夢と現実
ジリジリと照りつける
太陽を 頭上に浴びて
俺は、目を眇める。
ぐっしょりと濡れて汗染みを
作るYシャツを ボタンを外して
首元に風を入れる。
「はぁ~」俺は、公園のベンチに
座り ため息を吐く
肩を交互に ぐるぐる回し
凝り固まった 疲れを 解す。
営業課に 三六年勤める俺は、
この 営業回りの 仕事も
自分で 言うのは 何だが
板に付いてきたと思う。
新人の頃は、仕事を覚えるので
手一杯で 仕事のミスも多く
よく 上司に怒られ
そのたびに落ち込み
何度 辞めようか 思ったか知れ無い
それでも 入りたての頃は、
それなりに 夢や期待を持ち
仕事の意欲も 早く皆の役に立ちたいと
一生懸命に取り組んでいた。
それが 今は、どうだろう
仕事には、慣れた ミスも減った。
上司に 怒られる事は、減らないが
あの頃よりは、打たれ強くなったと思う。
けどあの頃の気持ちのままかと
いうと そうでも無い。
仕事も意欲や やる気と言うより
しなければならないと言う 抑圧に
変わっている。
嫌というわけではない。
生活が あるのだし
給料を貰っているのだから
働くのは 当たり前だし
年も取ったのだから
あの頃の気持ちのままというのも
おかしな話しだ。
だけど...
「先輩~」
俺が悶々と考えていると
元気な 後輩の声が俺の耳に
飛び込んで来た。
「先輩やりましたよ!契約
一個取れました!」
拳を握って 元気良く言う後輩に
俺は、苦笑した。
「先輩 どうしたんですか?
疲れたんですか
俺飲み物買ってきましょうか?」
「いや...大丈夫だ... ちょっと
お前が羨ましいなぁと思っただけだ...」
「何ですか それ?」
「いや...すまない...忘れてくれ
ちょっと嫌みっぽくなってしまったな...」
「しっかりして下さいよ!」
バシンと後輩が俺の背中を叩いた。
「弱音を吐くのは、良いですけど...
先輩には、いつも前を向いてて
貰わないと...
俺...先輩に憧れて この会社に入ったんですから... だから 先輩が前を向いてないと俺が 困ります。」
後輩の その言葉に 俺は、目を
見開いた。
後輩は、照れくさそうに
頬を掻きながら
「ほら 行きますよ先輩!」
俺に背を向けて走って行った。
「ああ...」俺は、返事をし
後輩の背中を眩しく見つめながら
その後を追い
二人揃って 会社に戻った。
さよならは言わないで
「よぉ!」
「何だ...来たんだ もう来ないかと
思ったよ...」
「来るさ 何たってお前の最期の
日だろう お前の 間抜けな
死に顔を拝める チャンスを
この 俺様が みすみす逃す訳ネェだろう」
そう言って 僕の唯一の親友は、
窓枠に寄り掛かり 無礼な挨拶をする。
「ほら 餞別だ 飲むぞ!」
そう言うと 僕の親友は、
片手に酒瓶を持ち 懐から 盃を二つ出し
一つを僕に差し出した。
「酒は、医者に止められて居るんだけどね...」
「うるせ~ もう おっ死ぬ奴が何言ってる!」
「別に 今すぐ 死ぬって訳じゃないよ
それは、あくまで 余命であって
確定じゃない...」
「何言ってんだ お前は、今日死ぬんだよ
じゃなかったら この俺様が わざわざ
人里まで 降りてきた 意味がネェだろうが いいか 絶対今日死ねよ!
今日死ななかったら 俺様がテメェを
ぶっ殺す!」
そんな 支離滅裂な破綻した事を言う
親友を 僕は、ため息を吐きながら
見上げる。
「死ぬ事に こんなプレッシャーを
掛けられるとは、思わなかったよ...
最期くらい 心穏やかに 静かに
逝きたいんだけどね...」
僕がやれやれと 肩を竦めると
すっと酒瓶が傾けられ 僕は、
苦笑し 渡された盃を酒瓶の口に置き
なみなみと注がれる琥珀色の液体を
見つめた。
僕は、その液体を 一口 口に含むと
飲み込んだ 五臓六腑に染み渡り
胸の中が 温かくなる。
僕のその 表情を見て 親友は、
ニヤリと口角を上げる。
そして、徐にカチンと僕の盃と自分の盃を
合わせた。
「またな 親友!!」
僕は、親友のその悪戯っぽい笑みを見て
笑った。
どうせ 僕が死んだ後は、僕の死に顔を
酒の肴にして もう一杯飲むのだろう...
