さよならは言わないで
「よぉ!」
「何だ...来たんだ もう来ないかと
思ったよ...」
「来るさ 何たってお前の最期の
日だろう お前の 間抜けな
死に顔を拝める チャンスを
この 俺様が みすみす逃す訳ネェだろう」
そう言って 僕の唯一の親友は、
窓枠に寄り掛かり 無礼な挨拶をする。
「ほら 餞別だ 飲むぞ!」
そう言うと 僕の親友は、
片手に酒瓶を持ち 懐から 盃を二つ出し
一つを僕に差し出した。
「酒は、医者に止められて居るんだけどね...」
「うるせ~ もう おっ死ぬ奴が何言ってる!」
「別に 今すぐ 死ぬって訳じゃないよ
それは、あくまで 余命であって
確定じゃない...」
「何言ってんだ お前は、今日死ぬんだよ
じゃなかったら この俺様が わざわざ
人里まで 降りてきた 意味がネェだろうが いいか 絶対今日死ねよ!
今日死ななかったら 俺様がテメェを
ぶっ殺す!」
そんな 支離滅裂な破綻した事を言う
親友を 僕は、ため息を吐きながら
見上げる。
「死ぬ事に こんなプレッシャーを
掛けられるとは、思わなかったよ...
最期くらい 心穏やかに 静かに
逝きたいんだけどね...」
僕がやれやれと 肩を竦めると
すっと酒瓶が傾けられ 僕は、
苦笑し 渡された盃を酒瓶の口に置き
なみなみと注がれる琥珀色の液体を
見つめた。
僕は、その液体を 一口 口に含むと
飲み込んだ 五臓六腑に染み渡り
胸の中が 温かくなる。
僕のその 表情を見て 親友は、
ニヤリと口角を上げる。
そして、徐にカチンと僕の盃と自分の盃を
合わせた。
「またな 親友!!」
僕は、親友のその悪戯っぽい笑みを見て
笑った。
どうせ 僕が死んだ後は、僕の死に顔を
酒の肴にして もう一杯飲むのだろう...
僕の皺だらけの顔と 親友の若々しい
精悍な顔
もうすぐ死ぬ僕と これからも長い時を
生きる親友
人間の僕と 妖の親友
僕達二人の隔たりは、
確固たるものだった。
人間嫌いの親友と
妖が見える事に嫌気が差していた僕
どちらが どう声を掛けて 友情を
結んだのか...
きっかけは お互い判断が付かないけど...
だけどこれだけは、最初から分かっていた事
僕は、どう足掻いたって 親友より先に
死ぬという事
だから 僕は、親友と約束をした。
約束というか 一方的な僕のお願いに
近いのだけど...
「僕が 死ぬ時は さよならは言わないで」 そうして 半ば 懇願する様に
頭を下げて頼めば
親友は、ニカッと笑って
「お前の 死に顔を見ながら 酒を
飲めるとは、最高の贅沢だな!」と
僕が 拍子抜けする様な事を
何でも無いような顔で言うので
僕は、深刻になって居た気持ちが
吹き飛び 思わず笑ってしまった。
そうして 親友との最期の語らいを終え
僕は、安心して あの世へと旅だった。
12/4/2023, 12:53:23 AM