小さな幸せ
『「幸せは偉大なことだ」100万部突破!!』
そんなニュースを耳にした。その本の中には、
「幸せは、大きいことだ。」
「小さなことでは得られない!」
「毎日の日常は、当たり前」
「その上に進むものが幸せを掴みとる!」
と書かれている。
まさに、自分を傷つけるようなその言い方。
私は、父子家庭で育ち、幼い頃からも家に父親は毎日おらず、家事も何もかもこなしてきた。
月に一度やってくる休みは、必ずどこかに連れて行ってくれて、たらふく食べさせてくれる。
それなのに、私は子供心のままか、豪華なものを父に求めた。
当時の私は、父親が低い給料でやりくりしていたことを知らなかったからだ。
そして、
これが小さなことでも、父は、ずっと一緒に居られる時間が幸せに感じていてくれたことも。
幸せは、大きな成功をしなくては得られない?
世間は、小さな幸せでも、認めてはくれない?
父との時間は幸せだった。
父の墓の前で、ふと考えた。
春爛漫
もう春なのだと、実感させられる。
木漏れ日の中、桜を綺麗に彩った花が咲き乱れている。その花を見ると、いつも思うことがある。
娘が、桜を見るのが好きだったなと。
娘は、春爛漫の季節に、
桜を見ては、綺麗だと言った。
私の手を掴み、近場の桜並木を見に行った。
しかし、娘は小学校に上がってすぐに、小児がんを発症し、桜を見ることが出来なかった。
「今日は、桜、ゴホッ見に行かないのぉ、?」
「ごめんね、具合が安定してからにしよう、」
そう言って、娘と桜を見に行かない理由を、何度も濁した。そして春爛漫の季節が訪れ、娘は、静かに息を引き取った。
だから私は、春爛漫の季節になると、
娘を思い出す。
娘同様、がんだと診断された私も、
この苦しみを、苦痛を終わりにして。
娘と同じように。春爛漫の日に。
そっと、静かに。
死ねるのかな。
七色
みんなそれぞれ、カラーを持つ。
私の所属する劇場は、一人一人カラーを持つ。
そして七色が集まった時、全てが光り輝く。
一人は、とても素敵な快晴。
一人は、綺麗に彩った晴れ。
一人は、中立な立場の曇り。
一人は、心の闇を抱える雨。
一人は、爆発寸前を見た雷。
一人は、崩壊した建物雷雨。
一人は、冷たく生きてる雪。
この七人ではないと、パフォーマンスは完璧では無い。皆が、袋を被り、自らを隠すように。
自分一人では輝くことは許されない。
しかし、一人一人が、自分という表を隠す鎖に縛られれば縛られるほど、変わってゆく。
心の闇を浄化するような、視線を奪う七色に。
どこまでも、光り輝く虹と呼べる何かに。
ラッキーセブンと言うだろう。まさに、劇場はそれを表している。この、七人で。
記憶
私の記憶の中に存在する、あの子は誰だろう?
顔を火傷して、醜い姿を見せるなと蔑まれた彼女。それでも、折れずに頑張っていた彼女。面白い話をしてくれて、毎日隣にいた。
対して私は、何もかもから逃げ出し、罵られ、蔑まられたら最後。何も出来ないほど落ち込む。
彼女は、私とは真逆だった。
そんな私の記憶の中に残る彼女は、名前も思い出せない。誰なのかと考え、街中をふらついている。あまり親近感は無かったため、考えるのをやめた途端、一人の女が私に声を掛けた。喜んでいるような、そんな明るい声で。
「久しぶり!〇〇だよね?」
顔に火傷跡がついている女。私はその女を見つめる。親近感はないが、何故か見たことがあるように感じる。しかし、名前が分からない。
「え、お会いしたこと、ありましたっけ、?」
そうだ、そうだった。私の記憶は抹消されている
前に、頭をぶつけた。その時に、自分の名前すら思い出せないようになって、今の親が私の記憶を元に戻してくれた、、?
違う。違う。私の記憶は元には戻っていない。
元の親が、名前と今までのこと。
分からないことを話してくれた。
「思い出した、顔を火傷した、子、」
「そう、そうだよ!」
彼女は、私の前で涙を流して喜んだ。
もう二度と
もう二度と、あなたの手を離さない。
そう決断した一人の男は、女を抱きかかえた。
しかし、女はどんなに語りかけても答えてくれることは無い。いつか獄炎の炎に焼かれる日まで。
真っ白に染まった、青白の肌は彼女の存在を否定しているようにも感じ、何よりも、彼女の身体はいつもに増して冷えきっている。
次は、もう二度と離さない。
あなたが産んでくれた子供を、何があろうと守る。
私は、番人になるのだ。
もう二度と、被害を加えさせないために。