距離の続き
眠れないほど
「あ~あ明日どうしよう~」
私は、枕を抱えて
さっきから ベッドの上をぐるぐる
寝転んでいた。
外は、もう真っ暗だ
星々も輝いていて
街は、眠りに付こうとしている。
いい加減 私も寝ないと
明日に支障を来す。
しかし明日の事を考えると
頬が 火照って眠れない
でも 寝不足で目の下に隈でも
出来たら大変だし...
隣の席の 橘斎(たちばな.いつき)君
入学式で新入生代表の挨拶が静かで
丁寧で その時から 引き付けられて
目が離せなくて... 多分これが 恋と
言うものだと 初めて知った。...
あの時 初めて 話し掛けた。
「あの 一緒に 本の話しをしませんか?」
まさか向こうも おなじ台詞を
返してくれるとは、思わなかったけど...
それから ラインを交換して
そして 明日 一緒に図書館に
行く事になった。
「なのに~もう~眠れない...」
私は、両足をバタバタさせて悶える。
「どうしよう~」私は、無理矢理
目を閉じた。
「はぁ~ どうしよう~」
僕は、何回目かの ため息を吐いた。
どうして こんな事になった。
全くの 想定外だった。
でも、頭が行動を理解する前に
口から言葉が 飛び出ていた。
一瞬 自分の言葉が反響して
聞こえた。
どうやら なんの 偶然か
彼女も 僕の言葉に 被せる様に
同じ台詞を言ったと気付く
「一緒に 本の話しをしない?」
隣の席の 井上帆乃香(いのうえ.ほのか)さん
入学式の日 新入生代表の挨拶を
控えて居た僕は、酷く緊張していた。
口下手な僕は、何回も読む原稿の文字を
口の中で、繰り返し 噛まない様に練習をしていた。
原稿の文字に視線が 集中していた僕は、
他の事が 注意散漫となり 誰かと
ぶつかってしまった。
ドンッ 「すいません」
すぐに 顔を上げ 謝ろうとしたけれど...
その前に 僕の視線の先に さっき
読んでいた 原稿用紙が 丁寧に
折り畳まれて 差し出された。
「あの...これ...」おずおずと差し出された
原稿用紙を受け取り 僕は、顔を上げた。
「ありがとう!」僕が お礼を言うと
その子は、控えめな 笑顔を浮かべ
お辞儀をして 友達の声に振り返り
僕に背中を向けて去って行った。
僕は、初めて 第一印象で見た笑顔を
可愛いと思えた。
その子とは、あまり目が合わなかったので
多分 向こうは、僕の顔を覚えては、
居ないだろう。
でも 僕の方は、あの 控えめな
笑顔が忘れられなかった。
あの 笑顔を思い出すたび
頭の中で 可愛いと言うワードが
ループした。
入学式を終え 自分のクラスに行くと
あの子が 僕の隣の席だった。
びっくりしたけど 僕は、
話し掛けは、しなかった。
向こうは、僕の事を 覚えて居ないと
思ったから...
そうして...僕が この気持ちが 恋だと
気づくのは 入学式が終わった後の事
自己紹介で 彼女の名前が井上帆乃香さん
だと言う事を知った。
入学式から 随分立っても 僕は、
彼女に 話し掛けられずに居た。
だから 明日 彼女と出掛けられるのが
夢みたいで 未だに 実感が湧かない...
「はぁ~どうしよう~」
そうして、僕は、また 何度目かの
ため息を吐いた。
外は、暗い そろそろ眠りに
付かないと 明日 大変な事になる事は
分かっているけれど...
明日 寝不足で 遅刻なんかしたら
彼女に 迷惑を掛けてしまう...
僕は、最後の手段として 頭の中で
羊を数えてみる。
しかし 途中から 彼女の
笑顔に 変わってしまい
また ため息を吐く事になる。
「あ~あ もう」僕は、両手で自分の顔を
覆った。
今夜は、眠れる気がしない...
何度 眠りを 誘ってみても
頭の中で彼女の笑顔がチラついて...
眠れないほど彼女が好きだと
自覚するだけだった。...
12/5/2023, 2:37:48 PM