手を繋いで
がやがやと騒がしい喧噪
人混みの 間隙を縫って
僕は、君を捜す。
「夏祭りに行こうよ!」
そう言って 僕に夏祭りの
ポスターを差し出した君
毎年 夏に開かれる その花火大会
人混みが 予想されるそれに
僕は、最初は、行くのを渋っていた。
でも キラキラした君の笑顔をに
押され 僕は、渋々 了承したのだった。
スマホに掛けてみたが 何時まで立っても
出ない
決めておいた 待ち合わせ場所に
行ってみたが 来ない
僕は 二人で来たのを後悔していた。
せめて あと 数人のグループで
来て居れば もっと効率良く 人を
捜せただろう
あまり大事にしたくないが
警察に連絡しようか と
僕がそんなことを考えていた時
喧噪から 離れた 神社のお地蔵さんの
後ろに 蹲っている 人影を
見つけた 行ってみると 君だった。
「やっと 見つけた!」
僕が 呆れ声で言うと君は、
「えへへ ドジっちゃった。」
君は、頭を掻きながら 照れくさそうに
僕に向けて舌を出した。
見ると浴衣姿の君が揃いで 履いて来た
草履の鼻緒が 切れていた。
見ると 君の白い素足に 赤いマメが
出来ていた。
「はぁ~」と僕は、ため息を吐き
君の前にしゃがみ 背中を見せた
すると その態勢で なんのつもりか
分かったのか 君は、頬を赤く染め
「別に 子供じゃないんだから
おんぶなんてしなくて良いよ」
ぷいっと顔を背けて言う
「心配掛けさせた人が何言ってんの
ほら 早く乗って!」
僕が促すと君は、渋々と言った感じで
僕の首に 両手を絡ませ
僕の背中に乗る。
そうして 元来た道に踵を返し
僕達は、帰る事にした。
そして 道すがら 僕は、
思う
来年も 君は、懲りずに
同じ事を言うだろう
そして 祭りの 明明とした
電飾に 燥ぎ 色とりどりの屋台に
燥ぎ 花火に燥ぎ
僕の存在など忘れて 一人でいろいろな
所を 駆け回るだろう
だから 僕は、思うのだ
来年また 二人で 祭りに
出掛ける事になったら
最初から 君と手を繋いで来ようと
君は、また 子供じゃないんだからと
言うかもしれないけど
僕は、もう それだけは、譲るつもりは
無かった。
君の好奇心の手綱を引く為にも
君が居なくなる感覚を 感じない為にも
その代わりと言っては、
何だけど 来年 君が誘って来たら
僕は、渋々と言わず 即肯定を返して
あげよう
毎年 君は、僕が 最初に渋るのを
分かってて誘うのだから
他の友達も誘えば良いのにって
勧めるけど 内弁慶の君は、
家族と 幼馴染みの僕にしか素が
出せない
だから最初 僕は、いつも君からの
誘いを渋っていた。
そうすれば 君は、他の人を
誘うだろうと 踏んで...
だけど結果は、いつも同じで
僕が誘いを 最初に断ると 君は、
途端に 尻込みして 体を硬直させて
しまう
僕から 助け船を出そうと
他の子に声を掛けようとすると
君は、僕の袖を強く引いて 強く首を
振る為 結局誘えない
でも 夏祭りには、行きたい
でも 一人は、寂しい
何とも我が儘な幼馴染みの要望を
僕は、十二年間叶え続けて居る。
まぁ 特にそれに 不満は無い
君の幼馴染み離れを夢見ては居るが
それは、いつになることやら...
甚だ 見当も付かないが
子供っぽいくせに
手を繋いだり おんぶされたり
子供扱いされるのを嫌う君
本当面倒臭い
でも いつになったら 幼馴染み離れして
くれるんだろうと 思いながらも...
決して 急かそうとは、しない僕も
実は 大概なんだけどね! なあんて!
ありがとう、ごめんね
私は、膝を抱えて 土手の芝生で
泣きじゃくって居た。
涙が いくつも いくつも 瞳から
溢れて止まらなかった。
私はいつも 皆の輪を乱す。
皆が 右と言う所を 私は左と言い
皆の気分を害する。
順調に行っていた 円滑に進んでいた
物事を 私の一言が 全部
台無しにする。
だけど 私は、黙っては いられない
だって 確かに正しい事だって
寄って集って 正論をぶつけて
それしか 選択肢が 無い様に
狭められたら 他の選択肢が消えてしまう
分かってる 多数派が
正しい風に扱われる事は...
少数派の 私は、異物と認識されて
しまう事も... だけど...
