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1/14/2024, 7:29:51 AM

夢を見てたい

「お兄様!!」愛らしく 可憐な声で
妹が僕の名を呼ぶ

一生懸命に僕の元へ駆けて来て
小さく無垢な手で ピンクの花輪を
僕に見せてくれる。

「お兄様の分!!」と木漏れ日の様な
笑顔を僕に見せ 花輪を僕の首に
掛けてくれる。

「ありがとう」僕は、顔を綻ばせ
妹に伝える。

此処は屋敷の中庭 此処には色とりどりの
花々が咲き誇り 僕と妹の憩いの場所として 小さい頃から二人の大切な居場所
だった。


この花園に居る限り僕と妹二人だけで
居られる

まるでいつまでも夢の中に居る様なそんな
甘美な時を感じられる。

いつまでも夢を見させてくれる。...

僕は、愛しげに妹の髪を撫で
今度は、僕が作った花冠を妹の頭に乗せる。

妹は、照れた様に頬を染め僕を
見上げる。
そしてまた 優しい笑顔を僕に
向けてくれる。

いつまでもこの夢の時間が続けば良いのに...

だけど....もうすぐ僕は、妹と離れて
暮らさなければならない。

位の高い貴族の家に養子に出される事が
決まったからだ....

これは決定事項 覆す事は許されない...

妹には、別の家で暮らす事が決まった事だけ伝えた。

妹は、最初わんわんと泣いた
我が儘を言わない妹がその時だけは、
(行かないで)と僕の胸の中で泣きじゃくった。

宥めて慰める事しか出来なかったけど
妹は、次の日には、聞き分け良く
僕に笑顔を向けてくれた。

そんな妹が愛おしくてたまらない...

「お兄様...」花冠を付けたまま妹が僕を
見上げる。
妹も分かっている...
別れの時が近づいている事を....
僕を見上げる妹を僕は、何も言わず
抱きしめた。

神様 出来る事なら まだ夢を見させて下さい

簡単には、覚めない夢を出来るだけ長く僕は見ていたいんだ...。

1/13/2024, 6:14:24 AM

ずっとこのまま

白い天井 無機質なリノリウムの床
白いベッドに白い布団 病院と言う建物
特有の独特の匂い

清廉潔白なシーツな上で眠り続けている


医者の話しでは、ずっとこのままの
可能性もあると言う話しだ....
分かっている そんなの....

でも僕は、諦められなくて....

だって心電図の音は、規則的に動いている
手を握れば体温だって感じられる。

だから 呼吸器を外す決断が出来なくて....


僕は、君が眠るベッドの上に突っ伏す。

「諦めが悪いって よく君に
怒られたっけ....」

僕は、綺麗な顔で眠る 君の耳元に囁く
そうしてまた 昨日と同じ
大粒の涙を 何回も何回も流す。
僕の大きな泣き声で君が
『うるさい~』と言って怒りながら
起き出すのを待つ様に

僕は、諦め悪く 君の手を握って
また 今日も涙が枯れるまで
泣き続けた。

君がもし側で見ていたら呆れる程の
大声で.....

男としては、情けないかもしれない...
こんな僕の 君は一体どこが良かったんだろう。....

ねえ そんな話しも君の口から
聞いてみたいから...

だから 僕は、まだ君の呼吸器を
外さない 外せない

ずっとこのままなんて 僕には、
とても思えないから....

ねえ 君は、いつも寝付くのは
早いのに
起きるのは、遅かったね...

君が まだ目覚めないのだから...
よっぽど良い夢を見てるんだね...

早く聞かせて
君の夢の話しを聞けるのが すごく すごく 待ち遠しいんだ...

だから 僕はいつまでだって待ってるよ
瞳から涙の最後の 一雫を零し

眠る君の額にキスをして
僕は、眠り姫の病室を後にした....。

1/12/2024, 12:54:32 AM

寒さが身に染みて

冷たい空気が肌に刺し 鼻にツンと抜ける

吹雪が酷くなって行き 老人は、
老犬と共に 自分が住む小屋に引っ込む
玄関で雪を払いドアを閉める。
老犬も玄関口で体を震わせ雪を払う

部屋に入ると老人は、手袋を取り
ジャンバーを脱ぎ
椅子をストーブの近くに寄せて
ストーブを付ける。

老犬も老人の側に寄りストーブの火に
身を寄せる。

一人と一匹で住んでもう何年になるだろう
誰も寄り付かない 山小屋みたいな
一軒家で、一人と一匹は、お互い身を
寄せ合い寒さを凌ぎ
寒さが身に染みる空白の孤独を
お互いの存在で補い合っている事を
二人以外 他の誰も知らない....。

1/10/2024, 10:49:52 AM

20歳

1月8日今日は成人の日
そして成人式だ

派手な晴れ着を着て精一杯のおめかしを
して 大人の仲間入りを果たしたと
自分に言い聞かせ大人ぶる。

友達とお互いの晴れ着を褒め合い
記念写真を撮ろうとスマホのカメラを
向ける。

しかしカメラを向けられて 無意識に
ピースサインをしてしまう所が
まだまだ子供だなあと自分で思う。

そして あの人にとっては、私は、いくつ
年を取ろうといつまでも子供なのだ。

「お~い!」呼びかけられて私は
振り向く 近所に住むあの人
成人式が終わり迎えに来てくれたのだ。

大きく手を振り ニカッと歯を見せて笑う
あの人 助手席に乗せてもらい
私の家まで車を走らせる。

「君も もう二十歳(はたち)か早いねぇ」
感慨深げにあの人は言う

「ねぇ 私も車の免許とろうかなあ...」と
唐突に私は、あの人にそんな事を言う

あの人は、笑って
「いいんじゃない 車を運転出来れば
いろいろな所に移動出来るし
自分の世界が広がるよ!
友達や家族をいろんな所に連れてってあげられるしね」

「....恋人もいろいろな所に連れてって
あげられるしね...」脈絡も無く私は、
そんな事を言う 言ってしまう....

