると、英一(クラス1の秀才だ)が
「いや、もう5時過ぎてるよ。」
と言った。
そんな馬鹿な、と思ったが、英一はキッズケータイを僕達に見せた。

17:12

もう10分以上経っている。
「え、門限過ぎてるじゃん!ヤバぁ!」
良樹は頭を抱えてヘナヘナと座り込んでしまった。
一方、他の面々は冷静で、他の女子数人は
「これ、お母さん達絶対気づいてないよね。」
と会話している。
そんな中、僕はあることを思いついてしまった。
「なあ、母さん達気づいてないなら、もうちょっと遊んでもバレなくね?」
すると皆は一瞬静かになったものの、1秒後には口を揃えてこう言うのだった。
「それな!!!」

その後、僕達は広い公園に移り、鬼ごっこを始めた。
幸いにも今は夏なので、日が暮れるのが遅い。
ということは、母さん達もきっと気づくのが遅くなるに違いない。
ということは、僕達はもっと遊べる。
そんな優越感と1mmの不安に満たされていた。
走っているときに見えた空が青くて綺麗だった。

17:54
英一がおもむろにポケットの中を探り始めた。
「あー、お母さんから電話来た。」
恐らく、早く帰ってこいと言われるのだろう。
英一は電話をし始めた。
「うん…、うん…、第1公園にいる、うん…、分かった。」
通話が終わるや否や、英一は言った。
「ごめん、帰んなきゃ。嘘、つけなかった。」

結局、各々帰ることになった。
いや、実際にはもう少し遊んで帰ってもバレないのでは?とも思った。
だけど、僕らは知っている。
そういうことをすると後々面倒になる、と。

僕と妹は家に帰った。
今日は門限をオーバーし過ぎた。
とっくに6時を超えている。
怒られるだろうか。
そんなことが頭をよぎったが、今日の判決はすぐに下された。
「町内放送が壊れてたらしいし、今日だけは見逃してあげる。でも、次はないよ?」
あぁ、良かった。
そんな脱力感と幸福感に満ちた僕は、夜ご飯をガッツリ食べた。

その後、しばらく町内放送が出来ないということになり、お母さんから百均の腕時計を買ってもらった。
もう、門限を合法的に破ることが難しくなった。

9/6/2024, 1:41:06 PM