「また 派手にやったなぁ~」
ふと 泣きじゃくっている 私の
後ろから 声が掛けられた。
瞳に 涙を溜めて 唇を噛み締めて
私が見上げると
ポンと 私の頭に大きな手が 置かれる。
「何で 此処に・・・」
私は、嗚咽を漏らしながら
私を見上げる 幼馴染みに問い掛けた。
これもまた いつものパターン
私がクラス内で 喧嘩をして
問題を起こすと 仲介役として
迎えに来るのが この私の幼馴染みだ。
私がいじけて 泣きじゃくる場所も
心得ているので 私が クラスの人と
口論して 学校を飛び出すと
必ず迎えに来るのが この
幼馴染みの役目になっている。
幼馴染みにいつも 迷惑を掛けているのは、自覚している。
その事には、罪悪感も持っている。
私は、幼馴染みに...
「ごめ.....っ」と言いかけ
「じゃあ帰るか!」
幼馴染みは、何でも無い様に
私の ごめんねの 言葉を遮る。
幼馴染みは、私を促す事もせず
背中を向けてゆっくりと歩調を
緩めて 私が 追いつける
速度で歩く
私は 涙を 手の甲で 拭い
立ち上がり 幼馴染みの
背中を ゆっくりと 追い掛ける。
そして 幼馴染みの 隣に 並び
さっき 遮られた言葉を...
「ありがとう!」に替えて
学校へと 二人で 戻って行った。
部屋の片隅で
部屋の片隅で 舞う埃
箪笥の隅に隠れてしまった。
片方の靴下 ペン 消しゴムなど
普段は、意識しない 部屋の端っこ
仕事納めの 師走の日
私達 一家は、大掃除を開始した。
部屋の隅に溜まった埃
糸クズ 髪の毛 クモの巣も張っていた。
ハタキで クモの巣を 払い落とし
畳を 茶殻を撒き 箒で掃く
網戸や 障子を 張り替え
床掃除 庭掃除 風呂掃除や
トイレ掃除も 普段の掃除より
念入りに 丁寧に
大掃除という 特別な日に限り
部屋の片隅を目にする。
家族 皆が 協力し 片隅を意識する。
綺麗にして あげるからね
いつも 迎えてくれてありがとう
これからも 行って来ますと
ただいまを繰り返し
必ず帰って来る場所
私達 家族を 迎えて 繋げてくれる場所
そうして ピカピカにして
また 部屋の片隅を閉じる。
そうして また来年 部屋の片隅を意識する。
お疲れ様と言って 綺麗にする為に
逆さま
パァン!! 一つの破裂音が 響いた。
気付くと 俺は、後ろ向きに倒れる様に
意識を失った。
目が 閉じられる寸前 視界がぐにゃりと
歪み 反転する。上と下が 逆さまに
なった様な 体が宙に浮いた様な
空間に ぐるぐると かき混ぜられている
様に感じられ 体の中にある臓器が
口から 飛び出そうだった。
銃で 額を撃たれ 見事に 貫通し
俺の額には、空洞が 穿たれ
俺は、死んだ。....
呆気ないと言えば それまでだし...
ロクでもない生き方をした 俺は、
案の定 ロクでもない
死に方をした。
所謂 その筋の 末端の末端だった俺は、
体よく 使い潰されたのだ...
こんな扱い この世界では
よくあること 上に 珍しく
褒められた 俺は 調子に
乗ってたんだと思う...
その 褒め言葉さえも あいつらに
とっては、俺を嵌める為の
仕掛けだった。
それに 気付かなかった
俺の落ち度だ
分かってる...
でも もし何かが 一つでも違っていたら
全く 逆の 違う人生もあったのかも
しれない....
ああ神様 もし 生まれ変わる事が
できるなら...
誰も傷つけず 身内に 迷惑を掛けない
世間一般の平凡な庶民として
普通に誰かを愛して 結婚して
子供も 生まれて 平和な家庭を築いて
夫として 父親として 誰かを
大切にできる人生を...
今とは、逆の...
逆さまな人生を 俺にください...
【反転・・・】
「パパ起きて!!公園に行くって
約束だよ!」
息子が 俺の腹の上で ダイブする
俺は その衝撃で目を覚まし
伸びをしながら起き上がる。
「ん~っそうだったな...」
「貴方 大丈夫 やっぱり 今日の
お出かけは、やめて 家でゆっくりする?」
妻が心配そうに 俺を覗き込んで言う
「あ~あ 大丈夫 何か 変な夢見て
ちょっと夢見が 悪いだけだから」
「パパ 早く~早く」
「こらっ急かさないのパパ疲れてるんだから!」
息子が 俺の腕を引っ張り促す。
妻がそれを見て 窘め 叱る。
俺は、その光景を苦笑しながら
そして 幸せを噛みしめながら
見ていた。
何故だろう...