僕の皺だらけの顔と 親友の若々しい
精悍な顔
もうすぐ死ぬ僕と これからも長い時を
生きる親友
人間の僕と 妖の親友
僕達二人の隔たりは、
確固たるものだった。
人間嫌いの親友と
妖が見える事に嫌気が差していた僕
どちらが どう声を掛けて 友情を
結んだのか...
きっかけは お互い判断が付かないけど...
だけどこれだけは、最初から分かっていた事
僕は、どう足掻いたって 親友より先に
死ぬという事
だから 僕は、親友と約束をした。
約束というか 一方的な僕のお願いに
近いのだけど...
「僕が 死ぬ時は さよならは言わないで」 そうして 半ば 懇願する様に
頭を下げて頼めば
親友は、ニカッと笑って
「お前の 死に顔を見ながら 酒を
飲めるとは、最高の贅沢だな!」と
僕が 拍子抜けする様な事を
何でも無いような顔で言うので
僕は、深刻になって居た気持ちが
吹き飛び 思わず笑ってしまった。
そうして 親友との最期の語らいを終え
僕は、安心して あの世へと旅だった。
光と闇の狭間で
○月■日
今日は、大人気RPGゲーム
『光と闇の狭間で』の発売日だ。
僕 卓也(小4)も まさに
そのゲームを買う為に今行列に
並んでいる。
母親や父親のお手伝いをして
コツコツ貯めたお小遣いを
握りしめ 整理番号の紙を見つめ
僕の分までは、回るはずだと
頭の中で計算しつつ 今か今かと
待ち続けた。
『光と闇の狭間で』このゲームは、
主人公が 二つの人格を持っている。
光の人格 ミハイルと
闇の人格ルシュハー この二つの
人格に主人公は、葛藤しながら
ゲームは、進んで行く
戦闘画面では、光の力と闇の力を
状況によって駆使し使い分ける事で
ゲームが進んで行く
そんな光と闇 善と悪みたいな
相反する対比が受けて
今や 大人 子供 関わらず大人気だ。
シリーズ化するのも納得と言われている。
そんな事を考えている内に
僕の番が来た。
真新しいパッケージを受付の人から
手渡され 僕は、両手を震わせ
落とさない様にしっかりと握った。
僕は、瞳をキラキラ輝かせ
格好いいパッケージを眺めながら
大切に抱え込み 家路へと歩いて行った。
距離
隣の席のあの子との...
隣の席のあの人との...
温もり一つ分の間が いつも埋まらなくて
縮めたい気持ちもあるのに...
勇気が出せなくて...
僕は、あの子が友達と喋っている時
いつも 本を読んで 窓際に視線を置く
私は、あの人が読書をしてる時
横を向かない様に 友達の話しに
集中する。
でもある日...
「ねえ 君いつも何の本読んでるの?」
私の友達が 私と喋ってる途中に
あの人に話し掛けた。
私の肩は、無意識にぴくりと上がる。
「別に... 只のミステリー小説...」
突然 話しを振られ 僕は、
おもわず素っ気なく返してしまった。
横を向くとあの子と 目が合いそうだった
ので 自然 目線は、あの子の
友達の方を向く
「あっこの小説ってあんたが好きな
シリーズじゃ無かった
確かあんたも読んでたよね!」
友達が 私に話題を振る
私は、いっぱい いっぱいで...
「う うん、」と首を馬鹿みたいに
縦に振る事しか出来ない...
あの子が頷いたのを横目で見て
僕は、思わず 肩を小さく震わせた。
当然だ あの子が好きだと
横で話していたのを聞いていたんだから...
だから 読み始めたのだから...
途端 あの子と あの人と
目が合った。
僕は...
私は...
「「あのっ!!」」
声が重なった。
それから...僕達が... 私達が...
どうなったかというと....
一緒に 図書館に出掛ける距離までには
到達した。・・・・
「泣かないで」
そう伝えたいのに...
もう声が出ない...
貴方の 泣いている顔がぼやけて
視界が、霞む
(ごめんね...) もっと 貴方と
一緒に 過ごしたかった。
貴方の 隣に居たかった。
貴方の顔に手を伸ばす事も
もう 出来ない...
心電図が ピッ ピッと 不規則になる。
呼吸が だんだんと 苦しくなる。
浅く息を吐くのも 難しい
最期にこれだけは、貴方に
伝えたい
(愛してる...)
声にならない声で私は、呟く
ああ...最期まで 泣かせて
心配掛けてばっかだったね...
バイバイ 私の愛しい人
ピーーーィ心電図が 長い電子音を
響かせ 私は、この世を後にした。