(何を言ってるんだろう私は....)
少し気分が落ち込む

「そうかもしれないね!!だけど君の
彼氏になる人には、君に車に乗せてもらうんじゃなくて 君を車に乗せてくれる人を
僕は、希望するね!!」

ハンドルを握りながらあの人が言う
私は、思い切って
「貴方みたいな人が彼氏だったら私を車に
乗せてくれると思う?」

私は、上目遣いであの人を見る。

「そうだね まぁ僕のはただの送り迎えだけど... デートの行き帰りを送り迎えしてくれて 何より一緒に楽しんでくれる
大切な人が君に出来る事を僕は
願ってるよ!」 何の気なしにその人は
言う。

私は視線を外し...

「うん....そうだね ありがとう...」
窓の外を見ながらお礼を言う

そんな願いは、一生叶わないでと心の中で
願いながら....


あの人は、今三十二歳 
私は、今日やっと二十歳(はたち)

大人になろうがなるまいが あの人と
私の距離は、一生縮まらない

そんな現実を知る成人式なんて
大嫌いだ!!

(早く家に着いてよ!!)

心の中の子供っぽさをあの人に知られない
様にするのが今の私に出来る いっぱい
いっぱいの大人ぶる抵抗だった....。

1/10/2024, 1:41:57 AM

三日月

○月×日

月がニヒルに嗤った様な形の三日月が空に架かる。

闇夜に星々を鏤めて 月が悪戯を思い付いた子供みたいな顔で輝いていた。

そんな夜空に高く聳える尖塔を持つ城の中
大きな円卓の前で上等な椅子に座る
見目麗しい7人の青年がまるで会議でもするかの様に卓を囲んでいた。


青年達の背中には、それぞれ黒い翼が生えていた。

「やっぱり人間の血が一番美味しいよ!
こんなワイングラスに入った輸血パックの
血じゃなくてさ!」

ワイングラスを掲げて一人の青髪の青年が
言う

「口を慎めグエル人間の血を飲むのは
リスクが大きすぎる 我々の存在が
人間達に知られる恐れがある!!」

眼鏡を掛けた理知的な青年が窘める様に
グエルと呼ばれた青年に声を掛ける。

「アカーシャは、心配症だなあ人間が
僕達のスピードを視認できる訳ないじゃん
それに命を奪う訳じゃない少しお腹を
満たす為に摘まむだけだよ!!
虫に刺された位にしか人間は感じないって」

グエルの声を増長させるように黄色髪の
青年がそれに応える。

「僕もバーナードの意見に賛成
アカーシャは頭 固すぎ
僕どうせ血を飲むなら人間の女の子の血が
良いなあ柔らかくて美味しそう!」

手を挙げながらバーナードに同意する 
赤髪の青年

「お前は、軽薄すぎるサラマンダー
そんなんじゃいつか血を流す事になるぞ!!」
アカーシャが今度はサラマンダーを窘める。

そんなアカーシャの警告を
大笑いする声が聞こえた。

「アッハハハァ 吸血鬼が血を求めて
血を流すってアーちゃんそれギャグ?
笑い取りに行ってんの 俺様 腹が捩れて
死にそう~」

卓に足を投げ出して腹を抱えて大笑いする
紫髪の青年

「黙れヴァルドそのまま死んでもらって
俺は一向に構わんぞ!」

ヴァルドの茶々にとうとう怒声を上げる
アカーシャ

皆がやいのやいの言い始め 段々会議の体を成さなくなった部屋にボソッと小さな声が二つ聞こえた。

「ねぇ....」「ちょっと....」銀髪の髪の
顔立ちがよく似た二人だった。

「ん?何だ カイル カイン?」二人の声を聞き取ったアカーシャが声を上げる。

「これ...」 「拾った...」二人が片手ずつ
持って広げたものは 人間達が通う
学校の新入生歓迎パンフレットだった。

それを見て目を輝かせたのは、
グエル バーナード サラマンダーの
三人だった。
「何これ?」「楽しそう!」
「女の子いっぱいいそう!」

「此処...」「行きたい...」カイン カイルが控えめに口を挟む

「面白そうじゃん!」ヴァルドも
乗り気だった。

唯 一人アカーシャだけは...

「待て 待て 人間の学校に行くだと
そんなの本末転倒だろう自ら危険に
飛び込むなど...」

「あっそう じゃあ アーちゃんは
行かないって事で!」

ヴァルドがアカーシャに向かってひらひらと手を振る。

「....馬鹿言え そんな事をしたら
すぐに正体がバレるだろう 俺も監視の
為に付いて行く!」

そう言ってアカーシャも椅子から立ち上がる。

「素直じゃないアーちゃん可愛いい!」

ヴァルドの茶々をアカーシャは完全無視を
する。

こうして7人の青年は、秘密を抱えて
学校に通う事にする。

7人の秘密を知るのは 不気味に嗤う
三日月だけだった。

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