俺は、この光景を 当たり前だと
感じず ずっと欲しかった物が
今 目の前にあると感じる。...
妻と結婚し 子供も小学生になり
結婚生活も 随分立つと言うのに...
「パパ!」
「貴方!」
「「行こう!!」」妻と息子の声が重なり
俺に 笑い掛ける。
「ああ...」俺は、立ち上がり
玄関のドアを開け
二人と共に公園へと向かった。
距離の続き
眠れないほど
「あ~あ明日どうしよう~」
私は、枕を抱えて
さっきから ベッドの上をぐるぐる
寝転んでいた。
外は、もう真っ暗だ
星々も輝いていて
街は、眠りに付こうとしている。
いい加減 私も寝ないと
明日に支障を来す。
しかし明日の事を考えると
頬が 火照って眠れない
でも 寝不足で目の下に隈でも
出来たら大変だし...
隣の席の 橘斎(たちばな.いつき)君
入学式で新入生代表の挨拶が静かで
丁寧で その時から 引き付けられて
目が離せなくて... 多分これが 恋と
言うものだと 初めて知った。...
あの時 初めて 話し掛けた。
「あの 一緒に 本の話しをしませんか?」
まさか向こうも おなじ台詞を
返してくれるとは、思わなかったけど...
それから ラインを交換して
そして 明日 一緒に図書館に
行く事になった。
「なのに~もう~眠れない...」
私は、両足をバタバタさせて悶える。
「どうしよう~」私は、無理矢理
目を閉じた。
「はぁ~ どうしよう~」
僕は、何回目かの ため息を吐いた。
どうして こんな事になった。
全くの 想定外だった。
でも、頭が行動を理解する前に
口から言葉が 飛び出ていた。
一瞬 自分の言葉が反響して
聞こえた。
どうやら なんの 偶然か
彼女も 僕の言葉に 被せる様に
同じ台詞を言ったと気付く
「一緒に 本の話しをしない?」
隣の席の 井上帆乃香(いのうえ.ほのか)さん
入学式の日 新入生代表の挨拶を
控えて居た僕は、酷く緊張していた。
口下手な僕は、何回も読む原稿の文字を
口の中で、繰り返し 噛まない様に練習をしていた。
原稿の文字に視線が 集中していた僕は、
他の事が 注意散漫となり 誰かと
ぶつかってしまった。
ドンッ 「すいません」
すぐに 顔を上げ 謝ろうとしたけれど...
その前に 僕の視線の先に さっき
読んでいた 原稿用紙が 丁寧に
折り畳まれて 差し出された。
「あの...これ...」おずおずと差し出された
原稿用紙を受け取り 僕は、顔を上げた。
「ありがとう!」僕が お礼を言うと
その子は、控えめな 笑顔を浮かべ
お辞儀をして 友達の声に振り返り
僕に背中を向けて去って行った。
僕は、初めて 第一印象で見た笑顔を
可愛いと思えた。
その子とは、あまり目が合わなかったので
多分 向こうは、僕の顔を覚えては、
居ないだろう。
でも 僕の方は、あの 控えめな
笑顔が忘れられなかった。
あの 笑顔を思い出すたび
頭の中で 可愛いと言うワードが
ループした。
入学式を終え 自分のクラスに行くと
あの子が 僕の隣の席だった。
びっくりしたけど 僕は、
話し掛けは、しなかった。
向こうは、僕の事を 覚えて居ないと
思ったから...
そうして...僕が この気持ちが 恋だと
気づくのは 入学式が終わった後の事
自己紹介で 彼女の名前が井上帆乃香さん
だと言う事を知った。
入学式から 随分立っても 僕は、
彼女に 話し掛けられずに居た。
だから 明日 彼女と出掛けられるのが
夢みたいで 未だに 実感が湧かない...
「はぁ~どうしよう~」
そうして、僕は、また 何度目かの
ため息を吐いた。
外は、暗い そろそろ眠りに
付かないと 明日 大変な事になる事は
分かっているけれど...
明日 寝不足で 遅刻なんかしたら
彼女に 迷惑を掛けてしまう...
僕は、最後の手段として 頭の中で
羊を数えてみる。
しかし 途中から 彼女の
笑顔に 変わってしまい
また ため息を吐く事になる。
「あ~あ もう」僕は、両手で自分の顔を
覆った。
今夜は、眠れる気がしない...
何度 眠りを 誘ってみても
頭の中で彼女の笑顔がチラついて...
眠れないほど彼女が好きだと
自覚するだけだった。...